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42.カルヴァドスの鎌



 ゴブリン。数が多く、作物は荒らすし女は攫うし、狂暴で悪知恵が働く緑色の人型魔物だ。


 いなくなって困る人もいない。そこで、ぼくたちはゴブリンを相手に効率的で自然な闘い方を探ることにした。


 まず巣穴の洞窟の前でアンジェリスの催淫によりゴブリンを引き寄せる。夕方ともなると動きが活発になるようで入れ食い状態だ。手に棍棒や剣を持ち、よだれを垂らしながらゴブリンたちが這い出てきた。


 前衛にルカとロラス。後衛でぼくとアンジェリス。


「気持ち悪っ!」

「ええ!? 私を盾にしないでよ」


 ルカはロラスの肩をがっちり掴んで盾にしている。なんてひどいことを!

 ぼくは支援しようと後ろから、手ごろな石を投げつける。


[キュウィン]


 石は巣穴から出てきたゴブリン頭を貫通していく。


「ご主人様、さすがでございます」


 メイドによいしょされてぼくは気を良くしてどんどん投げた。


「ちょちょちょ、待ってぇ~!! 怖いぃ! ゴブリンより君たちの方が怖いよぉ!!」

「ゴブリン多すぎでしょ。ほらほらロラスも戦って」

「う、うわぁ、もうなるようになれだ!!」


 

―――数分で巣穴からゴブリンを一掃できた。


「はぁはぁ、死ぬかと思ったヨ」

「だらしないな。そんなことでは私たちに付いて行けないぞ」

「いえ、曲がりなりにも付いて行っているロラス様も異常です」


 ロラスの戦い方はとても華があった。弓とスキルを駆使した遠距離攻撃と、風魔法と華麗な格闘術で確実に仕留めていった。

 

「ゴブリン程度だと前衛二人も要らない、と言うか、やっぱりこのフォーメーションは良くないよぉ」


 問題はルカだ。後ろから見ていて完全に彼女だけ役割が宙に浮いている。たまに飛んでくる石や矢を払っていた。でも彼女は盾に徹したわけでもない。ロラスが攻撃も盾も兼ねていた。あれなら居なくても……。


「そんなこと言ってもさぁ、直接触れないじゃん、あんな気持ち悪いの」

「前衛やる気ないじゃん」

「ルカちゃんこそ、何か武器を使う気は無いの? そのままでも信じられないくらい強いけど」

「う~ん、まぁあえて使うというなら大きい鎌かな」


 意外だ。人には剣だ、魔法だと勧めておいて、農具なんて渋いものを選ぶとは。


「鎌? 戦闘でかい……?」

「そう、デスサイズ。ん、何かおかしい?」

「あまり使ってる人は見たことないなぁ。だって―――」


 鎌は基本的に農具で、大きな鎌は実際の戦いには向かないらしい。大きい割に有効攻撃範囲が狭く、敵が近くにいないとダメージが通らず、変則的な攻撃になるため連携も取り辛い。あと農具の鎌は刃が柔らかくできてるからモンスターには刃が立たないらしい。なにより、鎌の扱いに関するスキルを持っている人がいないという。


「しゅん……しょぼーん」

「いやぁ、別にダメって言ってるわけじゃないよ?」


 なんだか、鎌に特別な思い入れでもあるみたいだ。

 仕方ないな。


「ルカ、そのゴブリンの武器集めて」

「え? うん……………なんで?」


 ルカがわがままを言うので、作ってやった。

 まずゴブリンの武器でそこそこいい品質のものからそれっぽい刃を何本か取り、いい感じの木を削って持ち手を作った。火魔法で溶かした金属を掛けて即席大鎌の出来上がりだ。


「禍々しいぃ! あっはっは、これをルカちゃんに持たせるの?」

「これは……大きすぎませんか?」

「え、そう?」


 ルカに持たせてみたらしっくりきているよ。


「ああ、片手で持てるんだねぇ」

「意外と似合いますね」

「持ち手だけで二メートルはあるし、刃がなんでこんなにたくさんあるんだい?」

「この方が一振りでたくさん狩れると思って」


 八本刃を付けた。デスサイズと言われても見たことないし。ちゃんと説明を聞いて戦闘で使えるように作ったつもりなんだけど、ダメか。


 しゅん……しょぼーん。


「ありがとうコル君。大切に使うね」

「え、いいのそれで?」

「……ちょっと振ってみる」


 ルカが構えるとやっぱりしっくりくる。

 



「えい!」



 驚いたことに、ルカの目の前の木々が左右にメキメキとなぎ倒されていった。


「す、すごい! スキルも使わずに破壊衝を放つなんて」


 すると音に引かれて来たのか、アンジェリスに引かれて来たのか、大きなイノシシのモンスターがこちらに突撃してきた。


「よーし、試し切りしてみよう」


 イノシシモンスターは勢いを止めることなく突進してくる。ルカはくるりと回りながら軽やかに遠心力を付けて、下から掬うように正面から撃ち払った。モンスターは縦に細切れになりながら来た方へ吹き飛んだ。


 攻撃の後、八本の刃が振動で共鳴してキィキィと鳴いているようだ。


「今のは烈破斬だねぇ。これまた高等技術だ」

「意外と丈夫だし気に入ったよ! ありがとうコル君!!」


 肩に担ぐ様は女性らしいルカとアンバランスなのになんとも勇ましくてかっこいい。


「じゃー、私は後方だねぇ」


 ロラスは安堵の表情を受けべながらしれっと前衛を辞退した。


「なんでよ、裏切りもの!!」

「だって、横でそれを振り回されたら怖くて戦えないよね?」

「確かに」

「無理ですね」

「なんてこった。まんまと嵌められた。これが年の功か」


 再びゴブリンの巣穴を探し、実験。


 これが大成功だった。基本的にぼくとロラスが後方から攻撃すれば、打ち漏らしはほとんどない。ルカは案外前衛の方がやることが無くなって楽だと開き直った。それに振るうほどにルカはその扱いにどんどん慣れていった。たぶん、元々相当扱い慣れている。頑丈で太い刃と鋭くて長い刃が八振りも付いているのに、軽々と扱う。まるでバトンでも操るように華麗に。ロラスと違うのはその立ち回りの結果が凄惨たるものだということだ。キィキィという独特な音を聞くとゴブリンたちも恐怖で顔を引きつらせていたように思える。


 彼女が一度それを振れば三十から四十程の群れが一瞬でバラバラになった。

 

「よし、じゃあ大物を仕留めようゼ!!」

「この辺りにいるのかな?」

「まだやるんですか?」

「まだやるんだね。ルカちゃんの体力は無限なのかな?」


 谷に沿って結構歩いたけどそれらしい気配はなかった。


「あ、こっちこっち」


 ロラスには何かわかるみたいで、少し山の中に入った。たぶん森の観察から状況を把握している。こういうことも教えて欲しいんだけど、今は大物さんだ。おや―――


「―――血の匂いだ」


 ゆっくりと近づいていく。すると人影らしきものが見えた。でもそれは巨大なクマ型のモンスターの腸に顔をうずめて、貪っていた。


 全身が青い。


「うっ、ブルーゴブリンだ」

「本当だ青いね。それに背が高い」


 見た目はゴブリンとは似ても似つかず、体格は人に近い。


「ゴブリンの亜種ですね」

「よーし、私がやってやる」

「あ、ルカちゃん待って!」


 ルカがロラスの制止を聞かず飛び出した。


「亜種のスキルを甘く見ないで!」


 飛び出したことでブルーゴブリンはこちらに気が付いた。

 一目見て、振り向いた顔が異常だと気が付いた。目が顔に無数にある。


「およ?」

「あ」


 ぼくの眼には魔力を含んだ眼光がルカを捕らえたところが見えた。あの目は何かの魔眼だろう。警告か、陽動、攻撃……魔眼の効果が表れる前にどうにかしようと考えたその時、ルカの持ったデスサイズがその視線を魔力ごと斬った。


 視線を斬ったと分かったのは何となくだけど、斬られていないのに、ブルーゴブリンは大きく怯んだ。六つの眼は焦点を失いルカを見失ったみたいだった。



 その隙にルカは直接ブルーゴブリン目掛けてそれを振りぬいた。


 同時にロラスが矢を射った。黒い布がついていて脳天に突き刺さったことで目を覆った。


 次の瞬間にはブルーゴブリンの肉体はバラバラに細切れになっていた。


「ありがとうロラス。私一人でも倒せたけど」

「そうじゃないよぉ。倒した後も大変なの。まだ魔眼が発動しているからね」

「魔眼持ちと戦うときは視界を塞ぐことにとても苦労すると聞いたことがあります。ロラス様はさすがです」

「ふ~ん、そうなんだ」


 これは反省しないとダメだな。


「今度からちゃんとロラスの指示を聞いてから動こうね。ね?」

「はい、すいません」


 とはいえ、所詮ゴブリンだ。何かの魔眼の効果があっても多分『治療・大』で治せるだろうし、目が気持ち悪いだけで大した脅威はぼくも感じなかった。

 

「まぁ、結果オーライで倒せたし、その程度だってことでしょ」

「ブルーゴブリンの眼玉は一個20,000ソロスだよ」

「……えええええ!! じゃあ、これ六個あるから120,000ソロス!?」

「私ならそれぐらいの値段を付けて買い取るねぇ。この魔眼で治療薬が作れるし、武器の素材にしてもいい。魔石も良質で高濃度の魔力を含んでいるから、50,000ソロスはするね」


 聞いたことない単位だ。多分庭付きの家が買える。


「いやぁったぁ!! 小金持ちだ!! 早く、街に行こうよー!!」

「すごいねぇ……ブルーゴブリンは皮膚も固いから刃物が通らないはずだけど」

「え? 全然サクッと斬れたよ」

「ゴブリンが冒険者からはぎ取ったなまくらでなんで?」


 確かに、多少はまともなものを選んだけど、所詮は魔物が持っていたもの。錆だらけで刃こぼれしていた。どうせその場しのぎのおもちゃみたいなものだと思って、一々刃を砥いだりもしていない。


「ねぇ、それ見せて」

「うん」


 ぼくが作った時よりも明らかに刃こぼれは少なく、錆も落ちてる。それに微妙に形が変わっている気がする。


「だって私の武器だもの。私が持っている武器がなまくらな訳ないでしょ?」


 そんなかっこいいこと言っちゃうのか。


 自分が持てば全て名刀になるってことか。でも実際そういう精神論じゃなく、本当に名刀と化しているかもしれない。なんでだろう?


「コルベット様が作ったからではないでしょうか?」

「うん、そうだね。もう驚かないよね」

「ええ、ぼくは何もしてないよ、本当に!!」


 これはきっとルカの方だよ。二人ともぼくを規格外みたいに言うけど、ルカだって相当なものだよ。

 それかもっと違う理由とか?

 武器をよく見ると、魔力が宿っている。


 なんだろう。ゴブリンの怨念か、元の持ち主たちの無念か。


 まぁ、ルカが気に入っているなら別にいいか。

 

「でも、それ持って荷台には乗れないですよね」

「重すぎるよ。ルカちゃんは歩きだね」

「ああ、大丈夫」


 何がだよ、と思ったら、持っていたはずの武器が消えた。

 いや、ぼくには見えるから、武器だけ霊体化したのか。


 そうそう、だからぼくよりもルカの方がおかしいんだって。



特になし。

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