40.赤き者暗きに浮かびし眼かな
山にはいって二日目の夜。だいぶ進んで谷に差し掛かった。谷の手前にも山小屋があり、そこで一泊。みんなでご飯を食べていた。焚火を見るとおしゃべりになる理屈でもあるのか、女の子が三人もいると話題に尽きない。今回の話題は奥さんにするなら誰かだった。まぁその話は全力でお茶を濁した。ご飯を食べ終わって片付けようとしたとき、改まって今後の予定の話題になった。
「お金を稼ごう」
唐突に話題を放ったのはルカだ。
「確かにお金は大事だと思うけど、そんなに無いの?」
「4,000ソロスあるわ」
十分あるんじゃないかな。迷宮で屋台を開いた時の売り上げはほとんど手をつけてないし。
「ロラスは?」
「お金の心配はしなくていいよ。手持ちは10,000ソロスだけど、銀行に―――」
「だめよ! 女の子の貯金を充てにするなんてダメ!」
「別にいいのに〜。養ってあげるよ」
そう言ってロラスはぼくの頭をなでる。そう言われるとなんだかそれもいいかもしれないと思うと同時に、それを認めたらいけない気もする。
「ロラス様は男をダメにするタイプですね」
「え、ひどい、なんでー!?」
「ねぇ、ロラス? そこはフェアに行きましょう? あなたが今後お財布代わりの都合のいい女になりたいなら話は別だけど」
「はいはい……本当に使い道ないからいいのになぁ」
実際、お金って何に使うんだろう。そんなにたくさん必要かな?
「三人とも乗る気じゃないみたいね。分かった、正直に言うわね。私は旅先の素敵なアクセサリーやお洋服を買って、地元の名産品を使った料理を食べて、景色の良いホテルのいい部屋に泊まって大きなお風呂に入って、最高級の地酒を飲んで、ふかふかのベッドで眠りたい!!!」
「貴族かよ!」
我欲全開だ。
思わずツッコんだ。
そんな生活できるはずが―――
「意外とすぐ飽きるよ?」
「経験者!?」
ロラスがそんな貴族みたいな生活を? もっと隠者みたいな暮らししてきたと思ってた。
「まぁ、黄金級がそういう待遇になっちゃうんだよね。でも結局そういうご褒美って時々だからいいのであって、毎日とかだとありがたみも減っちゃうんだよね」
そういうものか。
「あの、ご主人様はもう少し贅沢をされてもよろしいかと」
「なんで?」
「その、お召し物が……」
「そう、見た目も大事なんだよ。人は相手の着てるもので態度が変わる。少なくとも今の私たちは街に入ったら浮くよ」
確かに、そう言われるとこのまま着古した作業服みたいので彼女たちと歩くのは目立つかもしれない。ルカにもらったローブくらいしかまともな服がない。
「服だけじゃないよ。お金を稼ぐ手間より、無いことの苦労や煩わしさの方が大きいよ、きっと」
「はいはい、いい旅がしたいってことだね、ルカちゃんは」
ロラスがルカの頭を撫でた。
興奮気味のルカがスッと大人しくなった。
「行きがかりで採集できそうなものは採集するって話だよね。でも、お金になりそうなものはあんまりなかったよ」
食べ物はちらほらあったけど、山道を進んでいて宝箱が転がっているなんてことは無い。
「ここからが勝負よ。あの帝国兵が言ってたでしょ。この先の谷はモンスターだらけだって。魔石はかなりのお金になるし、簡単に稼げるぞー!!」
「でも、持って行ける魔石の量は限られるよ。この先にも山があるし、荷物が増えたらエミリーが耐えられないよ」
「だから、計画を練って、大物を狙う!!」
「ロラスはどう思う?」
「モンスター以外にもお金になるものはあるけど、確実じゃないしね。うん、まぁ、これから先に進むにあたって役割分担も確認出来ていいんじゃないかな」
「アンジェリスは?」
「私はご主人様のご判断に従います」
先行きが見えないし、とりあえずは旅の資金を集めて備えるということで、モンスターを狩るということになった。
「でも何を狙うの?」
具体的に大物とは何だろう。ちらっとロラスを見た。
「あはは、何々? 私が知ってるかって? この辺りは管轄が違ったから知らないんですよね」
「じゃあ、ちょっと見て来るよ」
その方が早い。夜はアンジェリスが起きているから平気だよね。
◇
谷へ降りていくと、沢に出た。『索敵』をするとすぐにモンスターらしき集団がうごめいているのを発見。
何やら、ゴブリンにテントが囲まれているみたいだ。そりゃそうだ。モンスターだらけの中でテントを張ったら襲われる。襲われている方は四人だ。一方ゴブリンはステータスオープンで見たところ大したレベルではない。
===ステータス===
■ゴブリン(14)
・種族:魔物
・レベル.8
・体力:C 魔力:C 精神力:F パワー:D スピード:E 運気:F 器用度:C
・スキル
C:『棍棒・初』
E:『気配察知・小』
それでも数が多いので今にも死にそうだ。
さてと、ヒーローになりますか。
「ゾンビタックル!!」
説明しよう。ゾンビタックルとは痛みや恐怖を感じないことを逆手に取ったただの特効である。ただ、ぼくがやるとモンスターが一瞬でバラバラになる。一気に大量のモンスターを倒せる、手っ取り早い方法だ。
うわぁ、返り血浴びまくちゃった。アンジェリスに怒られそう。ゾンビタックルは封印しよう。
「うわぁ、化け物!!」
ウルトラショック!!
久しぶりに化け物扱いだ。ゴブリンと必死に戦っている時よりも絶望的な表情をしている。でも冷静に見れば今のぼくは人間とほとんど変わらないし、ちゃんと服を着ているから味方だと分かるはずだ。
あれ? 山がまた静かになった。他のモンスターの気配も消えた。ああ、『潜伏』が解けたのか。いけないいけない、普通の人ぐらいの気配を保つのは結構難しいな。
よし、これでオッケイ。これなら会話もできるはず。あれ?
冒険者たちは一目散に逃げていった。
いや、そっちにモンスターいるんですけど!?
「おーい、待ってー!!」
「うわぁ、来るな!!」
「ぎゃあ、挟み撃ちされた!」
「助けてー」
オオカミ魔獣に襲われてる。
もう、だから!!
「走り回るな!!」
ぼくの『威嚇』で冒険たちとオオカミ魔獣が動きを止めた。
オオカミ魔獣たちをそのまま見ていたら、ぱたりと倒れていった。
し、死んでる。
「おい、君たちは平気なの?」
四人とも死んでいた。
あ、いや違った。気絶しているだけみたいだ。
そんなにぼくは怖いか。そうか……。
「どうしよう」
そのまま放置するわけにもいかないので沢に張ってあったテントと荷物を回収して四人を運んで山を駆け登った。やっぱりこっち側の山にも谷に入る前に山小屋があってそこに放り込んだ。
これでよくわかった。モンスター狩りをするにしても他の冒険者がいるかもしれないんだ。一緒になるとかなり面倒みたい。
ちらっと見たが全員持っているギルドプレートは【赤鉛】。つまりみんな駆け出しの素人みたいなものだ。
駆け出しがこんなところまできていいのかな? そこらへんロラスに聞いてみよう。
様子見に来たのに、精神的にダメージを負ったからもう戻らないと。
沢を挟んで対面にある山までジャンプしみんながいる山小屋に戻った。
「コルベット様、お仕事を下さってありがとうございます」
血のりでべったりのぼくの格好を見てにっこりと笑うアンジェリス。
「いや、いいいいいいよ。自分で―――」
「そうは参りません。奴隷が主の衣類をご自身で洗わせてしまったら何のためにいるというのですか」
「はい」
申し訳程度にお水は火魔法で温めた。
どうしたものか。ありふれていて、気配を漏らさずにできて、返り血を浴びない戦い方なんてないものかな。
ちなみに、冒険者に死ぬほど怖がられた話をアンジェリスにしたら、そりゃそうだという反応をされた。
「目が怖いのです。瞬きをして下さい」
「うん、そういうの気付いたら言ってよね」
ルカ:「家族に例えるならコル君が旦那様♡ アンジェリスが子供 ロラスはおばあちゃん」
アン:「コルベット様が弟、ルカ様が姉、ロラス様は母でしょうか」
ロラ:「コルベット君が甥っ子、ルカちゃんは妹、メイドちゃんは従妹かな」
コル:「ぼく家族いたことないからよくわからない」
コルの眼は死んだように虚ろで、思わずルカは話題を変えた。




