31.都合の悪い真実
夜、ぼくは眠らないので一人で書庫にいた。厳密には神様と二人だけど。元々はぼくを殺せるスキルの手がかりを求めていたけど、神様がいるのだから聞けば早い。
そう思ったら、これが結構面倒だった。
《コルベットを殺す方法? ううえぇぇ、なんでそんなこと聞くの?》
神様はしゃがみ込んで手で顔を覆い、声を震わせる。
これの繰り返しだ。寸分違わず同じ動作をするから本当に泣いてるのか演技なのかわからない。
《―――グスングスン。どうしてもっていうなら、人間に戻る方法を教えてもいいよ》
「ほ、本当!?」
《うん、お願い聞いてくれたらね! でも今お願いすることないから今度だよ》
多分、彼女を『お願い』を叶え、代わりにこちらの願いを叶えてもらうというのが「ゾンビニ」の特性なのだ。でも『お願い』には条件があるらしい。
とにかく、今は待つしかない。その間、やっぱりスキルを探すことにした。
ぼくが探しているのはスキルを封じ込められた魔本だ。でも、やはりこの書庫にはない。何となくわかる。あの本の放つ独特な雰囲気というものがここにはない。
それでもぼくは夜通し書庫で本を読んでいた。
今まで本を読んだことが無かったわけじゃない。おやっさんのところには本があったし、簡単な文字なら読めた。でも、ここにある本はぼくが知っていたこととは違うこと、外の世界について書かれていた。まず地図が違う。
「ロンヴァルディア王国が無い? ………いやあった。でも、小さいっ!」
子どものころ、孤児院で聞かされたのは、ロンヴァルディア王国が世界の中心、という話だ。それはレムルスの街でも常識で、地方といえどその世界の中心で暮らしていることは誇らしいことだった。
王国は神の寵愛を受けたため、魔獣や魔物の数が他に比べて少なく、自然は豊かで実り多い温暖な土地で、その土地を狙うのがナローン帝国と魔族国家サイロン。
そう聞かされていた。
でも、どの地図も、ど真ん中に描かれているのは帝国。その端っこにある森だらけの小さな国が王国。本には「王国は元々帝国の属州の一つだった領地で、地方提督に任じられた貴族が謀反を興した」とある。つまり、この国の王族はただの地方を任された役人だったんだ。それで、帝国と戦になったけど、未開拓の広大な森林が邪魔で決着がつかないまま、なし崩し的に国家となった。
ざっと見た感じ、王国はろくでもないな。帝国に比べて文明が遅れていて、それなのに王国としての体裁を保てているのを神の御意向とうそぶいて、人々を欺いている。
魔族国家サイロンとも長年戦争を続けている。昔、なんで魔族と仲が悪いのか大人に聞いたら「北方の緩衝地帯を侵略されたからだ。だが勇者と共に奪還した」と聞かされた。でもこの北方は元々帝国の土地だ。それを魔族が奪い、それに乗じて王国がかすめ取ったのだ。これは本来帝国と魔族の争いに王国が出しゃばった姑息なやり方だ。何の正当性も無い。
「全然実感湧かないな。聞いてきたことと全然違う」
この書庫の本に書いてあることが真実なら、この王国の未来は明るくないんじゃないか? 一体どうやって、この大国二つと渡り合ってきたんだ?
ナローンもサイロンもロンヴァルディアの十倍以上はある。南には獣人族国家があるけど、そこと連合を組んでるわけでもない。
そろそろ夜が明けそうだ。今日はここまでにしよう。
広げたたくさんの本を閉じながら疑問の答えが気になりつつ、たまたま目についた本を手に取った。
「ん?」
『勇者召喚の危険性』という本。随分古い、多分数百年以上前の本だ。この国の文字じゃないし、所々読めなくなっている。
その冒頭部分、こう記されていた。
「―――次元干渉系魔法、スキルの研究について。かねてより『収納』のスキルから、この世とは別の次元が存在することは知られていた」
『収納』ってなんだ? 難しい本かな?
「―――このスキルを研究し、手付かずの膨大な空間を手に入れるため、調査が行われた。その過程で同系統のスキルを収集するため神殿との連携が図られた」
ふむふむ、貴重なスキルを神殿で見出すのは今でもそうだったな。そもそも『ステータスオープン』が発現していると確認されたら即神殿に就職決定だからね。神殿がステータスを見る力を独占しているのは、こういう研究にも利用されてたのか。ああ、だから神殿が権力組織になったのか。スキルを管理出来たら思いのままだもんね。
「―――そこで、とある少年が見いだされた。少年は未知のスキル『サモン』を有していたのである。このスキルにより、初めてこの世界に呼び出された異世界人、彼がのちに〝勇者〟と呼ばれることになる、タナカ・タクヤだった。ナローン帝国ロンヴァルディア辺境伯ルノラータはこのタナカ・タクヤと共に帝国から独立を宣言。反魔族主義を掲げ、魔族国家サイロンと戦い勝利する」
―――なるほど。
勇者召喚に成功したから強気に出たのか。でもどうして独立して魔族にまでケンカ売ったんだ? 手あたり次第過ぎるよ。でも、まぁそれで勝ったから調子に乗ったのか。このタナカって人はどんな人だろう? ああ、だめだ、肝心なところが読めないな。ボロボロで文字が判別できない。
『勇者召喚の危険性』か。これは気になる。歴史とかも書いてあるし、これ欲しいな。ボロボロだし他の本をねだるよりはいいよね。
でも、逆に高価な本ってこともあり得るしなぁ。
《それにして!》
「うわ、突然どうしたの?」
何が神様の琴線に触れたのかわからないけど、この本を持ってろと言う事かな?
「この本に何かあるの?」
《え〜っとね、どうしよっかな〜、教えちゃおうかな〜》
「教えてよ〜」
《フフ〜、その本があったらアンジェリスが助かるよ》
どうしてここでアンジェリスが?
まぁいいか。
「あ、それって『お願い』?」
《え〜、うん。じゃあ『お願い』ね。代わりにコルベットの望みを叶えてあげるよ》
「ぼくを人間に戻して」
《その本をアンジェリスに渡せば、戻る方法がわかるよ》
またまたアンジェリス?
まぁ、いいか。
おっと、もう夜明けか。仕込み始めないと。
コルの頭はカラカラのスポンジ




