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30.復興一日目


 ロムルスの街はデーモンの復活により大きな被害を被った。

 しかし、幸いにして火災は街を焼き尽くす前に、突然の雨で消し止められた。聖域から見るとその惨状の痕がハッキリ見える。復興には時間がかかるだろう。

 そんなことを思いながらぼくとルカは招かれた神殿の中を進んだ。広間にはたくさんの聖職者がいた。


「この度は街をお救い頂きありがとうございます。神殿を代表してお礼申し上げます」


 そう言って巫女さんや僧侶たちがぼくたちに祈り始めた。


「いえ、たまたまで―――」

「感謝というなら形で示して欲しいなぁ、ねぇ、コル君?」


 ルカがぼくの肩に手をまわし、いかにもタダじゃ働かないアウトサイダーっぽさを演出する。役者になればいいと思う。


「ん? どうしたのコル君?」

「ルカ、どうしてそんなに即物的―――いや、なんでそんなにがめついの?」

「うわぁ、コル君が裏切った!! いやこういうところで遠慮しちゃなめられちゃうよ?」


 だれにだよ。


「いえ、ルカ様のおっしゃる通り、私たちに差し上げられるものでしたら」

「じゃあ、禁書庫に行こう。本クレ、本クレ」

「ええ!! いえ、あれはその……はい、わかりました」


 巫女さんが困ってるじゃないか。

 罰当たりだな。でも、書庫には行ってみたかったんだ。


 いや、行かなければならない所だ。


 神殿の書庫は思ったより狭かった。宿の2人部屋より少し広いぐらい。おやっさんのところのほうがもっと本があった。それにあんまり掃除してないみたいだ。


「コル君、ここはスキルの―――って何してるのコル君」

「ああ、申し訳ございません。本来ここは封印されておりまして」


 埃を掃いてみたけど、これは一日掛かりそうだ。


「お掃除に来たんじゃないよ。ここにある本は禁書とされたものだけなんだって。もしかしたらここに役に立つ本があるかもしれないよ」

「そっか」


 本を手に取ってみた。


「『古代魔道具生成術書』?」

「ええ、すごい!! 前期エノク語が読めるのですか?」

「うぇ、エノ……? う、うん、みたいだね」


 巫女さんが尊敬のまなざしを向けた。きっと、ぼくを勉強を頑張ってる人だと勘違いしたんだろうな。

 これはスキル『言語マスター』の力だ。


「スキルの本だけじゃないんだね」

「スキルの本ですか。そ、それは存在を口にするだけでも処罰の対象となります。私は分かりかねます。ですがこちらにはロンヴァルディア王国で広まると争いを起こすもの、王国を刺激しかねないもの、王国が出版を禁止したものなど、様々な禁書が含まれます」

「じゃ、じゃあこれ、一冊ずつ確認するんだね」

「はい、お手伝いします!!」

「ありがとう……」


 でも、街は大変だし、あまりスキルの本に人を関わらせない方がいいよね。夜みんなが寝た後にでもみよう。

 

 そろそろ煮込んだスープがいい感じになるはずだ。



「アンジェリス、どう?」

「はい、とってもおいしゅうございます」

「なにその恍惚とした表情」


 料理を食べた顔じゃないんだけど。本当にシスターなのかよ。


「ご主人様のお料理が本当においしいからです」


 炊き出しのためぼくらは炊き出し所を作って料理を出すことにした。手伝ってくれたのは冒険者たち。場所の確保と、食材の調達に奔走してくれた。


「みなさんありがとうございます」

「な、何言ってやがる! お礼を言うのはこっちだって!!」

「そうだぜ、あんたには街を救ってもらった上に、瓦礫の撤去からケガ人の治療までしてもらっておいて、メシまで作ってもらって恩を返せねぇよ」

「しかも、うめぇ!! なんだこりゃ! 本当に何者なんだよ、アンタ!!」


 恩に着せるつもりはなかったんだけど。ちょっとやりすぎたかも。なんせゾンビニという謎の種族になってから、今まで以上に力も付いたし、なによりスキルの練度が格段に上昇した。

『治療・大』は今まで大した傷でなくてもそれなりの魔力を込めていたけど、傷に応じて魔力の調節ができるようになった。『治療・小』、『治療・中』を意識して使い分けられるようになった感じ。それだけじゃない。一人ずつが対象だったのが、感覚が鋭敏になったのと『索敵』の応用で周囲にいる人もまとめて治療できるようになった。つまり、スキルの併用と、応用が利くようになった。そしたら『治療・大』が『治癒』にスキルアップしていた。これを使ったらどうなるのかはまだ試していない。

 結果、街中のケガ人を数時間で治療し終わった。街を回るのに瓦礫が邪魔だったから片っ端から『投擲・極』で空き地に投げ込んだ。器用度も上昇したし、瓦礫をどう詰めば省スペースで済むかも思いのままで、不謹慎にもちょっと楽しかった。あとでその空き地に行ったら均等に積み上げられた木材、石材が四角い建物みたいになっていた。邪魔だったから『ファイアーボール』で消した。

 

 ちなみに今のステータスは―――

 

===ステータス===

■コルベット・ライソン(享年17)

・種族:アンデッド→ゾ ン ビ ニ

・職業:???

・レベル.100→200

・体力:A→EX 魔力:S→SSS 精神力:A→SS パワー:S→SS スピード:S→SS 運気:D→S 器用度:S→EX

・スキル

 EX:『☆時 間 停 止』『☆霊 体 化』

 SS:『スキル強奪』

 S:『↗ 治癒』『言語マスター』『オートスキル』『経験値倍加』

 A:『↗ 投擲・極』『↗ 火魔法・熟』『文筆・熟』『ステータス確認』

 B:『↗ 酸耐性・大』『↗ 解毒・大』『革細工』『改竄』『直感』『棍棒・中』『再生』『筋力向上・中』『斧・中』『火耐性・大』

 C:『☆縄・初』『☆拷問』『消化・吸収』『調合・中』『採取・大』『見切り』『潜伏』『索敵』『体温調節』『精肉・中』『格闘・初』『投げ・初』『短剣・初』『飼育・中』『栽培』『裁縫・中』

 D:『粘着耐性・小』『風耐性・小』『光耐性・小』『解体・中』『嗅覚向上・小』『視覚向上・小』『聴覚向上・小』『弓・初』『調理・中』『掃除・中』『採掘・中』『伐採』『算術・初』

 E:『威嚇』『発声・初』『看病・初』『採石・小』『釣り』


 

 ステータスが大変なことになっている。昨日までの冒険者相手の手加減なんて全く意味なくなってしまった。

 それから職業ハイゾンビだったのが???になった。種族がアンデッドからゾンビニなっている。これは何だろうと思ってこの子に聞いてみた。


《あのね、たぶんね、当初の想定でね、ゾンビの上位種なんて考えてなかったから、えーっとね……》


 なんだかぼくに説明するのにすごい苦労させてしまった。でも要約すると、種族欄に書き込める種族は決まっているが、職業は時の流れで変わるからまだ自由がある。そこでぼくの種族はモンスター扱いでアンデッドに、職業欄に職業としてハイゾンビと記載した、ということらしい。つまり、その場しのぎの適当な決め方をされたということだ。

 それがなんでゾンビニなら職業欄に記載できたのかと言うと、彼女の話し方が変わった時の影響らしい。言語プロナントカが再定義でどうとか言うのでそこら辺はやっぱりわからない。


 ぼくはこのぼくにしか見えない美少女を勝手に神様だと思うことにした。本人は《違うよ、神様はね、あ、これコルベットには言っちゃいけないんだった!》とはぐらかす。でもぼくがどう思うかは自由だし、少なくとも超常的存在なのは確かだ。


「ふぅー。それにしても、何を待てばいいのやら」



 ぼくたちがここにいるのはただ街の復興のためとか、書庫の本が気になるとかじゃない。今は確かにそれもあるけど、元々は彼女がぼくたちへ下した神託だった。



 雨を降らせてもらった後のこと。



《お願いを聞いた代わりに、私のお願いも聞いてね!!》

「はい、なに?」


 軽い気持ちで雨を降らせてもらったその代償を求められた。ぼくは相応の覚悟をしていた。


《―――ここにあと二日滞在して》

「え? それだけ?」



 それだけだった。理由は分からない。でもやっぱり復興を手伝うとか、そう言う事だろうと思った。神様が見ていると思うと手は抜けなくて張り切り過ぎたけど、特に反応はない。炊き出し中神様はぼやぁと空を見たり、地面のアリをずっと見たりする。料理には興味ないらしい。あと、キャラがあざといだけで、不必要に話しかけてこない。

 まぁ、四六時中ぼくにしか聞こえない声と会話してたら困っちゃうからいいんだけ……。

 

「―――おっ、うまくできたね」


 自分で言うのもなんだけどスープは会心の出来だ。

 ゾンビニになったら味覚も復活した。これがうれしかった。味が分かるようになっただけでも気持ちが全然違う。


 料理もはかどるというものだ。


「なんだ、手元が見えないぞ!」

「一人で何人分も動いるぅ!!」

「料理の腕も一流じゃ!!」


 なんだか専門家みたいな人達に見られている。審査とかやめてね。


 あと一日、滞在して何が起こるかわからない。でももっと長くいてもいいかね。


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