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28.ボーナス


デーモンのパワーアップ版を前に、ぼくとアンジェリスとロラスの三人だけが残った。



「ロラス、ちょっと借りるよ!!」

「おおうともよ! ……ってなにを?」


 ぼくはロラスを片手で持ち上げて、前方に展開した。


「ええぇ、ちょっと!!」

「ぼくが脚になるから、ロラスは祈りで牽制して!」

「で、でもさっき私の祈り効かなかったじゃんか」

「それなら……」

 

 アンジェリスの元に駆け出し、有無を言わさず左手で持ち上げた。


「きゃあ!!」

「これで、どうだ!!」


《何してんの、お前ら?》


 右手にロラス、左手にアンジェリス。

 祈りが二倍で、威力も二倍!!


「ご主人様……奴隷を盾にするなんて。あ、初めましてコルベット様の奴隷をしております、アンジェリスと申します」

「これはこれはご丁寧に。ギルドマスターで、コルベット君のここでの保護者をしております、ロラスですぅ~」


 いや、自己紹介とかいいから祈っててよ!!


《女の影に隠れるなんて、なんて根性無しなんだ! いっそ清々しいくて虫唾が走るぜ!》

「お前に言われたくない」


 繰り出される攻撃は全て、実体化してのものになった。虫パンチだ。二人の祈りのおかげでぼくに憑依は出来ないみたい。でも、逃げながら戦うには限界がある。こっちは守るばかりで倒す手段がない。


「う、酔ってきました」

「私も……」

《飽きてきた。ただ戦ってるとドラマが無いからつまらん。ふむ。まずは適当な器でいいか》


 しまった!!

 自分たちに集中し過ぎた。

 

 デーモンは気を失っている冒険者の方へ飛んだ。最悪だ。その辺に転がっている冒険者に乗り移られたら、さっきまでの戦い方なんてできなくなる。人質と戦うようなものだ。それにあんな濃い瘴気に乗っ取られたら、無事じゃすまない。

 ああ、彼は訓練の時相手をした子だ。まだ駆け出しなのに、冒険に出る前に訓練場で死なせるなんてできない。


 ぼくは、ロラスとアンジェリスを置いて駆け出した。

 これは罠かもしれない。そうも思ったけど身体が勝手に動いた。

 


 間に合わないか!!?

 



 そう思った時、フッと身体が軽くなって、一気にデーモンに追いついた。

 黒い瘴気の横を通り過ぎ、駆け出し冒険者の前に躍り出る。迎え撃てる体勢だけど、奴には触れない。殴っても……。



 その時、拳にぐにゃりと、これまでとは違う手ごたえがあった。拳が生身にメリ込んだような感覚。



《ぐはぁぁぁぁぁぁ!! い、痛い……ッ!!》


 あれ? 効いた?


 デーモンの油断している横っ面にぼくの拳が深々と突き刺さり、首が横にはじけ飛んだ。


《あ、あががぁ……ああ、ぐ、てめぇ、一体に何しやがった!!》

《何と言われても……》


 デーモンは泣きながら頬を抑えて悶えている。でも、さっきまでと特に変わりない。なら原因はぼくの方か? 自分を確認すると。宙に浮いているし、半透明だ。ええ!! ナニコレ!?


「ご、ご主人様、霊体になってます!!」

《ええ? うそ!! どうして? 進化したから?》


 ハイゾンビからメガゾンビに進化って言ってたけど、もはやこれはゾンビじゃないじゃん!! いや、前からちょっと違ったけど……。


《レベル100になったことにより、ボーナスが発生しました ボーナスにより『霊体化』のエクストラスキルを獲得しました》

《ボーナスってなんで? 誰からのボーナスなの?》

《レベル限界到達者に対する…………神からの祝福です》


 レベルが上がったから、神様が力を貸してくれたってこと?


《たかがゾンビが、調子に乗るなよ!!》


 痛みから回復したらしきデーモンが、殴り掛かって来た。実体だった時はすさまじい早さに感じたけど、今は遅く見える。


 瘴気が自在に形を変えて、襲い掛かる。その全てを把握できる。それに今まで動くとスキルの補正効果が入る感覚があったけど、今は無くて直感のままに動ける。相手の手数は無限だけど、霊体のぼくの拳はその瘴気の全てを払い、穿ち、霧散させることができた。


《な、なにぃ~!!》


《おりゃ》


 大きい奴相手はまず態勢を崩すと優位。

 目線から遠い足元が御留守になりがちだ。

 

 キックで脚を攻撃。


《ぎゃ!!》


 デーモンが横に折れた。


 バランスが崩れると思いがけず何もできなくなる。

 慌てると相手の動きを確認しようと焦る。

 そこに後ろから、振り向いた所を顔面パンチ。


《えい》

《ギャパァァァァ!!!》


 生身の時は力加減が難しかったけど、今は生きてた時みたいに思いのままだ。デーモンを中心に弧を描くように浮遊し、全身を殴りまくる。殴る度に黒い瘴気が弾けて薄くなっていく。


《があああ、痛い痛い!!》


 確かな手ごたえだ。鍛えてないデブを相手にしてる気分。


《な、なぜだ? その状態では何のスキルもステータス補正も無いはず。なぜただの人間の霊体がこんな力を……?》

《あんたが弱いんじゃないか?》


 孤児院にいた時も、路上でも、日雇いの職場でも、おやっさんに拾われて仕事を掛け持ちした後も、ぼくはずっとスキルを持った自分よりも大きい相手に絡まれてきた。一度だって勝ったことは無いけど、一度も逃げたことが無い。


 対等な条件なら負けない。


《クゾォ゛……》


 小さくなったデーモンは苦し紛れにモヤモヤを放出した。逃げようとしている。あ、マズイ。

 また四方に細かく分散されたら追いきれないかも!?

 

「「きゃああああーー……ッ!!」」

《ん?》


 その時、空から悲鳴の二重奏と共に、何かがデーモンの正面に降り立ち、叫んだ。


「囲んで祈って!!」

《ルカ……!?》

「ええ? コル君がスケスケだ! いや、今はそんなことより、そいつを逃がさないで」


 空からやって来たのはルカだった。放心状態の巫女さん二人を放り投げ、デーモンの行く手を封じる。な、なんてひどい扱いだ。でも、動きが止まった。ぼくは実体に戻り、アンジェリスとロラスを掴んでペイッと投げた。

 アンジェリス、巫女の二人、ロラスで囲み、動きを封じることに成功。


 そして再び、霊体化した。


《おのれ、こんなところで……》

《よっと!!》


 力の弱ったデーモンの背後へ簡単に回り込むことができた。そのままぼくはデーモンの頭を掴んで、勢いよく自分の身体を回転させた。


《ああ、止めろぉぉぉ!!!》


 頭がねじ切れたと同時に、残っていた瘴気が消えていく。


《……ちぇ。まぁいい。刺客は放った……我が眷属が世界に散らばる我が同胞を眠りから解き放ち、この世で黙示録の悪夢を再現するだろう……フフフ……》


 不吉なことを言い残してデーモンは祈りの光に包まれて消滅した。







[パンパカパ〜ン!! パンパンパンパンパンパカパ~ン!!!]


《レベルが規定値に達したため進化します 個体名:コルベット・ライソン メガゾンビからゾンビニへ進化しました》




「え? ゾンビニって逆に弱くなってない? というかゾンビニって何? ねぇ、ルカーーー……え?」


 


 周囲の風景が、木々や砂ぼこり、人の動き、空の雲、鳥たちも全て動きを止めていた。


《レベル200到達により、ボーナスが発生しました ボーナスにより『時間停止』のエクストラスキルを獲得しました》


 レベル200だって?


 

「ス、ス、ステーターーー」

「それよりも、あなたにやっていただきたいことがございます」

「え?」

 

 振り返ると、女の子がいた。さっきまではいなかったはずの、白い髪に緑色の瞳をした少女。ぼくより少し年下ぐらいだけど、偉い人独特の雰囲気を持っている。けど、ぼくが気になったのは彼女の見た目や雰囲気なんかじゃない。この動きを止めた空間で動いていることと、それから―――

 

 

「要求の詳細を確認致しますか?」



―――信じられないことに、彼女の声は最近よく聞くあの声だった。





 


ストックが切れましたので、更新は不定期になります。


ブクマ・評価をお待ちしながら書き進めて居ります。よろしくお願いします。

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