3.新しい朝が来た
[―――パンパカパ〜ン! パンパカパ〜ン! パンパカパ〜ン! パンパカパ〜ン!―――]
うるさ!!
なにこの音?
せめて安らかに死なせておくれよ!!
[―――パンパカ……]
《―――規定レベルを超えたため、進化します》
え?
進化って何ですか?
《個体名:コルベット・ライソン ゾンビからハイゾンビへ進化しました》
ちょっと待ったぁー!!
なんだそれは!!
……あれ?
ぼくは気が付くと、断頭台の上にいた。
まだ、生きているのか?
まず目に飛び込んできたのは、惨殺された町の人々。
死体の山が折り重なって、広場はその血で真っ赤に染まっている。
横を向くと、処刑人と目が合った。驚いた顔をして死んでいる。首の後ろがざっくりと切れて血だまりの中に浮いている。
まさか、さっき頭に浮かんだあの声……
―――『リベンジャー』―――
それがぼくのスキルなのか?
助かった、ぼくはまだ生きて…………ない!
生きてないな、うん。首が半分切れたままだよ。痛くもないし苦しくも無いけど、これは生きているのがおかしい。待てよ、さっきゾンビに、いやハイゾンビに進化したって聞こえたけど……
まずハイゾンビってなんだ?
ぼくはいまどうなってるんだ。確認したいけど拘束具が外れ……た。
うん、外れたね。さっきまで微動だにしなかったのに。
バキバキと首を固定していた台座が砕けて、頭を外すことができた。手の鎖も思い切って引っ張ってみた。
切れた。
どうなってるんだ?
ぼくは辺りを見渡そうとして、首が半分切れているのを思い出し、とりあえず手で支えた。
まずこの首を何とかしないと……って、あれ?
元に戻らないかと考えたら、勝手に引っ付いた。
ステータスが見たい。
でも、ステータスは神殿でしか見られないよな。
《『オートスキル』発動 『ステータスオープン』発動成功しました》
[ピコーん]
ステータス出たぁ!! なんで??
まぁ、いい!! え〜っと……
===ステータス===
■コルベット・ライソン(享年17)
・種族:アンデッド
・職業:ハイゾンビ
・レベル.89
・体力:A 魔力:A 精神力:A パワー:S スピード:S 運気:F 器用度:S
・スキル
SS:『スキル強奪』
S:『☆言語マスター』『☆オートスキル』『☆経験値倍加』
A:『☆ステータス確認』
B:『☆治療・中』『☆斧・中』『☆火耐性・小』
C:『☆格闘・初』『☆投げ・初』『☆短剣・初』『☆筋力向上・小』『☆飼育・中』『☆栽培』『☆裁縫・中』
D:『☆投擲・初』『☆弓・初』『☆調理・中』『☆掃除・中』『☆調合・小』『☆解毒・初』『☆採掘・中』『☆採取・中』『☆伐採』『☆精肉・初』『☆革加工・初』『☆算術・初』『☆速記』『☆校正』
E:『☆発声・初』『☆看病・初』『☆採石・小』『☆解体・初』『☆釣り』
「あ゛ぁ?」
うわっ、喉が潰れたままで変な声出ちゃった。
だって、前と同じところが名前しかない。年齢すら「享年」って……
ぼくはアンデッドなのか?
ハイゾンビって職業なのか?
そもそもハイゾンビってなんだろうか?
レベルが上がり過ぎだろ。
なんでスキルがこんなに……?
あれ、『リベンジャー』なんてないぞ。それにSSランクスキルだって?
『スキル強奪』とかあるがこれは?
通常一般人のステータスはレベル4から高くても10ぐらいのはず。ステータスも良くてD。Cがあればすごいと言われる。冒険者とかの戦闘職でもレベル20を超えてるかが熟練と駆け出しの分水嶺で、Bが限界って聞いたことがある。
あと、保持できるスキルは3つ〜5つだったはず。
頭が追い付かない。
「おい、誰か居るぞ!!」
「あいつは、死んだはずじゃ……」
どうやら、ゆっくり考えている時間は無いみたいだ。
『リベンジャー』というスキルの効果で殺したのは敵対者のみ。生きている人もいる。その証拠に、ぼくの処刑を爆笑して見ていた例の2人やぼくを疫病神扱いしたあの女は死んで、ぼくを庇ってくれたお兄さんは生きていた。
「これは……君がやったのか?」
その腕には、ぼくを不吉扱いした女が息絶えていた。
「くそぉ!!」
「あ゛ぁ?」
断頭台まで、お兄さんが駆け上って来た。
背中の大剣を抜くと同時に振り下ろす。刃の先にはぼくの脳天がある。
ぼくはとっさに、避けた。
「くっ、早い!!」
え? 早い!! ゾンビなのに!?
「あ゛あ…‥あ゛あ!?」
上手くしゃべれない。そうだ、さっきみたいに……
(治れ!)
《『オートスキル』発動 『治療・中』発動成功しました》
「だぁああ!!!!」
「あ゛あ゛あぁ? ああああ! ああああ、うん、えっと」
ぼくは攻撃を避けながら、喉の調子を確かめ、会話を試みようとした。
「この惨状の元凶はあの男だ!! 冒険者バズに続け!!」
ところが、この一大事。街中の兵士がこの広場に駆け込んできた。
ぼくは完全に包囲されてしまっていた。
お兄さんの剣を、落ちていた斧で防いだ。
斧を持った瞬間、斧の重量、形状、耐久性、持ち方、活かし方全部直感的に理解できた。
これがスキルを持つ感覚なのか。
「バカな、おれの破壊剣を軽々と……!」
「お兄さん、さっきは庇ってくれてありがとう」
「君、しゃべれるのか! いや、礼などいらない。さっきの彼女の言葉をおれは嫌悪したが、今は間違っていなかったと思っている。君は危険だ。これ以上犠牲者を出さないためにも、ここで死んでもらう!!」
もう、死んでますけど。
どうやらぼくがゾンビだと気づいてないらしい。まぁ、元々火傷だらけだったしね。
どうしてこっちは治らないんだろう? 『治療・中』では皮膚の欠損は治せないのか。
と、そこに、兵士数名が断頭台に飛び移って来た。ピカピカの鎧を着ているのですぐ騎士だと分かった。
囲まれた。せ、狭い……
「バズ殿、助太刀致します」
「騎士殿、油断なされるな! 得体のしれないスキルが有している。おれの攻撃が全く効かない!!」
「ならば全力で、一斉に掛かりましょう」
明らかに手練れとわかる騎士たちは脇に剣を構え、じりじりと距離を寄せる。
あれ、なぜぼくは抵抗してるのだろう?
攻撃されたから反射的に動いたけど、もう死んでるなら、別にやられてもいいじゃないか。いつかスキルを得たいと願っていたけど、こんな形を望んだわけではない。
ぼくをあざ笑った連中は報いを受けた。過剰と言えるぐらいの報復だ。でも、どうでもいい。彼らは勝手にこの状況を作り、勝手気ままに憂さ晴らしをしようとして、勝手に死んだだけだ。自分たちの浅ましさ、愚かしさの代償として。
そして、それはぼくにも言える。死んでから発現するスキルだったなんてぼくの努力は全くの無駄だったわけだし。馬鹿らしい。
思い残したことは……無い。
ぼくは斧を手放した。
「コイツ、何かする気だぞ。気を付けろ!!」
「あ、いえ、ぼくは……」
ぼくが無抵抗で退治される意志を伝えようとしたその時だった。
断頭台の死体が起き上がった。
ぼくらはドキリと一斉に動きを止め、彼女の方を見た。
……え?
こんな女の人、処刑の時にいなかったよね?
「おはよう世界!! はじめまして私!! ようこそニューライフ!!!」
紫色のフードを被った女性は元気よく伸びをして、あっけに取られているぼくらに向き直った。
「よーし、逃げようぜ、相棒!!」
「へ、ぼくのこと?」
女の人に手を掴まれ、すごい勢いで引っ張られた。
というか、飛んだ。
断頭台から空へ飛んだのだ。
「うひゃひゃひゃ、どうよ、この解放感ん〜!!」
「ぎゃああああああ!!!」
すさまじい跳躍で、街にある塔より高く上った。
「ぎゃあああ……あれ、意外と平気だ?」
心臓が飛び出るかと思って胸に手を当てたらそもそも動いてなかった。
「生まれ変わって初めて見る世界はどうだい?」
「え?」
ほとんど街の中から出たことの無かったぼくには見ることの出来なかった、美しい世界が広がっていた。
「きれいだ」
「あっはっは、照れる〜」
「いや、君に言ったんじゃぼろびご――――」
墜ちた先は森だった。