23.堕ちた聖域
私がなぜ捕まったのかわかった。
Sクラススキル『スキルレンタル』を持っていたからだ。
スキルを5つ以上取得するという条件は、コル君をテイミング扱いした途端にクリアされたらしい。コル君のスキルを私の管理下に置いた、という解釈なのかな。適当だなぁ。
この世界ではスキルが無い方が怪しい。だから持っていてもおかしなことは無いと思っていたけど、違った。
「貴様のSクラススキルは下賤な者が持つにはふさわしくない。おれの妾にしてやる」
「断固辞退する」
一斉に私に向けて矛が向けられた。
ここは神殿の中。
広間に通され、王様みたいにふんぞり返っているのはここの神官ではなく、貴族のお坊ちゃん。
「貴様、頭がおかしいのか? この王国五大名家に名を連ねる由緒正しきタナカ家に迎え入れるというのだぞ!!」
タナカって田中だろ。
「勇者の血を引くおれの子を産める名誉を拒むとは何事か!」
「顔がな」
「顔?」
「好みじゃないんだ。すまんな」
それに、品種改良じゃないんだから、いいスキルを持ってるから子供を産めなんて言われてもうれしくない。
「どうやら立場が分かっていないようだな。アシモ、コイツを懲罰に掛けろ! 今日は独房に入れて、明日おれの部屋に連れて来い!!」
「かしこまりました」
アシモと呼ばれた太ったおっさんが私を見て笑った。なんだこの野郎。ケンカすっか?
「さぁて、坊ちゃまのお相手をする前に色々と仕込まねばならんな。今日は一晩中掛かりそうだ」
「何のこと?」
「調教だ。お前は反抗的だからな。だがそういう女の方が楽しい」
信じられないけど、この気持ちの悪いおっさんの服装を見る限り聖職者のようだ。
「それって、おたくの神様のご指示かしら?」
「当たり前だ。私は神官だぞ。神の御心を推し量れるのは我々だけだ」
「……私が誰か知ってる? 私はあなたを知らない」
「はぁ? だから何だ?」
どうやら、神を自分にとって都合良く解釈しているのね。
ここまで連れて来られて何事かと思えばくだらない。付き合っていられないわね。
神聖な都市だなんて、大ウソ。
神官たちは庭でたばこを吸い、僧侶たちは女を侍らし、誰も祈っていない。一部こきつかわれている人はいるけど。
「ねぇ、姫巫女のジアって人はいる?」
これじゃ、アンジェリスが会いに来た人も疑わしい。
「ジア? ああ、あの堅物ならもういない。何日か前に消息を絶った。使命感に駆られて飛び出したあげく、戻らなかった。そこで我々がここを切り盛りすべく王都より派遣されたのだ」
「それって、言い換えると、ジアを殺してここを手に入れたってこと?」
「なんだ? お前も内なる神などと古い信仰にすがっているのか? 無駄なことは止めろ。この世はスキルを与える者と与えられる者しかいない。神は答えを出しておられる。スキルこそ、神のご意思である。そして、そのご意思をステータスとして表すことの出来る我々だけが神の代弁者たり得るのだ」
そのご意思で勝ち組だと思った人たちは大抵、スキルとステータス頼み。魂は軽い。他の世界に転生した時、大抵腑抜けになる。
特に生まれながら優れたスキルで苦労せずに生きる者なんて、呪われているに等しい。まぁ、彼らに現世から先のことを考えろというのは無理があるか。
本当に神が人を導く気があるならもう少しこの世界も引き締まるんだけど。
「神ねぇ……。君たちが想像しているような存在ではないんだけどね」
「貴様、神を冒涜する気か」
「君さぁ。全部何の根拠もない憶測じゃないか。その程度、神学でも何でもない、ただの妄想よ」
「神を信じられぬ愚か者め!! これから行う儀礼により、その欺瞞に満ちた心を浄化する!!」
アシモとかいう神官は顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。
「もういい。別に問答したいわけじゃないから。書庫は何処?」
「何を言っている。今から向かうのは仕置き部屋だ」
矛を持った騎士たちが四人、私を取り囲んだ。
女性一人に何人がかりよ。
「面倒だなぁ。でも、あんたらが空想を膨らませて勝手に作ったスキル至上主義的価値観が、彼を追い込んだ。だから私にはあんたらを裁く権利があるよね?」
「何を言っている?」
か弱い女性相手に四人は多すぎ。
でも、元死神の私に四人は物の数には入らない。
一番近い騎士を鎧の上からパンチ。
「べひゃぁ゛ッ!!!!」
矛を奪って隣の奴をホームラン。
「がびッ!!」
そのまま矛を投げて頭にヒット。
「ウゴぉ゛!!」
「うわぁぁ!!」
「ああ、コラ、わしを置いて逃げるな!!」
最後の一人とアシモとかいうおっさんが逃げる。
「逃げるな」
私の一言で、2人が脚を止めた。
「な、なんで……」
「身体が動かない」
子どもが本気で怒った大人に怒鳴られたら、身が竦んで動けなくなるのは当たり前でしょ。
「書庫の場所を教えなさい。じゃないとお仕置きよ」
◇
「いやぁ!! おやめください。こんなこと、神がお許しになるはずがありません!」
「我がタナカ家の世継ぎを授かるかもしれない名誉だ。ありがたがれ!!」
あちゃー。
さっきの貴族が巫女さんの髪の毛を引っ張って部屋に引きずり込もうとしている場面に遭遇した。
コイツ……今度は巫女さんに乱暴するとか、地獄に落ちるぞ。
「やめなさい」
「なんだ、お前、気が変わったか? 待っていろ。コイツが物足りなかったら味見してやる」
「鍵寄越せ。書庫の鍵。あとその子を解放しなさい」
「なぜ鍵のことを? お前、賊か!」
「あんたには言われたくない」
貴族が合法的な山賊とはよく言ったものね。いや、山賊に失礼か。
「フン、趣向は違うが良い。おれが誰だかは言ったはず。おれは勇者タナカの血を受け継ぐ者。おれの前で生意気な口を叩くものなら、魔王でもズタズタに斬り裂けるのだ!!」
「待って、私のことは好きにしても良いので、他の方を傷つけるのだけは……」
「もう遅い!」
田中くんは剣を持った。
スキルの影響なのか、確かに雰囲気が変わった。と言うか目に見えて筋肉が膨れ上がり、体格が大きくなった。
「何しているの!! 早く逃げて!!!」
「複合スキル『剣豪』、Bランクスキル『筋力向上・中』、そして、この二つを持つ者のみが発現するエクストラスキル!! くらえ!! 『斬空―――ギャッ!!」
「え? なに、聞いてなかった」
貴族タナカは私に踏まれて気持ちよさそうに寝ている。確かに趣向が違うかな。
「ええッ? 今何が……?」
スキルの説明をし始めて隙だらけだったから、背後に回り込んで、背中から蹴り倒した。
本当は股間を蹴り上げてやろうと思ったけど。
天井に激突して脳天と股間、両方潰すのはやりすぎだし。
おや、今なら股間を潰してもいいか。
「あの、あなたは?」
「ん、ああ、可哀そうに。痛くなかった?」
「あの、それ以上は……」
自分を襲った奴を庇うだなんて、まともな聖職者もいたのね。
「ひょっとして、あなたがジア?」
「と、とんでもない!! 恐れ多いです!! ジア様はロムルス神殿の最高位……でした」
「やっぱり、死んじゃったんだ」
「……」
この子はまだ15歳ぐらいか。
可哀そうに、慕っていたのね。
「あの、何を?」
「鍵をね、あった。これで書庫に入れる」
「鍵で入るって、まさか、禁書庫に入るおつもりですか!?」
「お、知ってるなら案内して」
「できません。あそこは現在王都の俗人が占拠していて危険です。それに鍵があっても入れません」
「どうして?」
「ジア様のような、聖なる者にしか入れないようになっているのです。ですから、この方は鍵を開けても入れず、学者や魔導士に入れるよう命じたのです」
ほうほう、貴族が神殿を占拠して、禁書を手に入れようとしているってことか。まだなら好都合だわ。
「それじゃ、その俗人たちを追っ払ってあげるから案内して」
「そんな!! なんと慈悲深きお方!! わかりました。あなたのためにまずは祈りましょう」
「いや、いいから案内して」
「祈らせて下さい。祈りの時間を奪われ、今や神殿の加護も薄れています。このままでは良くないことが起こりそうな気がして」
これ以上ってこと?
祈る巫女ちゃんを見ていたら、私まで不安になってきた。




