22.手荒い歓迎
お待たせしました。
「こいつには闘技場で新人の相手をさせよう。テイミングされてるから人は襲わないはずだ」
「そうだな。訓練の度に雑魚を殺さず捕まえてくるのは面倒だったし、こいつは『再生』なんて便利なスキル持ってやがる。当分丸太人形の代わりにできるな」
どうやら、街には入れてもらえるようだけど連れられたのは神殿じゃない。ぼくは冒険者ギルドに連れて来られた。
この街、ロムルスは小高い丘の上にあり、そのさらに頂上に聖域と呼ばれる古い寺院が立ち並ぶ。
神聖な領域にゾンビは縁がないということだろうか。
武器を持った若者たちがいた。大きな広場だ。
「いよぉぉし、喜べ貴様ら! 憲兵さんたちが差し入れを下さった!! ゾンビだ。油断するなよ。意外と力があるし、怯まない。噛まれたらゾンビになるからな」
「大丈夫だよ皆。コイツ、テイミングされてるみたいだから、反撃しないよ」
「憲兵さんはこう言ってるが、ウソだぞ。意地悪な憲兵さんの言うことは無視しろよ、貴様ら!!」
ぼくは冒険者見習いたちの練習相手として連れてこられたようだ。
どうしよう。すぐに二人を助けに行くべきかな。ルカは大丈夫だろうけどアンジェリスはどうなるか……。
でも、いざって時はアンジェリスには『魅了』がある。
発動は眼鏡を外すだけだ。心配し過ぎで騒ぎにしたらかえって二人が危険だよね。
ぼくはどうやってここから神殿に行くか考えよう。理想は連れて行ってもらうことだけど……。
「よぉーし。おれが一番だ!! ツェェイ!!」
考えごとをしてたら斬りかかられた。
[パキーン]
「んなぁ!!」
「ウソだろ?」
「今、コイツ何した?」
何もしてないよ。
「お、おれの剣が……」
ごめんよ。でも、それ安物でしょう。
「はぁ、おいおい、整備はちゃんとしないと、ゾンビも斬れないなんて実戦で使ってたらエラいことになってたぞ」
「でもこれ、一昨日買った新品で……クソ、不良品だったのかよ!!」
次は女の子がやって来た。杖を持ってるから魔法使いか。
「次は私ね……我が右手に原初の力を。求めるは火。我が敵を葬る送り火を放て―――『ファイアーボール』!!」
これはダメだ。火魔法は―――
「決まった!!……あれ? どうして、効いてないの!?」
ゾンビっぽくするためルカのローブは着ていないしぼろぼろの恰好だけど、炎の玉は受けなかった。服を燃やされて裸にされたら困る。
火はパンチしたら掻き消えた。どうせ『火耐性・大』があるぼくには通じない。どうせなら雷魔法とか闇魔法、光魔法あたりを試したい。
「まだまだだな。当たる前に火が消えたんだ。距離感を測り損ねたようだな。実戦だったら今の間に襲われてゾンビにされてたぞ!!」
「うぅ〜、完璧だったはずなのになぁ」
「どけどけ、今度はおれだ!!」
今度は拳闘士かな。
「へへ、手加減せずに殴れるのはいいな。べきべきにしてやる! おりゃあ!!」
べきべき?
ぼくを殴ったら、べきべきになるのはそっちだよ!!
前にそうなった憐れな人がいた。
ああマズイ、けがをさせるのはダメだ。
「うぉ? ……? コイツ、避けた?」
「おい、今の見たか?」
「いや、見えなかった」
「くそ、うりゃ、おらぁ、おらぁ!!」
おお、パンチの態勢に入る前と後で、動きの早さが違うのか。これがスキルの補正効果だね。こうしてみると、やっぱりスキルがあるのと無いのとでは全然違う。まぁ、だからって当たらないんだけどね。
一発もかすらないのを見て教官らしき人が止めに入った。
「もうよせ。こいつ、レベルが9ってのはうそだな。多分29はあるぞ」
いいえ、レベルは99です。
「うそだろ? 迷宮のボス並じゃないか!」
「傍から見ていて迷宮ボスと遜色のない動きだった。ちょっと見ていろ」
今度は教官らしき男が剣を振るってきた。これは避ける必要が無い。
[バキン]
さすがに今のはちょっとダメージが通った。でもまだまだだ。皮膚が裂けただけ。この人はレベルいくつだろう? ゾンビのフリしてると聞けないのが煩わしいな。
「お、おれの剣を折るとは。撤回する、コイツはレベル29じゃない。レベル39はあるぞ」
「ええ!!」
「う、うそだろ……魔王クラスじゃん」
「見ろよ、もう回復してるぞ」
「マスタ―を呼んできます!!」
マスターって、ギルドの?
強そう。ワクワク。
「もう一回、ステータスを確認してもらった方がいいんじゃないか? こんな化け物を街に入れるなんてことありえないだろ?」
「いや、今の神官たちならありえなくはない。適当な仕事をしてるんだろ。全く、ジア様がいない間に好き勝手しやがって」
え? いま気になること言ってたぞ。
ジアってアンジェリスが会いに来た巫女さんだよね?
「やぁやぁなんだい、呼んだかい♪ このロムルス支部のギルドマスターである私を呼んだのかい、もめ事なのかい?」
やたらと能天気そうなエルフがスキップしながらやって来た。大丈夫かなこの人? 戦えるタイプの人には見えないけど。
「おや……? さっき憲兵さんたちが言ってたゾンビかな。どれ―――」
間髪入れず矢が飛んできた。
すごい早業だ。ぼくじゃなかったら見逃しちゃうね。
って、ああ、しまった!! 反射的に矢を受け止めちゃった。
ん? なんだこれ、まだ手の中で回転している。
「お、驚いたね……私の『貫通』を持ってしても貫けないなんて、初めてだ」
え? 何それ? 強そう。もう一回!!
「う、うぼぉぉ、うぼぉ」
「マスター、なんか言いたいみたいですね」
「でも、反撃してこないということは、テイミングは間違いないのか」
反撃? そうか、ちょっと脅かせば!!
「うぼぉぉぉ!!」
「こっち来たぞ! どうやって止めるんだ!?」
「うわぁ!!」
うぅ、傷つくなぁ。それが一番効果的だよ。
「よーしよし」
ギルドマスターは攻撃することなく、ぼくの頭を撫でた。
「ちょっと、マスター何やってんすか!?」
「いや、なんか今悲しそうな顔してたから。ほら、動き止まったでしょ」
「おお!! さすがマスター!!」
いや、ぼくもこの人何してんのかなと思って茫然としちゃったんだよ。
「このゾンビ、相当キチンとケアされてるんだね。ゾンビなのに腐敗臭がしないどころか、なんだかフローラルな香りがする。それに、テイマーが傍にいないのに命令を守ってるなんてかなり頭がいいんだね。そもそもゾンビってテイミングには向かないんだよ。思考が無いからね。おかしいねぇ?」
ゾクっとした。
「う、うぼぉぉ……」
「まぁいいっか。これだけのモンスターと街中で訓練ができるなんて貴重だよね。熟練者を呼んでこの機会にレベルアップを計るとしよう」
熟練者か。
もうちょっと試してみよう。冒険者がぼくを倒せるのかどうか。
あれ、なんだっけ?
何か良くないことがあったような……
思い出せない。
ちょっと、真面目なお話が続きます。




