19.探索と出会い
大きな神殿のある街ロムルス。そこに至る美しい村で、勝負を挑まれた。なんと村は山賊とグルで……というか、村ぐるみで山賊をしているというとんでもない場所だった。でも、ぼくはお宝と料理勝負に惹かれて、この怪しい山賊『紅の女郎』の頭目からの挑戦を受けた。
「まずは食材選びからだ」
日持ちする食材よりも、ここなら新鮮な食材が手に入る。
勝負となれば、新しいものじゃなく、作り慣れたものがいいよね。だとすれば屋台で作ったスープ。でも、あれはほとんど一日煮込む必要がある。串焼きだけにしようか……でも、それじゃ物足りないし、かと言って手の込んだものは今から夜まででは間に合わないな。それにここなら新鮮な野菜を使った方がおいしいものが作れそうだ。
「こういう時、頭脳労働するのがルカのはずなんだけどなぁ」
酔いつぶれたルカは民宿で寝てしまった。幸せそうなので許そう。
ああ、だめだ。今から得物を仕留めても血抜きしたり、下処理をしたりで日が暮れちゃう。
う〜ん……
迷いながら森を歩いていると、頭上から丸太が降って来た。ぼくは大丈夫だけど、この音で獲物が逃げるよね。
この森は山賊のテリトリーと言うことで、罠だらけだ。実際は村人たちが管理していて、他の山賊や密猟者が入ることがないから食材の宝庫。獲物も豊富らしい。でも、ぼくから接近しないとモンスターはおろか、動物も寄って来ない。ちゃんと『再生』と『治療・上』で身体の腐敗は止めているし、最近は『体温調整』で腐敗そのものの進行を抑えている。それでもぼくを避けるのはモンスターにはぼくがアンデッドだと分かるからだろう。
自然と採取で食材カバンが埋まっていく。
香草を発見。あ、あれはおいしいキノコだ。
[ガッシャン]
虎ばさみが脚に食らいついていた。ただし、刃の部分が弾かれて外に曲がっている。
「これじゃ物音で逃げられるなぁ」
『索敵』にも獲物は近くにはいない。
人里に近いから元々警戒心が強いのかな?
おや、反応がある。ぼくに付いてきているようだ。あ、そっちは罠が……
「ぎゃあああ!!」
ほら言わんこっちゃない。丸太の下敷きだ。もう、急いでるのになぁ。ぼくの見張りなら罠の位置把握してるんじゃないのか?
「そろそろぼくも怒るよ?」
丸太の下で気絶していたのはなんとあの屋台の人だった。手にはナイフを持っている。
まさかぼくを襲おうとしたのか?
ちょっと迷った。ここで放って置いたらモンスタ―の餌食だ。でも、助ける義理はない。
「まぁいっか」
ぼくは丸太を掴んでどかした。
[ピコ〜ん]
===ステータス===
■コリヤー(43)
・種族:人族
・職業:山賊
・レベル.12
・体力:D 魔力:E 精神力:F パワー:D スピード:E 運気:E 器用度:F
D:「調理・中」
C:「ナイフ・初」
「うわぁぁ!!」
突然起き上がった。辺りを見渡し、ぼくに気が付くとナイフを構えた。
「やぁ、おはようコリヤーさん」
「どうしておれの名を……それに丸太を片手でどかしたな。お前は何者なんだ!!」
お礼も無しか。
「お前さえ現れなければボスの不興を買うことも無かった! ここでぶっ殺してやる!」
「わぁ」
別にお礼を言って欲しいわけでも無かったけど、ぶっ殺してやると言うならやってもらおう。
まぁどうせ無理なんだけどね。
これまでどれだけの人に悪態をつき、嫌がらせをして、陥れて来たのか知らないけど、ぼくとルカにしたことを少し反省して欲しい。
だからぼくはただじっと立っていた。
彼のナイフも、拳も、脚も、ぼくに勢いよく触れて砕けた。
うわ、言っちゃんなんだけど試して良かった。
普通の人に全力で攻撃されたらこうなるのか。気を付けよう。
さすがにこの人も懲りたよね?
え、ちょっと逃げないでよ。治してあげようとしているのに。
「あの」
「ぎゃあああああ!!!」
おじさんは驚愕の表情で耳障りな悲鳴を上げながら、逃げ出した。
地面を這いつくばり進んだ先には、また罠が……
「ぎゃあああああ!!!!」
どうしてああも上手く複数の罠に巻き込まれるのだろう。自殺かな?
不謹慎だけど、連鎖的に罠が発動する様子は痛快で芸術的で見ていて面白かった。
静かになった。
今度こそお別れを言おう。もう二度と会うこともない。
「さようなら、えっと名前は……なんだっけ?」
おっと、こんなことしている場合じゃなかった。
ぼくは吹き飛んだ頭部にお別れをして森の奥へと向かった。
「うわぁ」
思わず感動した。歩いていると清流に出た。驚くほど透明な川は蒼く光を反射している。
その美しさに目を奪われてしばらく、ルカにも見せたいとか思っていた。
「川には罠が無い。それに魚か」
仕入れの仕事で魚は見分けられるし、下ごしらえは一日中やってた時もある。レシピは知らないけど、大体できるだろう。魚の出汁は野菜に合いそうだと直感して、ぼくは川に入った。
◇
「うにゃ……ダメよコル君、それは、まだ……ああ、そんな―――ハッ! 待って!!!」
淫夢を見てしまった。お酒のせいかしら?
「う〜ん、もう一回見たい。あら、まだ夕方か。コル君―!!! コル君どこー!!!」
コル君がいない。どういうこと?
ここは何処?
私はコル君の女神。
「〜〜〜」
ん? なんだか声が聞こえる。
コル君かな?
声がする方に行くと倉庫があった。
レンガ造りのしっかりした倉庫。
「おやおや、ここでなにしてんだい?」
「あら、おばさん。コル君知らない?」
「山に入ったよ。罠があるから一人はやめとけと言ったんだけどね。弟さん何者だい?」
「弟って設定ではないわ。ただ一つ言えることは彼を振り向かせることができるのは私だけよ」
「驚いた。あんたらそういう関係?」
倉庫の中身も気になるけど、今はコル君を探そう。
「と、見せかけといてどぉーん!!!」
壁を破壊した。
やっぱり中身が気になるし、中にコル君がいるかもしれないしね! まぁいないのは分かっていたけど。ノリだね。
「こりゃ驚いた。人は見かけによらないというか」
「おばさんがそれをいいますか?」
中に入ってすぐ干からびた何かを発見した。
「これは……?」
あらやだ、人間だわ。
「勝手に入ったんだ。どうなっても知らないけど、そいつと目だけは合わせるんじゃないよ?」
「どいつ?」
木箱の詰まれた中に一つ鉄格子の檻があった。その中にいた者とおもむろに目が合った。
「私を呼んだのはあなたかしら?」
「ええ、そうです。お手数をお掛けします。ここから出していただけませんか?」
暗闇に浮かぶ怪しい眼が私を見つめていた。
読んでいただきありがとうございます。
新作『召喚した異世界の魔王が巣立ってくれない』もよろしくお願いします。
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