表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/59

17.迷宮からの旅立ち



 迷宮の外に出て、荷造りをすることにした。ルカが屋台を隠してくれたおかげで、壊されずに済んだので、屋台を引っ張って移動屋台でもやろうということになった。そこで宿にある大量の荷物を取りに行く必要が生じた。工具や古文書修繕のための薬剤、インク、羊皮紙など今後必要なものが多いから置いていけない。

 見つからないようにこっそりと宿に戻る。


「ん、お前」


 部屋の荷物をまとめ、宿を出ようとして宿の主人にバッチリ見つかった。荷物で両手が塞がって、階段の上だから逃げようもない。ルカに至ってはまだ部屋で着替えている。置いて逃げられないじゃないか。


「あああ、お前ぇぇ!!」

「あああ、待ってぇぇ!!」


 ぼくとおじさんの叫びが木霊した。

 終わったと思った。ゾンビでも下っ腹がひゅんとなるらしい。




 誤解は解けていたんだって。

 ぼくが迷宮に入っている間に向かいの店主は出店許可を取り消され、どこかに消えた。ぼくの料理を食べて具合が悪くなった人がいないことからぼくたちへの疑惑は濡れ衣だと証明された。


「ちょっと、ルカさん?」

「ひゃー、気づかなかったよ。だって人目に付かないように動いてたし、急いでたから」


 ぼくは何もしてないのに、迷宮に引きこもっていたら全部解決していた。運気補正は高くなかったはずだけど。


「頼む、また店を出してくれよ。他の店の味には飽き飽きなんだ」


 いつの間に有名になったのか、ぼくらを発見すると冒険者たちが集まって来た。こうして声を掛けてくれる人がいるのはありがたいことだし、普通に話してもらえることが奇跡に思える。これもルカのおかげだ。

 ただ、みんなは屋台を出して欲しいと言うけど出店許可は無いし、あまり長居するとここに根付いてしまいそうだ。


「また騒ぎになるといけないし、もっと大きい街に行こうかと」

「そうか……残念だが、ならしょうがねぇ。男の旅立ちを邪魔するわけにはいかないからな。運よくお前らがいる街でまたメシが食えるのを楽しみにしてるぜ」

「コル君、バタバタして出かける必要も無いんだし、お客さんにもう一回お礼とあいさつした方がいいんじゃない?」


 あきらめた素振りの冒険者たちはすぐに期待の眼差しをぼくに向けた。

 そう言われたらやらないわけにはいかない。確かに、今のぼくの感謝を伝えたい。それには喜んでもらえる方法がいい。


「じゃあ、一日だけ」

「うぉっしゃー! じゃあ、他の連中にも知らせないとな!」


「あ、でも店は出せないんだった」

「任せろ、仕切り役にはおれたちから話とく」

「あ、ありがとうございます」


 なら、まずは食材の調達と仕込みからか。

 忙しくなりそうだ。


「コル君、よかったね。また、ぼろ儲けだね」

「それは余計だよ」


 儲けは考えず、サービス価格でやろう。それが感謝ってものだ。






 うわさを聞き付けた人たちで、屋台は再び盛況となった。

 前と違い、今度はぼくもお客さんに皿を渡す。


「まさかこんなに若いとはな。そんな火傷気にするなよ。多少強面の方がモテるんだぜ」

「いや、コルベットに女の心配は要らねぇだろ。ルカちゃんが恋人なんだから」

「違います」

「違わない」

「肯定するなよ、ルカ」

「コル君は私のもの。誰にも渡さない」

「お、おおう、頑張れ」


 一部の冒険者からぼくに殺意の視線が送られてきた。

 ぼくは誰のものになった覚えもないけど、なぜだが悪い気はしない。


「じゃあ、ルカはぼくのものだ。誰にも渡さない」

「ぎゅあふふぅぅ!!」


 ルカが倒れた。


「はぁはぁ、コル君、ピュア可愛いぜぇ、はぁはぁ……」


 これにはみんなドン引きしていた。

 そういうのなければ頼りになる美人で通るのに。

 残念でならない。


「よぉ、迷宮では助かったぜ」

「ずっと礼を言いたかったんだ」

「ありがとよ!!!」

「え? どなたですか?」


 見ず知らずのおじさんたちからお礼を言われた。迷宮でぼくが助けたことになっているらしいけど、そんな覚えはないな。


 そこに慌てた様子の冒険者が店に駆け込んできた。


「お、おい! 聞いたか!? 今、迷宮の奥から戻って来た奴らが、新階層が出来てたってよ!!!」

「マジかよ!! すげぇー!!! これでまだまだ、この迷宮に潜れるぜぇ!」

「そろそろだとは思ってたが、先を越されたか、くっそぉ誰だ!?……」

「あの……先って?」

「ん? 階層が追加になるのは誰かが第一階層主を倒したからだろう。誰かは知らんがね」


 そう言って、おじさんはぼくの顔を見る。第一階層主って迷宮のボスってことだよね? 倒したのはぼくだけど、そういえばドロップアイテムの棍棒をまだ売りに出してなかった。

 名乗り出た方がいいのかな。

 もうバレてる気がするけど。


「新階層出現の祝いだ!! おおい、おかわりくれ!!」

「あ、はーい!!」


 まぁ、いっか。


 迷宮の新階層が出現したことにより、より多くの冒険者が、多くの魔石やお宝を獲得できるようになる。だから新階層はお祝いなのだそうだ。

 お祝いなので酒を、ということになったんだけど、酒屋が来た。

 ついでにパン屋が来たり、芸人が来たり、かなり自由になっていた。相変わらず無言で水を汲んできてくれる人や、洗い物を手伝ってくれる人もいた。

 最後の出店は半日で終わった。





「皆さん、ご利用ありがとうございました! 今後は移動屋台をしようと思います。見かけたらまたご利用の程お願いします!!」

「お願いねー!」


「屋台の名前は?」

「「え?」」

 

 お客さんに聞かれ二人で顔を見合わせてしまった。

 そういえば、思い付きで始めたから考えて無かったな。早く決めないと!


 えぇ〜っと……

 だめだ、発想力が乏しいぼくには荷が重い。こういう時頼りになるのはルカだ。


「ど、どうする?」

「コルベットだとお高そうだしねぇ」

「どうして?」

「ルカは清廉な感じだしね」

「どこが?」


 相変わらずルカの言葉選びの感覚は謎だ。


「よし、じゃあ、エミリーにしよう!!」

「……それってぼくが君に付けようとした名前だよね」

「なんか、この屋台にピッタリじゃない?」

「……そうだね」


 ぼくはなぜ人の名前を屋台に付けるのかと聞きたかった。「エミリーさんは?」と聞かれて「この娘です」と屋台を紹介するのか? せめてぼくらにちなんだ名前にしたらいいのにと思った。

 でも、ぼくもこの数日で大人になった。いやルカとの付き合い方を学んだ。大きな心でルカの感性を受け入れるんだ。


「んん? コル君、気に入らないの?」

「まぁ、もうちょっとお店っぽく……」

「なら、ローソンとかにする?」

「どっちにしろ人の名前なんだね」

「ローソンはちょっと違うんだけど」


 だから、その感性はどこから来てるの?

いや、大きな心だ。ぼくにはわからないけど深い意味があるのかもしれないし。


「いや、もうエミリーでいいよ」


「それでは、今後とも移動食堂『エミリー=ローソン』をよろしくお願いします」


 いや、完全に人にしたよね!? というか、ルカよりも立派になっちゃったよ!


 お客さんたちに言っちゃった手前、もう修正できないけど―――


 ゾンビ、コルベット・ライソン。

 屋台、エミリー=ローソン。

 相棒、ルカ。


―――おかしいよね?


「大丈夫、近いうち私にもファミリーネームができるから」

「一応聞くけど、何て名前?」

「ライソン♡」


 また適当なことを。

 でもなぜかそんなに嫌じゃない。むしろ、生まれて初めて家族ができるかもしれないと思ったら、悪くないと思った。


「それなら、今からライソンにする?」

「ドゥハァッ!」


 ルカが倒れた。

 あ、なんか告白みたいになっちゃったか。名付ければ簡単にその名前になるからしたければやるよ、という意味だったんだけど。


「ごめん。やっぱ無しで」

「なんでぇ~!! コル君は私を何だと思ってるのさ!!」

「頼れる相棒?」

「そうなの~? じゃあいいや!」


 結局その場の勢いでお店はエミリー=ローソンに決定し、出発のための準備に改めて取り掛かることにした。

 屋台に荷車をつなげて、引けるように改造。思いのほか増えてしまった荷物と共に、これで移動するので以前よりも移動スピードは遅くなる。でも、急いでも仕方ない。楽しみもできたことだし、ゆっくりやっていこう。


「コル君、地図買って来たよ」

「うん、ありがとう。さて、どっちの方角に進もうか?」


 街は河川の上流に一つ、下ったところにも一つある。上流の方が大きいが下流の方が数が多い。


「上流に行って、だめなら下流に行けばいいよ。下る方が楽だし」

「そうだね。そうしよう」


 目指すは上流にある大きい街「ロムルス」だ。

 ここならおそらく神殿に力のある神官がいるだろうし、スキルについても詳しいことがわかる。終活が大きく進むことは間違いない。


 その日は保存食を仕込み、買い出しをした。






 出立の日。


「すまなかった。あの男は罰金と追放という形になった。この出店許可持って行ってくれ。それがあれば他の土地でも審査が通りやすいだろう」

「ありがとうございます」


 仕切り役のおじさんがわざわざ出店許可書を渡しに来てくれた。ありがたい。これで堂々と料理人と名乗れる。


「じゃあ、行こうか」

「うん」

「ちょっと待て、その荷車をあなたが引くのか?」

「うん? 最初はね」

「疲れたら交代しよう」


 荷車は交代で引く。おじさんは唖然としていたが仕方ないじゃないか。ぼくは動物に好かれないから馬を飼えない。

 だってゾンビだからね。



営業成績を報告する席で、おれは今期苦戦している要因を分析して報告した。


「読者の好みが変わっただの、流行の変化だの、長雨・猛暑だのと言い訳は止したまえ。ブクマと評価が伸び悩むのはマーケティングの問題だろう」

「しかし、Twitterでの更新報告を……」

「その効果はあったのかね?」


責め立てられたおれは最新の報告書を提出した。


「前回より24ポイント上昇? なぜもっと早くこれを見せないのかね。よし、この調子だ。夏休みはもう取ったのかね? だめだぞ、有給休暇は消費してくれないと」

「私に夏休みなどありえません」

「なん……だと……?」


休みを与えられてもおれは働かざるを得ない。この24ポイントをもらったら24ポイントじゃもう満足できないからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ