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16・5 コルベット・ロス

バズとランスのお話。



 コルベットが迷宮に逃げ込み、ルカがスライムを探しに行っている頃、バズとランスはようやく迷宮に到着した。

 

「出入り自由で、この人混みでは探すのも一苦労だぞ」

「ここにまだいるとは限りませんぞ。まずは、ギルドに行きましょう」

「そうですね」





 二人はギルドの出張所で尋ねた。


「たぶん、お探しの二人はコルベットというフードの少年とルカという眼鏡の女性ですね。二人とも来ましたよ。最初は修行僧のような口ぶりでしたが次の日には屋台を出してました」

「はぁ? 屋台?」

「ええ。今はもう無いですけどね」

「無い? 何かあったんですか?」

「行けば分かりますよ」


 この七日間で何があったのか。

 今まさに何が起きているのか。

 二人は実態を探るため現場に向かった。

 



 出店街に向かうと、騒ぎになっていた。

 屋台が立ち並ぶ一角にガランと空いた場所があり、その前に冒険者たちが何をするわけでもなくたむろしていた。


「ない! まさか、もう店畳んだのかよ〜! 迷宮から帰ったら食べようと楽しみにしていたのぃ!!」

「あの向かいの野郎が、デマを流したらしいぞ」

「病気持ちがやってると言って追い出しやがったってよ」

「ふざけんな、おれは出店した日に食べたが何ともねぇぞ!」


 その会話で大体に全容を理解した二人。


「ふむ、ここにあの2人が出店し、トラブルになって向かいの者に追い出されたということですかな?」

「そのようですね」


 その会話を聞いていたのか、苛立った様子で向かいの店主が会話に入って来た。


「旦那方、店を畳んで逃げたのはあいつらですよ! おれは本当のことを言っただけですって!! それよりどうですか、うちの店はあんな素人の店よりもずっと美味いですよ! 特性甘辛串焼きと特性の肉入りスープです!! サービスしますぜ!」

「……どれ……」


 悪びれる様子もなく、自信たっぷりで進めて来るので物は試しと、一人の冒険者がスープに口を付けた。


「はぁ、あの店の劣化版じゃねぇかよ」

「な、なんだと!!!」

「てめぇはあの店の味を知ってんのか? よくもこの程度で張り合おうとするよな」

「この野郎、こっちが下手に出ているからって調子に乗んじゃねー!!!」


 激昂した店主が物を投げた。

 ケンカになりそうな場面で、すかさずバズが止めに入った。


「待て! 冒険者が一般人に手を出すのは見過ごせん!」

「関係ねぇ奴はすっこんでな!! 」



「やれやれ、争いは対等な者同士でしか成り立たないというが、諸君は我らと争うに足りぬ」



 その一言でランスの存在感が場を支配し、皆動きを止めた。挑発的言葉を聞いてもランスに向かっていく者はいない。

 屈強な冒険者を見下ろす程の身長、若い女性の腰ほどもある腕の太さ、人の頭を握り込める程大きな手。

 冒険者たちは戸惑った。

 なぜ今までこれほどの大男を意識していなかったのか?


「う、うるせぇ! お前らも食ってみろ! こいつが残ってあの店が潰されたなんて腹も立つぜ!!」


 バズは言われるがまま、串焼きを食べた。


「……特別不愉快に思うほどマズくはないとは思うが……」


 正直言うと、食べたいと思う味ではないが、作った者の前でマズいというほど図太くは無かった。


「ちげぇよ! こんなもんならどこでだって食える! 迷宮で自分で肉を焼いて食うのと変わらねぇだろ。あの店の味は違った。こう……手間暇かけてちゃんと作った料理って感じでよぉ」

「そうそう、客の足元見ずに、美味くても安いし、売り子のルカちゃんはかわいくて愛想もよかったし。結構細かく、野菜多めとか肉だけとかも聞いてくれたしな!」

「だからと言って、この店の店主を殴っても、彼らは戻って来ないだろ」


 話しているうちに冒険者たちは無駄だと分かったのかその場を去って行った。


「二度と来るんじゃねーぞ!!」

「店主、話を聞きたいのだが」

「うるせぇ、お前らも注文しねーんなら帰れ!! 邪魔だ!!」


 とても話を聞けるような相手ではない。バズは呆れた。聞き分けの無い子供を相手にしているようだった。


(これはひどい場所を引き当てたな。もう彼らも戻っては来るまい)


 去り際にランスは店主に声を掛けた。


「店主よ、あなたの行いを天が見ておられることをお忘れなく」

「余計なお世話だッ!!」


 激昂する店主。

 慌ててランスを引っ張り、店から離れるバズ。


「ランス殿、わざわざあのような挑発をしなくとも」

「挑発ではなく、忠告です」

「同じことです。あのような者に道徳と常識を教えるなど他人のすることではない」


 親兄弟、身内のすることであり、親身になって一からモラルを説くような子どもでも無ければ好感をもてる相手でも無い。


「そういうつもりで言ったのではありません。あの者は近いうちに死にますので、それを伝えたまで」

「は?」

「最後の時、今の言葉が身に染みるでしょう……身から出た錆であの者は腐敗し、命尽きる。勘ですがね。いや経験則とも言いますか。あの者の顔は短命の者の顔です」

 

 不敵に笑うランスがどのような表情をしているのか、目深にかぶったフードでバズには分からなかった。分かったのは、たった今、ランスがあの店主に死を宣告したということだ。それも、本人が言うような忠告の体を成してはいない。あの何気ない一言が、言葉の意味とは全く逆の意図で使われたことに、謎の大男の意地の悪さを感じ、バズは不気味に思った。


 神を信じる者の説教を装い、その実、救う気がない。


 その心理を推し量れるほど、バズは同行者のことを知らなかった。




 聞き込みで2人の暮らしぶりはおおよそ把握できた。


「ちゃんと前払いで、部屋もきれいに使ってくれてたよ。アンタら知り合いなら置いて行った荷物預かってくれないかい?」


「病持ちとか言われたらしいが、その辺の屋台よりも清潔だったと思うよ。布や石鹸をまとめて買ってたからね。確かに随分痩せてはいたけど、おれらは薬師じゃないんだ。ローブの隙間から見えた腕だけで病持ちかなんてわからんよ」


「迷宮で大型スライムとゴブリンの群れに挟まれたんだ。うん、あの深い紫色のローブはあの少年だった思う。我々を助けて、そのまま迷宮の奥まで行ってしまった。その次の日に屋台で店の片づけをしていて驚いたよ」


「人の構造やら、スキルやら、とにかくありったけの本を出せと言われたんだが、一冊も買ってくれなかった。でも聞かれたことを教えてやったらにっこり笑って投げキッスしてくれたのさ。それだけで満足だぜ」





 やがて二人はまた、最初のギルド出張所に戻って来た。


「ああ、また来ましたか……」


 出迎えた職員はややあきれた様子だ。


「何度もすまない。ルカという女性がここに来て、あなたに質問していったそうですが」

「はい、スライムは何処かと」

「スライム?」

「はい。それで、この辺りには居ないので、山を下った下流の岩場近くだと教えたら、飛んで行ってしまいまして」

「やはり、もういないか」


(だが、なぜスライム?)


 バズとランスは散々聞き込んだあげく、2人はもうここにはいないと結論付けた。


「バズ殿、もう日が暮れます。食事にしましょう」

「そうですね。明日、朝一番で山を下りましょう」





 宿への道中、2人は再びあの店の前を通りかかった。すると、すでに店は跡形も無かった。



「ここ、どうしたんですか?」

「仕切り役が話を聞いたら、あの店のレシピを盗んだかもしれないと分かったらしい。まぁ、わかっちゃ居たが、今までは怒鳴り散らして煙に巻いてたんだ。冒険者たちからの苦情が多くて、出店許可取り消しになったんだと。熟練冒険者たちが何人もやって来て、さすがのあの野郎も反論できなかったようだ」

「そこまでして、良く死人が出なかったものだ」

「大げさな! ずる賢い男が1人捕まっただけだぜ」

「いや、その話ではない」


(レシピを盗まれ、追い出され、それでも相手を殺さず逃げた? まるで弱い人間の少年と変わらない。おれは思い違いをしていたのかもしれない。あの虐殺はそもそも彼の意志だったのか? 条件発動型スキルなら、彼の意志は関係ない。悪意など、初めから無かった?)


「バズ殿。無害ならば放置、で良いではありませんか?」

「はい。あ、いや……騎士殿を前に職務を放棄するなど致しませんよ。ただ、彼と会って、彼がもしあの本の被害者であるならば、追い詰めるようなことはしたくありません」

「食べてみたいものですな、彼の料理」

「ええ」

「そういえば、ランス殿の予言は外れたようですね」


 店主が近いうちに死ぬという状況は、起きるとしたら出店取り消しのいざこざの中だが、それがケガ人なく済んだのなら、もう死人は出ない。バズは同行者の予言が外れたことに安堵した。店主の命を按じてではなく、不気味だったからだ。


「いいえ、あの者は死にます。ですが、バズ殿、気にしないで下さい。あなたがそれを知ることは無いのですから」

「は、はぁ……」

 

 五十代の老兵との距離感をバズは年齢以上に遠く感じた。ただ、自分には見通せない何かがこの大男の眼にはハッキリ捕らえられているような気がして、それが老獪な知恵のものなのか、スキルのものなのかは謎だった。





 翌朝、2人は手掛かりであるルカの行方を捜しに山を下った。しかしそのころ、まだコルベットは迷宮にいた。






 バズとランスとは入れ違う形でルカはスライムを連れて迷宮に戻ってきた。


「疲れた……何とか命令を聞く子を見つけたはいいけど、スライム片手にモンスターやら山賊やら相手にするは面倒だったなぁ〜」


 ギルド出張所の前を通りかかると職員がルカに気が付いた。


「おや、ルカさん、戻って来たんですか? そ、それはスライム! 一体この短時間でどうやって」

「根性だよ〜! 人間根性あれば何でもできんだよ〜!!」

「キャラが変わっていませんか? あ、それより、お二方を探している方が来られましたよ」

「ん? 誰ですか?」

「白銀のルーキーと言えばお分かりですか?」

「お分かりじゃないです。だぁれ?」


 職員の説明を聞くが、ルカがバズと目を合わせたのは一瞬のことで、ルカはバズの名前も顔も知らなかった。


(コル君の知り合いじゃなければ、討伐隊かな。人間相手は面倒そうだし、ここを離れた方が良さそうね)


 ルカは宿に戻ってサンドイッチをこしらえ、スライムを持って急いで迷宮の最奥地に向かった。


 


「ブクマが欲しい!! ブクマがぁぁぁ。おれはブクマが無いとダメなんだぁ!!!」

「ブクマが欲しければ、更新しろ。評価が欲しければ質も要る」


 マジックミラー越しにいつも同じ返答が返ってくる。


「更新したらブクマがもらえるのか? 絶対だな!?」

「そんな保証はない。つまらなければブクマは減る」

「そ、そんなぁ!!! 毎日なんて無理ぃぃ!!」

「ブクマが欲しければ、更新しろ。評価が欲しければ質も要る」


 マジックミラーに映る自分を見て気が付く。頼るべきは自分自身だと。

 一体いつからここにいるのか、いつになったら出られるのか。

 男は自問自答をやめて、『次話更新』をクリックした。

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