16.ゾンビ×スライム
「コ〜ル〜く〜ん!! たっだいま―――ぎゃああ!!」
やけに明るくルカが迷宮最深部の部屋に来た。
どれぐらい経っただろうか。時間の感覚が無い。
「何してるのー!!!」
何とは、オーガ・ファイターの棍棒を駆使した猛攻を前に、ぼくが壁に寄りかかって座り、無抵抗なことを指しているのだろうか、いやそうに違いない。
残念ながら、復活したオーガ・ファイターの長時間に渡る攻撃も大したダメージにならなかった。
「やめろや〜!!」
オーガ・ファイターは接近したルカに気が付き身を翻すが、抵抗虚しくあっという間にルカの蹴りで首をもがれ、魔石に変わった。
そんなことをしてもまた復活するのに。ぼくなんてもう多分三十匹ぐらい倒し続けたんだ。
その内、戦うより無視してた方が楽だと気が付いた。
「コル君、言ったでしょう。私が何とかするって!!」
「そうだっけ? それより、ボロボロじゃないか」
「おまいうぅぅぅ!!!」
まぁ、ぼくがボロボロなのはいつもじゃないか。
ルカはせっかく美人なのに泥だらけで服も所々破れている。
それに似合わない何やら大きな荷物を背負っている。
「急いでたから。コル君にあれを届けるために」
ルカがちょいちょいと手招きすると、扉の向こうからプルプルとした青い物体が現れた。
「スライム?」
「そうだよ」
「なんでスライムがルカの言うこと聞くの?」
[ピコーン]
===ステータス===
■ルカ(?)
・種族:人族?
・職業:テイマー
・レベル.1
・体力:− 魔力:− 精神力:− パワー:− スピード:− 運気:− 器用度:−
ルカの職業がテイマーになっている。
モンスターを従えられるのか。
ルカがぷよぷよと寄って来たスライムを抱き上げ、ぼくに駆け寄って来た。
「はい、じゃあ、これ殺して」
「え?」
[!!]
心なしかスライムも聞いてないよ!というリアクションをした気がする。
なぜわざわざスライムをここまで連れてきて殺せというのか。
このスライムに何が?
[ピコーン]
===ステータス===
■スライム(3)[テイミング]
・種族:魔物
・レベル.2
・体力:F 魔力:E 精神力:E パワー:E スピード:E 運気:F 器用度:E
・スキル
C:『消化・吸収』
「へ? まさか……!!」
「そのまさかだよ。いいから早く」
彼女が何をしたいのか、分かった。
スライムにデコピンした。
爆散した。
《『スキル強奪』発動 『消化・吸収』を獲得》
スライムの体液を被ってルカはびしょ濡れになってしまった。はて? パッと消えないということは今のスライムは迷宮産ではないのか?
「はい、これも」
「……」
ルカが手渡したのはサンドイッチ。ぼくが下ごしらえした肉と野菜を挟んだもの。
物は試しと、意を決して口に含む。
正直、味はしない。
飲み込んでみる。
《スキル『消化・吸収』発動……成功》
「おいしい? ルカの愛妻弁当だぞ〜!」
「……うん」
「ほぉッ!? も、もっとたくさんあるからお食べ!」
「うん」
食べることの喜び。生きているような実感が、無いはずの食欲を駆り立てる。
ぼくはルカが用意してくれたサンドイッチを全部平らげた。すると、身体の変化に気が付いた。
「ほら、コル君、見てみ」
「ああ」
ルカの手鏡には生前の自分が写っていた。スキルによる消化・吸収はあっという間に食べ物をぼくの身体を回復させた。
「君への罪滅ぼしになるかわからないけど、私は君を見捨てない。だから、私からは逃げないでね」
「ルカ……ありがとう」
見た目が戻っても、堂々と生きることはできない。でも、彼女がいなかったら、ぼくの地獄は何百年続いたことだろう。
正直、身体の変化よりもルカがぼくのために必死になってくれたことがうれしかった。
「さぁ、帰ろうね。屋台は別にどこで開いてもいいんだし」
「そうだね」
===ステータス===
■コルベット・ライソン(享年17)
・種族:アンデッド
・職業:ハイゾンビ
・レベル.99
・体力:A 魔力:S 精神力:A パワー:S スピード:S 運気:D 器用度:S
・スキル
SS:『スキル強奪』
S:『言語マスター』『オートスキル』『経験値倍加』
A:『文筆・熟』『ステータス確認』『治療・大』
B:『革細工』『改竄』『直感』『棍棒・中』『再生』『筋力向上・中』『斧・中』『火耐性・大』『火魔法・中』
C:『☆消化・吸収』『調合・中』『採取・大』『見切り』『投擲・中』『潜伏』『索敵』『体温調節』『精肉・中』『格闘・初』『投げ・初』『短剣・初』『飼育・中』『栽培』『裁縫・中』
D:『酸耐性・小』『粘着耐性・小』『風耐性・小』『光耐性・小』『解体・中』『嗅覚向上・小』『視覚向上・小』『聴覚向上・小』『弓・初』『調理・中』『掃除・中』『解毒・初』『採掘・中』『伐採』『算術・初』
E:『威嚇』『発声・初』『看病・初』『採石・小』『釣り』
「え? もう三日!?」
「そうだよ。コル君が迷宮に籠って三日間、大変だったんだよ? なんか私たちを探してる人もいたらしくてね。あ、屋台はちゃんと隠しておいたから」
「うん。それより探してる人って?」
「え~と、バズって冒険者知ってる?」
「知らない」
「じゃあいっか!」
二人は互いにいなかった間のことを話しながら迷宮を脱した。
「ブクマ、評価が欲しいぃぃよぉ゛ぉ゛ぉ!!」
しかしそんな彼の叫びも、風に吹かれかきけされていく。強烈な風が彼の足元を危ぶめる。
それでもビルとビルの鉄骨の上から見えない人たちに向かって叫び続けていた。
「ブクマしでぐださぁぁぁいい!!! 続きが気になったらでいいからさぁぁぁ!!!」
お願いしまーす。




