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15.ルカのゾンビ考察

ルカ視点です。


 ゾンビとは本来、腐乱した肉体に自我を持たないモンスターである。あるのは原始的欲求。すなわち襲って食べる。

 その体は健康的な人間よりも当然脆弱で、腐れば勝手にスケルトンという骨だけのモンスターに格落ちする。


 しかし、コル君の場合、このゾンビとは異なる点がいくつもある。

 自我があること、身体能力が優れていること。


 これは〝ハイゾンビ〟というゾンビの上位種へ進化したためと思われる。


 だとしても、自我があるということや流暢な緻密な作業、思考や感情があることから、彼の脳はまだ大部分が活動していると推察できる。しかし、その為には血液循環による酸素供給が不可欠。彼の体内に液体として循環する血液が残っているとは考えにくい。心臓は止まってるからだ。

 また、肉体を動かすためのエネルギーを体内のグリコーゲンに頼っているとしても、この10日前後の激しい活動を支えるだけのエネルギーを彼のやせ形の体形で初めから持っていたとは考えられない。


 結論、彼の身体は生命活動に必要なものを体内の器官以外の力で摂取している。

 とすれば、おそらくそれは〝魔力〟だろう。

 

 スケルトンが筋肉が無いにもかかわらず動けるのは魔力を動力にしているから。


 それと同じで、コル君の身体をめぐる魔力は生命活動に不可欠な各器官の働きを代行している。


「―――ならば魔力によるエネルギー摂取の効率を向上させる? いえ、それでは逆効果か」


 なぜ、コル君の身体が腐敗し、衰えていくのか。魔力が各器官の代行をきちんとしているなら初めから彼は衰えたりしない。魔力量にしても複数のスキルを使って枯渇しないだけの量を保持している。

 きっと、魔力による活動はモンスター的生命維持の手段であり、ゾンビである彼にとってエネルギーとは肉体の維持のためのものではないからだ。

 食べ物を消化・吸収できないからではなく、必要が無いからそこに魔力が働かない。

 もし、魔力によるエネルギー摂取と、活動の維持に依存してしまえば、増々モンスター的性格を強めてしまうだろう。


 今の彼に必要なもの。それは摂食によるエネルギー摂取。でも、内臓は動いていない。内臓を動かすスキルを探す? いえ、それでは限定的すぎる。血管に栄養剤を投与しても血液循環が無いし、やはりスキルかな。

 


「―――そうか、モンスターの中には魔力供給ではなく、消化・吸収で生命維持しているものもいるはずよね」


「あの〜、お嬢さん、その本は買っていただけるので?」

「役に立たなかった。モンスターの生態についての本はない?」


 人体にまつわる非科学的な本を突き返し、露天商にありったけの本を持って来させた。

 私は手当たり次第に露店で売っている本を探した。しかし、大きい街ならいざ知らず、露店で売っているものは学術書というより、簡易マニュアルのようなものだけ。


『勇者ランススキルの匠 組み合わせの重要性』……人側のスキルについて漠然とした記述ばかりね。モンスターのスキルについての本は、ここにはないようだし。


「ねぇ、モンスターについて詳しい人を知らないかしら?」


 立ち読みに迷惑そうな露天商のおじさんに満面の愛想笑いで聞いてみる。


「はぁ、何も買わずに情報だけッてかい? お嬢さんかわいいから特別だぞ?」




「あなたは、いつぞやの。あの時はまんまと騙されましたぞ。聞けば、屋台で売り子をしているそうじゃないですか」


 以前500ソロスを恵んでもらったギルド出張所。

 結局、モンスターに一番詳しいのは冒険者ギルドの職員だそうだ。今、頼れるのはこの人だけだ。


「ごめんなさい! 私の大事な人が大変なんです。どうかお知恵を貸してください。500ソロスはお返しします」

「そう素直に謝れると、弱いですな。まぁ聞くだけ聞きましょう」


 私は消化・吸収で生きる上、消化・吸収にあたる器官を持たないモンスターを知らないかと聞いた。

 言い換えれば、スキルによるエネルギー摂取で肉体を維持するモンスターがいないかどうかだ。


「必要なら、冒険者の方に聞いていただいて」

「ははぁ〜ん、なるほど。またからかっているのですね?」



 しまった。あまりにも質問が突飛過ぎた!?

 でも、コル君がゾンビであることを隠してこれを聞くのは難しい。どうする、どこまで話す?



「そんな簡単な質問に答えられないようでは、ギルドの職員は務まりませんよ」

「え? 簡単……?」

「はい、だって、スライムでしょう?」



「スライム?」



 職員は私を見て、不思議そうな顔をしている。なぜそんな当たり前のことを聞くのかと。


「ああ、スライム……そうね」


 いやでも、待って。迷宮に入った時、スライムにも遭遇したけど、コル君も倒してたはず。じゃあ、スライムにはスキルが無かったということよね。


「その……スライムにはエネルギー摂取に関するスキルは無いと思うのですけど」

「ひょっとして迷宮のスライムのことを言って……ああ、あなたが言わんとすることがわかりましたよ。迷宮生態論についてお話ししたかったのですね!」

「違います。何ですかそれ?」

「いや、迷宮のモンスターは迷宮で無限に生まれます。だから生態が地上のそれとは変質している。言ってみれば、本当の生命と疑似的な生命の違いです。そのせいで、同じモンスターに見えても、迷宮と地上では能力や強さが異なる。当然持っているスキルも異なります」


 なるほど、生物の環境適応による進化と退化か。摂食による肉体維持が必要ない迷宮産モンスターは必要のないスキルを持たず、代わりに攻撃的側面が強化される。


「では、迷宮のスライムと地上のスライムの違いは?」

「もちろん、迷宮産は酸性の液体を吐く凶悪なモンスターで、ドロップアイテムは酸耐性の武器生産に使われる核。一方、地上では弱小モンスターで、その体液は美容効果、滋養強壮にも使われるものです」



 弱小モンスターはコル君に近づけない。

 遭遇しない。

 スキル強奪が及ばなかったモンスター。


「あ、スライムの体液って……」


 なぜもっと早く気が付かなかった。


 私、美容パックのためにスライムの体液買ったじゃないか!!

 スライムが捕食のために使っている体液が、死後は美容成分を含む無害なものになるということは、スライムは体液に触れたものをスキルで消化・吸収しているということ。



「スライムは何処にいますか!!」



 


読んでいただきありがとうございます!

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