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13.スキルとレシピ



 迷宮に来て3日目。魔本を直してルカに開かせたけど何も起きない。


「何か変わった?」

「う〜ん、分からない」


 試しにステータスを確認してみよう。


===ステータス===

・ルカ(?)

・種族:人族?

・職業:???

・レベル.1

 体力:− 魔力:− 精神力:− パワー:− スピード:− 運気:− 器用度:−


「いや〜ん! コル君のエッチ♡」

「まだ発動要件を満たしてないみたいだね」

「む、無視!?」


 まぁいい。

 光ったということは修繕は正しくできたわけで、その内スキルは発現するだろう。何のスキルかは……えっと『スキルレンタル』……[同意した者からスキルを貸し借りできる]……かぁ。


「ええ!!? 読める!!」

「え? だってコル君『言語マスター』持ってるでしょう」


 あ、そっか。スキルの効果か。耐性スキルや技能系スキルと同じで常時発動型はアナウンスがないから分かりにくいんだよな。


「発動要件は書いてないの?」

「ちょっと待って……あった! [スキルを五つ以上取得する]だって……」

「無理じゃん」

「無理だね」


 これこそ、ぼく向きのスキルだったか。いやでもルカにスキルを習得させればいいわけで、それにも魔本は今後も必要だ。


「ありがとうコル君。いつか、役に立つ気がする」

「うん。さぁ、屋台を開く準備をしよう」




「よぅ、頑張ってるな」

「あ、どうもおはようございます」


 向かいの屋台のおじさんが声を掛けて来た。


「全く、こうも人気な屋台が向かいにできたんじゃ、商売にならねーぇな、はは……」

「はは……」


 そんなことを言われてもどう返していいかわからなくなる。


「もう、冗談辞めて下さいよ〜。そっちは鉄板焼きじゃないですか〜」

「まぁ、そうなんだが。アンタみたいな美人が売り子してたらみんなそっちに行っちまうだろう?」

「もう〜、お上手ですね。手が空いたらそっちでバイトしましょうか?」


ええ、やめてよ。


「それより、なぁ、おれはここで十年店を出してる。そこで、物は相談なんだが……レシピを売ってくれねぇか?」

「え?」

「はぁ?」


 冗談かと思ったら、マジらしい。どうしてそうなる?


「ここで店を出しているのは街じゃ出せない料理人としては二流の奴らばっかりだ。荒っぽい輩も多い。難癖付けられて閉店させられた奴をおれはたくさん見てきた」

「それとレシピの話は別でしょう?」

「いや、だから、レシピが特別だと目立つだろう。少しずつお前たちの店の味を、この出店街で流行らせれば、みんな潤うし、争わなくて済む。お前たちもずっとここで店を続けられるぞ」


 そういうものなのか。

 ぼくのレシピももとは働いていた店のマネだし。


「要するに、あなたにレシピを売らないと、私たちの店を潰すってこと?」

「え?」


 ぼく寝てたか?

 いつの間にそんな話に?


「嬢ちゃん、そう目くじら立てなさんな。処世術ってやつだ。ここではここのルールがある。従うかどうかはお前たち次第だ。ただ、おれは提案してるだけだぞ」

「どうする、コル君?」


「いいです。売ります」


 レシピと言っても、特別な隠し味なんてないし。




 迷宮に来て四日目。出店して3日目。


 もうぼくたちの店は迷宮でもかなりの名物になったようで、順番待ちの列までできるほどだ。勝手にルールもできて、スープの皿は終わったらセルフで洗い戻すことになったらしい。皿は毎日ぼくが木から削り出しているけど、それでも足りなくなるのだ。


「う、うめぇ!! 肉汁がじゅわっと、外はカリッとして、このタレがまた甘辛くてさっぱりとした後味にしてくれる!!」


「おお〜おれもそれくれ!!」

「おれもおれも!!」


 お客さんの中にはやけに味に詳しい人もいて、ややオーバーなリアクションの人もいた。そのおかげもあってか、毎日材料を増やしているのに、二回目、三回目と並ぶ人もいて必ず完売になる。


「イェ〜イ、お疲れ様、コル君!!」

「今日も完売だね。売り上げは2000ソロスだ」


 この屋台を出して三日で延べ4500ソロスも儲けた。


「長椅子を増やそうかな。それに水樽を追加しとかないと」

「フフ、なんか知らない人が水汲んできてくれてたね」

「ね〜、いい人多いんだな、冒険者って」


 とか、呑気な会話をしていたらドスドスと押し音が近づいて来た。


「おい、ちょっとお前ら、これはどういうことだ?」


 またお向かいさんだ。

 お昼時だが客はいない。でも食材の木箱は朝見たときと全く同じだ。


「お前ら、おれを騙したな?」

「なんのことかしら?」

「とぼけんな! なんで、お前の店は儲かって、こっちは閑古鳥なんだよ!!」


 ええ〜、そ、そんなこと言われても……


「昨日、お前が言った通りのレシピに、おれのアレンジを加えた特性串焼きとスープを用意したってのに、客がハッキリ言ったぞ。『向かいの劣化版』だとな!!」


「そ、それは……」

「お前、おれにウソのレシピを言っただろう!!」

「おお、なんだ、もめ事か?」


 お客さんが寄って来た。さすがにそれでお向かいさんは黙ったが、嫌な予感がした。


「まさか、あんな言いがかりをつけて来るなんて」

「自分で言ってたでしょう? 二流なんだって。だから、コル君のレシピを真似しただけじゃ、コル君の味は再現できないよ」

「そうかな?」

「私、仕込みの時どう調理してるのか見たけど、ひどかったよ。あの、おじさん、スープつくるとき肉の脂身は採って無かったし、野菜の切り方も適当。コル君みたいに時間も測って無かったし、煮込んでる最中鍋を見ないで途中お酒飲んでたし」

「うわー、灰汁採ってないんじゃ……」

「スキル『調理・中』ありって看板掲げてるけど、スキル以前の問題」


 ぱっと見でそんなにひどいなら、下ごしらえや食材選びも適当だろう。


「接客中もちょっと見てたけど、値段書かずに売って食べ終わった後にスープ一杯5ソロスって言って、ケンカしてた。高いって」

「5ソロスは高いよ。それなら食堂で定食が食べられるもの」


 ちなみにうちは串焼き2本3ソロス。スープ3ソロス。

 串焼き三本とスープのセットで5ソロスだ。


「厄介な人に絡まれたね」

「あんまりひどかったら仕切り役に相談しよっか」

「そうだね」


 ぼくたちはまだ、このことをあまり深く考えていなかった。

 


読んでいただきありがとうございます。最近PVを見るのが癖になってます。

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