12.出店と古文書修繕
迷宮に来て二日目。
ぼくとルカは開業した。
「う、うめぇ、何だこりゃ!! 普通に大きい街の食堂並みの上手さだぞ!!」
「このスープ、肉がゴロゴロ入ってるのにこの値段かよ! しかも口に入れたら噛まなくてももう無い!」
「このソース甘みがあっていつもの串焼きと全然違う。塩味に飽きてたところだ。もう一本くれ!!」
大繁盛も大繁盛。夜通し仕込みをして、ソースやスープも煮込んで寝かせたものだ。肉はその辺で狩って、自分で解体したから新鮮そのもの。それにタダ!
「いらっしゃませー! 安くておいしい甘辛串焼きと、トロトロお肉のスープはいかがですかー」
「うお、えらい別嬪のネーちゃんだなー。よし一本くれ」
初日にこんなに売れるなんて。皆ルカの売り子に引き寄せられてるみたいだ。美人で愛想がいいから客受けもいい。テキパキしてるから一人でたくさんのお客さんを回せる。すごいなぁ。ぼくはお客さんの前に出られないから接客はルカ任せにしてしまうのが不安だったけど、前にやってたのかな。
なんて、呑気に考えてる暇はない。ルカがどんどん売りさばくから、ぼくも手を止められない。
ぼくの料理でみんなあんなに笑顔になるなんて。夢みたいだ。
ゾンビでも楽しいと感じることができるらしい。
生前、ぼくが望んでいたのはこういう暮らしだったのかもしれない。
その日は朝からお昼までで、用意していた食材が無くなり完売となった。
「すごい儲けだよ! 一日で1000ソロスの売り上げだ」
「やったね。これでお金の心配はもういらないよね」
生前のぼくの月給よりも多い金額を一日で稼いでしまった。ルカと共に安宿からお風呂のあるちょっといい宿に移った。ルカは消耗した塩や香辛料の買い出し。あと今まで後回しにしていた生活雑貨や化粧品を買いに出かけた。ぼくは仕込みを終わらせ、道具屋に向かった。
◇
「コル君、どうよ?」
「どうって?」
「もう、わからないの?」
宿に戻るなり、鏡を前に三十分ほど化粧をしていたのはわかってた。元々整った顔立ちできれいだから違いが判らない。
「なんかこう、胸がキュンとならない?」
「ゾンビだからならない」
「ウソつき~」
ギクリ。
最近胸がキュンとすることがあった。
魔本を発見した時だ。
一目見て『リベンジャー』の魔本と同じ類のものだと直感した。
つまり、この本にはスキルが封印されている。ぼくはこの本を修復したいという衝動に駆られた。もちろん、この本の中に封印されたスキルがぼくを人に戻すか、ゾンビのぼくを終わらせられるものかもしれないという期待もあった。でも、本心を言えば、ぼくはおやっさんにもらったノウハウと今のスキルを駆使して、この本を元の状態に戻したい。ただそれだけだった。必要な道具やインク、薬剤は揃えた。この本なら劣化はそこまでひどくないから何ページか直せば元通りだろう。
「料理してるときもそうだけどなんだか生き生きしてるね」
「皮肉かい?」
「違うよ〜! 本当に、いい顔してるよ。ホラ」
ルカが手鏡を見せた。
そこにはボロボロの皮膚とぼさぼさの髪をした、頬がコケ、眼がくぼみ、歯茎がむき出しのゾンビがいた。ザ・ゾンビである。
「ひどい顔だ」
「前よりマシだよ?」
「うるさい、厚化粧!! そっちこそ老けて見えるぞ! 」
「ええ!! ナチュラルメイクのはずなのに……まさか、私自身が老けたってこと! まだ六日目なのに!!! いやぁぁ!!」
ルカは急いで何かを作り始めた。
ぼくは自分の作業に没頭したので気にしていなかった。
一人で修繕をやるのは初めてだったけど、作業は夜通し進んだ。
やればやるほど、ぼくの技術は段飛ばしで上がっていった。スキルが向上したからだ。
《スキルが上達しました 『採取・中』が『採取・大』へ》
《スキルが上達しました 『調合・小』が『調合・中』へ》
《スキルが上達しました 『速記』『校正』が『文筆・初』へ》
《スキルが上達しました 『文筆・初』が『文筆・中』へ》
《スキル『達筆』を獲得しました》
《スキルが上達しました 『文筆・中』『達筆』が『文筆・熟』へ》
《スキル『改竄』を獲得しました》
《スキルが上達しました 『革加工・中』『服飾・初』が『革細工』へ》
===ステータス===
■コルベット・ライソン(享年17)
・種族:アンデッド
・職業:ハイゾンビ
・レべル.91
・体力:A 魔力:A 精神力:A パワー:S スピード:S 運気:F 器用度:S
・スキル
SS:『スキル強奪』
S:『言語マスター』『オートスキル』『経験値倍加』
A:『↗ 文筆・熟』『ステータス確認』『治療・大』
B:『↗ 革細工』『☆改竄』『直感』『棍棒・中』『再生』『筋力向上・中』『斧・中』『火耐性・大』『火魔法・中』
C:『↗ 調合・中』『↗ 採取・大』『見切り』『投擲・中』『潜伏』『索敵』『体温調節』『精肉・中』『格闘・初』『投げ・初』『短剣・初』『飼育・中』『栽培』『裁縫・中』
D:『風耐性・小』『酸耐性・小』『粘着耐性・小』『光耐性・小』『解体・中』『嗅覚向上・小』『視覚向上・小』『聴覚向上・小』『弓・初』『調理・中』『掃除・中』『解毒・初』『採掘・中』『伐採』『算術・初』
E:『威嚇』『発声・初』『看病・初』『採石・小』『釣り』
◇
翌朝。
「どう、コル君?」
「おはよう、なに?」
「何って、何か気づかないかい?」
肌がピカピカつやつやしている。ゆでた卵の白身みたい。
髪も前に増して艶々、さらさらとしている。
「きれいになったね……不自然なくらいに」
「でしょう! お肌によさそうなものでパックやトリートメントを作っちゃった!」
ルカはルカで色々と調合して器用に何か作ったらしい。それが何の役に立つのかは知らないけど。
「コル君も試してみる? お肌が蘇るかもよ。栄養を肌から吸収させてみるの」
「おお、そっか! それはすごい!!」
相変わらず、ぼくには想像しようもないようなものを……
「あ、じゃあ、ぼくからもプレゼントがあるんだ」
「これあの魔本? すご~い、新品みたい!!」
「最初から最後まで開いてみて。上手くいけば、スキルを授かるかもしれないよ」
ぼくを生かすも殺すも、そのスキルを持つのがぼくである必要はない。それにルカはスキルが無い。ぼくと同じような目にいつ遭うとも限らない。
「イェーイ! コル君がデレたぜ!」
「はぁ、何言ってんだよ。ぼくはただ、スキルが多すぎて自分じゃ要らないだけだよ」
「テンプレ通り、ありがとうございます! んもーチューチュー」
「ばか、止めろ、ぼくはゾンビだぞ!」
「じゃあ、早く元に戻ろうね!!」
はぁ、この人のテンションの上がり方にはいまだに慣れないな。
ルカが本を開いた。
一枚一枚ゆっくりとめくっていき、最後のページを開くと、前と同じように本から淡い光が一瞬立ち上った。
読んで頂きありがとうございます!!!




