11.迷宮になじむ
迷宮とは、言わずと知れた古代の謎の遺跡。
内部にはモンスターがひしめき、罠が張り巡らされている。それでも人々はこの場所に群がり、我先にと飛び込んでいく。
隠された秘宝、迷宮内でしか手に入らないアイテム、モンスターの魔石など、格好の稼ぎ場だからだ。同時に謎と神秘、探索の歴史、ロマンが人を迷宮へと誘うのかもしれない……
迷宮とは言い換えれば命のベットで一攫千金のチャンスをもたらす、夢とロマンあふれる質の悪い魔窟。
毎年迷宮に入り、戻って来なかった者が後を絶たない……
そこにぼくとルカが入ろうとして止められるのは当たり前だ。武器も持っていないのだから。
「やめとけ! 冒険者でもない素人が入るなんて自殺行為だ!!」
「大丈夫です。水と食料、それに地図もあります」
「どこが? 遊びじゃないのだよ?」
「コル君お手製のランチボックス!」
「いや、迷宮探索をピクニックと一緒にするなぁ!! 待てぇ!!」
という周囲の制止を振り切り、10分。
遭遇したモンスターをルカが片っ端から倒してしまった。ちまちまと魔石を拾うのが面倒になってきた。
「……コル君、もう飽きた」
「ごめん」
「ん? なんでコル君が謝るの?」
まるで、デートプランを完全否定された彼氏みたいになってしまった。
ルカがだまし取った500ソロスで、ちゃんとした地図を買った。そこにはもうほとんど経路が網羅されていて、本当にただのピクニックと変わらなかった。なんのドキドキもワクワクも無い。いや、それはぼくがゾンビだからとか関係なく……
「持てるだけの魔石は採れたし、帰ろうか」
「ちょっと待って。ルカは先に帰ってて」
「ええ~やだぁ~こわ~い」
同年代の女に嫌われそうだよな、ルカって。かわいいから許されてるけどもうそんなブリッ子する年じゃないだろうに。
「一人じゃ帰~れ~な~い~!!」
「地図にないところまで行ってみるから、それ頼むよ」
「え? ホントに一人で行っちゃうの? ねぇ、この山もりの魔石、私が運ぶの?」
ぼくは何処までいけるか試してみることにした。なんせぼくにはモンスターが寄り付かない。一人なら戦闘にならずに済む。
「コル君の薄情者~!!!」
地図通りに全力で駆け抜ける。
「うぉぉぉぉ、なんだ!?」
途中モンスターに囲まれた冒険者とすれ違った。戦闘中ですね。失礼しまーす!
冒険者の脇を通り過ぎ、モンスターは避ける必要がないのでひき殺して行く。スライムとゴブリンだったと思う。
《『スキル強奪』発動 『酸耐性・小』『粘着耐性・小』》
◇
5分ほどで最深部にある扉までたどり着いた。
「この先は未達成。つまり、お宝がまだ手付かず」
ほ~ら! ゾンビでもワクワクするのさ。
ぼくは躊躇なく扉を開けた。
扉の向こうには広い空間があり、角の生えたゴブリンのようなモンスターがいた。
ぼくはその横を素通りして奥にある宝箱に手を伸ばした。
へへ、楽勝だぜ!
[グロォォォ!!]
突然こん棒で襲われた。
あれ? 他のモンスターとは違うのか?
余裕で回避し、反撃。ところが角付ゴブリンは巨体を翻し、ぼくのパンチを避けた。
勘がいいのか?
ちょっと見てみよう。
「『ステータスオープン』」
===ステータス===
■オーガ・ファイター
・種族:魔物
・レベル.29
・体力:B 魔力:B 精神力:C パワー:B スピード:B 運気:C 器用度:C
・スキル
B:『直感』『棍棒・中』
C:『見切り』
D:『火耐性・小』『風耐性・小』
なるほど、『直感』と『見切り』か。
あまり肉体を酷使すると、またゾンビルック度が増してしまう。宝箱持って逃げようかな。
[グロォォ!!!]
あ、宝箱の前に陣取られた。
もう面倒だ。倒してしまおう。
その辺の岩を投げた。人の頭ほどの大きさの岩は『投擲・初』のおかげか、きれいな回転で真っ直ぐ飛んで行った。
[グロッ!!]
予想通りオーガ・ファイターは寸前で躱した。その後ろで壁が破裂した。オーガー・ファイターはそれに一瞬気を取られた。
「いただきます!」
躱した態勢から動き出すよりも、ぼくのほうが早い。
オーガ・ファイターの背後に回り込み、頭を掴んでねじ切った。
迷宮のモンスターは倒すとパッと消える。体内の魔石がゴトリと落ち、持っていた棍棒も残っていた。たまにアイテムを落とすモンスターもいる。これも金になるぞ。
《スキルが上達しました 『投擲・初』が『投擲・中』へ》
《『スキル強奪』成功 『直感』『棍棒・中』『見切り』『風耐性』獲得》
《レベルが上がりました レベル.90→レベル.91》
またスキルがこんなに。しかも『経験値倍加』のスキルのせいか、まだレベルが上がるのか。
「『ステータスオープン』」
===ステータス===
■コルベット・ライソン(享年17)
・種族:アンデッド
・職業:ハイゾンビ
・レベル.91
・体力:A 魔力:A 精神力:A パワー:S スピード:S 運気:F 器用度:S
・スキル
SS:『スキル強奪』
S:『言語マスター』『オートスキル』『経験値倍加』
A:『ステータス確認』『治療・大』
B:『☆直感』『☆棍棒・中』『再生』『↗ 筋力向上・中』『斧・中』『火耐性・大』『火魔法・中』
C:『☆見切り』『↗ 投擲・中』『潜伏』『索敵』『体温調節』『革加工・中』『精肉・中』『格闘・初』『投げ・初』『短剣・初』『飼育・中』『栽培』『裁縫・中』
D:『☆風耐性・小』『☆酸耐性・小』『☆粘着耐性・小』『光耐性・小』『服飾・初』『解体・中』『嗅覚向上・小』『視覚向上・小』『聴覚向上・小』『弓・初』『調理・中』『掃除・中』『調合・小』『解毒・初』『採掘・中』『採取・中』『伐採』『算術・初』『速記』『校正』
E:『威嚇』『発声・初』『看病・初』『採石・小』『釣り』
さぁて、お宝は何かな?
ぼくは宝箱を開けた。
「なっ、これは……!」
◇
「巨大魔石と、ラスボスのドロップアイテム!! それとこれはゴミだね」
「違うよ! これが最大のお宝だよ!!」
迷宮を出て、泊っている簡易宿に戻ったぼくはルカと共に戦果を確認した。
二人で集めた小さい魔石はすでに200ソロスで売れた。
巨大魔石はもっとだろう。棍棒は分からないけど何か魔道具のような効果がある物なら高く売れる。
問題は宝箱の中にあったものだ。
それはボロボロの〝魔本〟だった。
ルカは旅先ではしゃぐ三十路OLだと思って書いてます。
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