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第二十六話 異世界航空部隊

「いやぁ、愉快愉快!」

 

 玉座の間にクロヴァス王の盛大な笑い声が響いている。同席する他の人々の顔も賑やか。喜んでいるというよりは、どこか安心している様子。中でもシエルは誇らしげな偉そうな態度を見せている。


 一足先に戻ってきた幸樹とシエルは、グライダーを係留した後、城内に戻ってきた。そして玉座の間で国王たちと一緒に戦地からの吉報を待っていたわけだが――


「無事に砦も戻ってきて、言うことはないわい」

「ほらね、おじさま。この天才軍師シエル様に任せておけば、何の問題もないのよ」

「いやはや、本当にこの度は見事じゃったぞ、シエル。ソレーヌもきっと喜ぶことじゃろうて」

「ふふっ、お父様、とても嬉しそう」

 王女もまた顔を綻ばせるが、大臣は少しだけ眉を顰めた。

「これこれ、あまり調子に乗るな、シエル」


 窘める苦々しい大臣の声に、幸樹も少しだけ同意した。この魔法使いの少女の発想力には、正直舌を巻くものがあった。だが、すぐにいい気になるのは悪癖だと思う。航空部の仲間にも、能力は高いものの増長する男がいた。高い貢献度を誇るくせに、やらかしも多い。

 そんなことを思い出して、幸樹は少し懐かしい気持ちになっていた。


「しかし、大臣よ。今ばかりは喜んでもいいじゃないか」

「はっ! これは失礼しました。水を差すつもりはなかったのですが」

 大臣は顔を伏せながら、ちらりとシエルの顔を見る。

「ぷぷーっ、怒られてやんのー!」

「シエルっ!」


 くだらない言い争いを始める二人に、周りの人間も自然と笑みをこぼした。餃子の間の明るい雰囲気が、少しその意味を変える。


「コーキ殿も、この度はご苦労だったな。どうじゃ、特に身体は疲れてないか?」

「いえ、自分は大したことは……。お気遣い感謝します」

「ふむふむ、まったく見上げるほど謙虚な男じゃな。――そうじゃ、シエルに聞いたが、元の世界に戻る算段はついていないとか」


 いきなり核心に触れられて、幸樹は動揺しつつもおずおずと首を縦に振った。少し胸の中に黒い影が差す一方、同時にどうして国王がいきなりこんな話を切り出してきたのかが不思議だった。

 何とはなしに、シエルや王女の顔色を窺ったところで、二人ともにこにこしているだけだ。どうやら悪い話があるわけではなさそうだが。


「我が国一番の智慧者ドミニクにも尋ねてみたが、あやつは『俺はただの技術屋だ。そんな不可思議なことにはよくわからん』と一蹴されてしまった」

「はあ、そうなんですか」


 幸樹は曖昧な相槌を打つ。結局幸樹自身はドミニクに聞きそびれていたが、その答えがこんな形で明らかになるとは。当てが外れたことについて、がっかりした気持ちになる。


「そこでだ。コーキ殿。貴殿に頼みがある」

 すると国王は大臣の顔を窺い見た。大臣はゆっくりともったい付けて頷く。

「我がボワトン王国の航空部隊の隊長をやって欲しいのだ!」


 幸樹は国王が放った一言に、ただひたすらに面食らうばかりだった。





        *





 砦奪還作戦から数日後。ボワトン王国には、束の間の平和が訪れていた。砦にはあれから異変は無い。そして、この城にニュアージュの援軍がやってきていた。国境境で目撃されたあの謎の兵士たちは、彼らの手によって一応掃討された。

 しかし――


「うー、やっぱりわからなーい!」

「そろそろ休んだらいかがですか、シエルさん。さっきからずっと本をお読みになっていて、お疲れでしょう」

「ううん、そうする」


 幸樹、シエル、クラリスは城内にある書庫にやってきていた。広いその部屋の中には本棚がずらりと並び、二階部分まで存在する。今はこの三人しかいないため、ひっそりと静まり返っていた。


 幸樹はクラリスにこの国のことを色々と教わっていた。航空部隊長なる役職を授かり、地形などの環境面について勉強する必要性を感じたためだ。

 国王からの申し出を受けたのは、単に彼に他にやるべきことがなかったから。それもあるが、大臣が説明してくれた仕事内容に興味を惹かれたから。

 非常時以外は上空偵察。グライダーを使って、各地を上から見て回る。そしてその対象には、他の国も含まれる。もしかしたら、元の世界に戻る術を知っている誰かがいるかもしれない。幸樹はそう考えた。


 そして、シエルは一人違う目的を持っていた。それは――


「はあ。ほんと、なんなのあいつら!」


 エクレールからやってきたと集団の正体を探っていた。山沿いで、敵と闘ったニュアージュ兵からも奪還作戦に参加した兵士と同じ証言が入ってきた。つまり、敵は倒すと煙のように消えた、と。

 それを魔法的な何か、あるいは魔物の可能性も含めて、彼女は考えていたわけだが。一向にその答えは出なかった。


 さらに、ニュアージュ王からの報告によると、エクレール情勢については一切何も判明しなかった。送った使いは全員音信不通。事態を重く見て、ボワトン・ニュアージュの両国王は国民に対してエクレール近辺に一切近づかないようにお触れを出した。


「これは長引きそうね。また何かあってもおかしくないかも」

「何かって……」

「っと、ごめんごめん。不安にさせるようなこと言って。大丈夫だよ、クラリス。何があっても、あたしと、そしてコーキで何とかするから!」

「ええっ、俺もか……」

 いきなり名前を呼ばれた幸樹は、びくっと身体を震わせた。


「なによ、自信ないの?」

「いや、そういうわけじゃなく……」

「だってキミはこの国唯一のパイロットなんだから! 頼りにしてるよ」

「はい、期待してます、コーキさん!」


 異世界の王女と魔法使いから満面の微笑みを向けられると、彼としては大人しく頷くことしかできないのだった。

これにて、一章完結となります。

次章以降についての更新の目途は、現状立っておりません。

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