第1話-1-
※本編は、前作「ハルかカナタ」の続編となります。一行目より壮大なネタバレとなっています。前作より読んで頂ければ幸いです。
前作はこちら「https://ncode.syosetu.com/n0053bz/」
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とうとう成し遂げた。高校の頃から始まった私の物語も、ようやく完結を迎える事が出来た。
寝そべったまま満月の浮かぶ星空を眺める。ふと横を見ると律子がいる。こんなに贅沢な事は無い。
律子を見ていると彼女もこちらを見て、「フフ、何よ」と微笑む。私も「別に」と微笑み返す。
少し手の位置を変えると律子の手に触れたので、そのまま律子の手を握りしめた。
「律子からするとあの事故はほんの一瞬だったのだろうけど、私がこっちに帰ってきて十二年も経ったんだよ。すごく長かったよ……」
「うんうん、全部分かってるわよ。何も言わなくていい。後でよちよちしてあげる」
ニシシ、とイタズラに笑う律子。
それから私たちは春を起こして息吹さんも起こした。
息吹さんに、こちらでは時間が経っていた事の理由を聞いたが、「送り出した直後にエラーが出たので、それが原因だろう」と言われた。道中のエラーが何かしら関係していたのだろう。
それはさて置き、私が若い女の子を二人も連れて帰ってきた事に驚いていた。誘拐でもしてきたような眼差しで見られた事は心内に留めておこう。
言わずもがな、律子があまりに落ち着き払っていた為、彼女の「私達は沙美さんに助けられて……」と言う証言は息吹さんを信じさせるには十分だった。
その後律子と春を我が家へと招く事となった。
「ただいまー」
私がくたびれた声を出すと、留守を任されていた由美が、美鈴と手を繋いで迎えに来てくれた。
「遅かったね、心配したよ。って、その子たち誰!?」
由美は珍しく目を見開いて驚いたが、私が「春と、」と紹介をすると、すぐに「律子ちゃんだ」と指をさした。
律子“ちゃん”と言うか、“さん”と言うか、まあ、正解ではあったので、「う、うん」と頷いておいた。
二人をリビングへ通し、由美へ簡単な説明をすると全てを察してくれた。本好きはありえない話を簡単に飲み込んでくれるから助かる。
人数分お茶を出して、私もテーブルへと落ち着く。そして改めて律子と春を眺める。
律子は行儀よく背筋をピンと伸ばし、お茶をすすりながらも部屋をキョロキョロと眺めている。春は背中を丸くして体を小さくし、私を見て何とも困った表情を浮かべている。
私がどうしたのかと尋ねると、初めて来た家だから緊張しているとの事。
そんな二人を楽しく眺めていると、洗い物を簡単に済ませた由美が戻ってきた。そして開口一番、
「お姉ちゃんさ、何も連れて来る事ないじゃないの」
由美はテーブルへ頬杖をつきながら、何とも困りきった表情を浮かべた。そしてこう続ける。
「春ちゃんも律子ちゃんも、過去での生活があっただろうし、何よりもご家族が……って春ちゃんに関しては亡くなったってお母さんから聞いてたわね。て事は……お姉ちゃんがこの時代に連れて来たから亡くなった事になってた? て事?」
「うん、きっとそうだと思う。でもそうしなきゃ本当に二人はバスに跳ねられて……」
あの時私は無我夢中で、とにかく二人の手を取る事だけしか考えていなかった。二人がこの時代へ来た後の生活の事なんて考えてる暇も無かった。
しかしよくよく考えてみると、二人は過去の人間なのである。過去から現在まで行方不明の二人だ。それがひょっこり出ていってみろ。これまでどこでどう過ごしてきたのかは元より、注目されるはその容姿である。当時のままの見た目で老けもせずに現れるのだ。これをメディアが取り上げない訳がない。
勿論、崩野研究所のタイムマシンに乗って、と説明しても良いが、試作機に一般市民を乗せたと明らかになれば、息吹さんにも迷惑がかかってしまう。
……大変なのは、これからなのか。
私が困っていると、律子が私の手を握って口を開いた。
「沙美、私たちを連れて来てくれて、心より感謝しているわ。あなたは命の恩人よ。二度も救われたわ」
そう言って、フフフ、と微笑んで見せた。すると春も「私も感謝してるよ!」と便乗した。
「だそうです」
私は由美を見てそう答えると。由美も優しく、「まあ、これからの事はこれからね」と二人へ微笑みかけた。
すると律子が目を見開いて私へ語りかける。
「ところで沙美、お風呂借りてもいいかな。シャワー使ってみたい。あるんでしょ?」
もうすっかり忘れていた。いつしか律子にシャワーや洗濯機の話をした事があったな。スマホもパソコンのインターネットも、全ての物があの時より遥かに進化している。全部見せたい。この律子様を驚かせてやりたい。
あああ、律子の驚いた顔……想像するだけでたまらない。……ヨダレが垂れてきてしまい「ジュル」そうだ。
「……ね、ねえ沙美、聞いてる?」
「んあ!? ああ、はいはい、聞いてたよ。いいよいいよ、シャワーじゃんじゃん使っちゃって! アハハハ!」
「な、何よ気持ちの悪い人ね……」
お、「気持ちの悪い“人”」と来ましたか。当時であれば、「何よ、気持ちの悪い子ね」と言われていたのだろうが、やはり律子からすれば、私は年上の存在なのだ。それを潜在的に意識している事を物語っている一言だった。
あの時は同い年で気持ちも重なっていた律子が、今は少し心が離れてしまっている様に感じる。寂しいな。
「沙美、一緒に入ろうよ。シャワーの使い方分からないから教えてよ」
「ええ!? い、一緒にって……まあ、いいけど」
裸を見られる事に羞恥心は無いのかと疑問に思ったが、私は散々律子の裸を見てきたわけだ。彼女からすれば、私に裸を見られる事なんてなんという事もないのだろう。
まだ、心は一つのままのようだ。
浴室へ入るや、律子は天井を眺めた。
「ねえねえ、どこからお湯出るの?」
目を丸くしながら眺めるそれは、可愛さの塊でしかなかった。当時はこの一つ一つの表情も見ることが出来なかったのだ。これからの律子との生活、楽しんでいこう。
それはともかく、その律子のセリフに、「シャワーって、学校のプールの?」と尋ねられて否定しなかった事を思い出した。この純真無垢な子を、ガッカリさせる訳にはいかないが、真実を伝えるしかない。
「あー、ゴメン、プールのシャワーみたいんじゃないんだ。ここから出るんだよ」
そう言ってシャワーヘッドを掴んでお湯を出して見せる。すると律子は、
「わ、わわわわ! す、凄い! 直接お湯が出てる! 水道局からお湯も引けるようになるなんて……」
「あ、そうじゃなくて……」
私は、単純にガスで温めて……という説明を簡単にした。
全ての事に驚く彼女の顔が、今から目に浮かぶ。この後は何を見せてやろうか。
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翌朝ソファから目を覚ますと、律子が美鈴と遊んでいた。
「あ、沙美、おはよう。昨日はベッド取っちゃってゴメンね。すぐに春とお金作ってお布団買うから」
「え、いいのよそんな事気にしないで。これから二人は、私が養っていくんだから。二人のベッドもすぐに揃えるからさ」
何だか、あの律子様に対して貸しを作るという事が、こんなにも気持ちのいいものなのかと実感出来る。癖になりそうだ……。
律子は「何から何までゴメンね」と微笑みながらも眉を八の字にして見せた。そして春を起こしに私の部屋へと上がっていった。
さて、今日は春と律子を連れて、実家へ帰る事となった。二人に話したら、お父さんとお母さんに会いたいとの事だったのだ。いずれにしても、春は必ずお母さんに会わせなければいけない人物だったし、律子も会わせてみたかった。遅かれ早かれ再会するのだから、善は急げである。
今まで黙っていた事実、私が律子の中に入っていて、二人の馴れ初めの一部始終をそばで見ていた事を伝える日が、とうとうやってきた。特にお父さんは、どんなリアクションをするのか楽しみである。
それと、山本光介に八重子、長谷川さんや菊川さんらの今も気になる。昨晩はそれらの話で盛り上がった。いつか必ず、みんなと再会させてあげよう。
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