8.強い人
夏休み前最後の休日、私は麻里と街へ出かけた。
主にウインドウショッピングだが、夏休みの計画を立てることも兼ねていた。
昼過ぎに待ち合わせして、ブラブラしながらいきつけのファミレスへ入った。ボックス席に案内されて二人でドリンクバーを注文する。
麻里は背が低く、可愛らしい顔立ちをしている。小動物系とでも言うのだろうか。女の子らしくて凄く羨ましい。
私は背が少し高めで、ちょっとキツめの顔立ちをしている。なぜか後輩女子にモテる…
「菜奈は美人さんでいいな~」
たった今羨ましいなと考えていたところに、麻里の口から驚くべき発言が唐突に飛び出した。
「え!私が?いやいや麻里こそ女の子らしくって超うらやましいっての!」
考えていた事をそのまま口に出して反論したが、麻里は聞く耳をもたない。
「え~?背も高めだし、美人さんだし、そりゃ菜奈はモテるわ~」
笑いながらさらりと跳ね返す。根拠のないオマケつきで。
「いやいや!麻里の方が超モテてるでしょ??なんで彼氏作らないの?」
少しだけ考えた後、麻里が口を開く。
「うーん。まあ告白してくれる人もいる事はいるけど…皆悪い人ではないと思うんだけどね~」
「とりあえずお試し的に誰かと付き合ってみたら?」
自分は気安く出来る事ではないけれど、麻里に彼がいないというのはなんだか勿体無い気がするので、そんな事を言ってみた。
「そうだねー気になる人は居ない事もないんだけど…」
「え、誰、誰!?お姉さんに教えなさい!」
自分で言うのもなんだが、私は姉御肌気質もあって実際後輩からは意外と頼られている。
でも、二人の関係上では、おっとりしていて肝が据わっている麻里のほうが事実上お姉さん的な役割だと思う。
「晃くん」
「ええっ!?」
なんだか最近、晃がらみではいつもこんな声を上げているような気がする。
周りのお客さんの目線が恥ずかしかった…
「まあ…確かに悪い奴じゃないし、面白いけど…超ヘンな奴だよね??」
「うん。ヘンな奴だね~」
そこも含めた上で惹かれているという事なのか。
なんというか…勿体無い…気がする。
「どこがいいの?」
参考までに聞いてみた。
「そうだねー。晃くんは冗談はよく言うし訳わかんない発言するけど、嘘はつかないよ」
話が続きそうなので、とりあえず頷きながら聞く事にした。
「あとね、凄く強い人だと思う」
「強い…人?」
今までの事を思い出していると、麻里が続ける。
「喧嘩とかじゃないよ?あ…そういえば中学生の頃はやんちゃだったらしいけどね。地元じゃある意味有名人だったんだって~」
ケラケラ笑いながら話す麻里に問いかける。
「じゃ、どういうこと?」
「あのね。晃くんは凄く優しいと思わない?」
「優しい…?」
言いながら今までの出来事を反芻してみた。
たしかに、彼の発言のテキトーさに隠れていた感が否めないけれど行動自体は優しい。他人に対して思いやりがある行動だったかもしれない。
「そう。私が知ってる限り、晃くんは皆に優しいよ。私ね、”優しい人は強い人”だって思うんだ」
芯の強い麻里らしい考え方だと思った。
普通の人は優しい方を先に出す。優しいことがモテの要因とまで言わんばかりに男子は優しさアピールをする事もある。
けれど、確かに晃はそういうわざとらしい優しさではない。思えば、晃のオーラは一見蒼く冷たい感じがするけれど、その深い蒼色は見ていて心落ち着く優しいものだった。
それによくよく考えてみると…照れ隠しに適当発言をしているようにも感じられる。
麻里は凄いなと思った。
オーラが見える私なんかよりずっと、晃の内面を見ていた。ホントに聖女か?この子。
それに比べて私は…
その後、他愛もない話題と夏休みの遊び計画等を話したはずだけど、あまり内容が入ってこなかった。
麻里と別れ帰路につく。
ふと見上げると、どう表現していいかわからない私の心情とは裏腹に、少しだけ茜色になりかけた美しい空が広がっていた。
照りつける西日が本格的な夏の到来を告げていた。