7.高橋 晃
ある日の放課後。
購買の自販機前で俺は”それ”をみつけた。
少し傾きかけた日の光に照らされる彼女。
肩より少し長い黒髪。スラリとして女子としてはやや長身。整った顔立ちは見方によれば冷たくも感じ近寄りがたい雰囲気すらある。
ただ俺にとってそれは、黄昏時に咲く凛とした白い花に見えた。
(まさか…もしかして、そう…なのか?…)
人には聞こえないであろう声量で呟きながら吸い寄せられるようにゆっくりと彼女に近づく。
チャリーーン
ちょうどその時、彼女が小銭を落とした。
「おお?なかなか素敵な100円玉だ」
「はぁ?」
訝しげに返事する彼女。
もっとイケメンなセリフでも言えればいいのだろうが、まあ俺のキャラじゃない。こんなもんだろう。
こうして俺は彼女と出逢った。
◇
それからしばらく菜奈と言葉を交わすうちに少しづつだが彼女の内面が見えてきた。
見た目とのギャップともいうべきか、結構感情豊かだ。人のボケにも一々突っ込むし、面倒見がいいというかお人よしというか、付き合いがいいというか。たぶん見た目で損してるタイプだろう。
ただたまに、人の心情を見透かしたような、何か悟ったような表情をする瞬間がある。
なんだろう…悟ったようなと言っておいて矛盾してるが、諦めたような?うんざりしたような?上手く言えないがそんな表情だ。
あと誰も寄せ付けないような雰囲気を出すくせに、頼られると断れないお人よしな性格が災いし、ちょっと危なっかしい。
現に俺が補習だった日、付け入れられてたし。しっかりしてそうで甘いつーんだよ。この見た目詐欺め。
「晃、お前最近楽しそうだな?」
そんなことを考えていると大樹が話しかけてきた。
「そうか?俺は前からこんな感じだろ?」
「いやいや、中学の頃のお前、超ヤバかったろ」
「そんな昔のことは忘れた…」
こいつは中学の頃からの友人で俺の黒歴史を知っている。
「いや昔ってまだ2年ぐらいしかたってないだろ」
「もう2年もたってんだよ。てか大樹、おまえもそんなにかわらんからな黒歴史的には」
「……」
「……」
「まあ俺が悪かったよ、お互いに忘れよう」
「そうだな、清く正しく健全な高校生活を楽しもう」
不毛な闘いはなにも生み出さない。歴史もそう証明している。
「後藤さんか?」
不意に大樹が口を開く。
「なにがだよ」
言い返したものの、確かにさっきまで菜奈の事を考えていた。
「違うのか?後藤さん、いいよな。いい意味で期待を裏切られたというか…」
言いたいことは何となくわかる。俺も似たようなことを考えてたし。
「後藤さんのこと好きなのか?」
唐突な一言に一瞬固まってしまった。
「いや、そういうのじゃない」
反射的に答えたが正直そこを意識してなかった。
「じゃあ俺が狙ってもいいのか?」
大樹の言葉に少しだけ動揺している自分がいる。
「でもお前、まだ菜奈とこの前会ったばっかだろ?」
「晃さ、普段ふざけてるのにそういうとこ変に真面目つうか古いつうか、ズレてるよな」
「ズレてるってなんだよ」
「まんまの意味だよ。人を好きになるのに時間とか関係あんのか?顔だけ見て、とかはまた別だと思うけどある程度話とかすれば感じるものってあるだろ、フィーリング的なやつ」
「…」
大樹の言ってることもわかるが、こればかりは性格的なものもある。別に普段の俺が作ってるキャラってわけではないが、それとこれとはまた別の話だ。
「本気…なのか?」
俺の問いに大樹が答える
「そこはまだわかんねーよ。ただ後藤さんイイ子だなって思ってる。ただ、ダチの好きな人に手を出そうとは思わないからお前に聞いてるんだよ」
大樹はいい奴だ。中学の頃俺が拗ねてた時から友達で裏表のない性格だ。冷静だが内に秘めた熱さをもつ男でもある。
だから俺は答える。
「だから、そういうのじゃないって」
俺が言うのを聞いて、ニヤリと笑う大樹。無駄にイケメンスマイルなのが腹立つ。
「まあお前がそういうなら勝負だな、晃」
「人の話きけっつーの…」
俺の気持ちはひとまず置いといて、変な保険もかけず防波堤の言質もとらず、”勝負”というあたりが大樹らしい。
俺が女なら惚れそうだな。この野郎。