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4.ばっちゃんの名にかけて

7月上旬


 そろそろ梅雨も終わりかけというのに鬱陶しい雨の日が続いている。


「菜奈ちゃん。ちょっと話を聞いて欲しいんだけど!」


 昼休みの廊下で声をかけてきたのは、別のクラスの男子、小山修平だった。


 元彼の友達で私とも友人関係ではある。オーラはふわふわした感じの黄色で落ち着きがない…


 黄色は陽気な人に多い色だけど、この人の場合はちょっと「軽い」気質を感じる。


「何?また女の子がらみ??」


 少し意地悪に聞き返す。彼からの相談事は女子がらみがほとんどだ。

まあ、悪い人ではないんだけれど…


「うんうん。ホント女子って難しいなって…」


 いつもの事ながらプチ恋愛相談であった。

ただ今回はけっこう真剣に悩んでいるらしい。


 でも、私だって恋愛経験豊富な猛者って訳でもなく、一般的な女子代表として乙女心理を理解しているかと問われると、自信はない。


 とりあえず当たり障りのないアドバイス的な事を言ってその場は乗り切った。


「菜奈ちゃんいつもありがと。また相談するねー」


 小山君は少し元気を取り戻した様子で自分のクラスへと戻っていった。


「よお、菜奈、俺の相談にも乗ってくれ」


 入れ替わりに晃が声をかけて来た。


「あんたの相談って何よ」


 まともな相談事があるとは思えなかったが一応聞いてみる。


「補習に出るのが嫌だ」


「はぁ?」


「この前の中間ちょっとヤバくてな~」


「いやいや!補習決定ならヤバいレベルじゃなく、ダメって事でしょ!?」


「おお!日本語難しいな?」


 晃の発言はいつも想像を斜め上な感じに裏切ってくれる…


「まあ、それはいいとして」


「いいのかい!」


 突込みにも少し慣れてきた。


「お節介は百も承知だが…」


 珍しく真面目な口調に感じた。


「他人の相談事も程々にな」


「え?」


 言っている意味がよく解らない。


「それじゃ、俺は修行の旅に出る。またな!」


 真面目な口調は私の気のせいだったのか、いつもの感じで捨て台詞を残して去っていった。


 まあ、変な人だから仕方ない。



 数日後、また相談したい事があると、小山君から呼び出された。本人曰く、かなり悩んでいるらしく食事も喉を通らないらしい。


 土曜日の放課後、ここ中庭は人気がない。言葉的に矛盾してるかもしれないけれど、人に聞かれたくない話をするにはもってこいのオープンスペースである。


 先に着いた私は木陰のベンチに腰掛けていた。今日はとてもいい天気で、そろそろ梅雨も終わりそうだ。


 少し遅れて小山君が来た。いつも通りのふわふわした感じのオーラだが、光の強弱がなんだか「そわそわ」しているようにも見える。


「ごめん。待った?」


「いや、そんなに待ってないよ。で、どうしたの?」


 別に小山君のことが嫌いなわけではないが、ダラダラと時間を過ごすのは好きじゃないので、本題に入ることにした。


「うん…実は…」


 こうして話は始まったものの、いつもの事ではあるのだけれど、小山君の話はいまひとつ要領を得ない…どこかの誰かとは違う意味で、意味が解らない事をたまに言う。それが原因で意中の相手に気持ちが伝わらないのではないかとも思うのだけれど、それを上手く悟らせるほどの話術は私にはない。


 結局愚痴を聞いてあげれば本人は納得するはずなので、聞き役に徹する。

なんというか、ほっとけない弟感覚とでもいうのだろうか。


 そんな事を考えている時、突然意表をつく台詞が彼の口から出た。


「やっぱり菜奈ちゃんはいいね」


「ん?」


「俺ね、色々考えてたんだけど、やっぱり菜奈ちゃんの事が好きなのかもしれない…」


「え??」


 先ほどまで違う女子の話だったはずだが、どうしてそうなったのか意味不明である。


「前は友達の彼女だったから遠慮してたけど…もういいよね?」


 意味不明である(2回目)


「ちょっとまって!話が物凄くズレてるよ??」


「うん…相談してるうちに、好きになってしまったみたいなんだ…」


 数分前まで違う女の子の話だったはずなのに突然すり替わった彼の台詞に矛盾を感じたが、

あまりの急展開に上手く突っ込めない自分が悔しい。


 落ち込む気分と共に若干顔をうつ向かせる私を見て、どんな勘違いをしたのかわからないけれど、小山君は盛り上がっているようだ。


 ベンチでの距離が物凄く近づいている…


「え!?」


 突然手をにぎられて驚く。


「好きだから…」


 彼は言いながら顔を近づけてくる。


「いや!ちょ、待って…」


 そう言うのがやっとで、驚きで身体が動かない…


 その刹那…


「高橋 晃!参上!!」


「え!?」

「え!?」


 突然の登場に二人でハモッてしまった。


「…なんだお前!?ふざけてんのか?あ?」


 小山君の口調が普段私が知るのとは別物だった。


「いや、ゼッタイそう言われるって思ったから最初に名乗ったんだが…

聞いてなかったのか?しかたない…」


「俺の名前は高橋 晃だ」


 ドヤ顔で答える晃。相変わらず変だが筋は通っている…ような気がする。けれど、小山君は盛り上がった気分を折られて気が立ってるようだった。


「誰だよお前?しらねーよ、どこの高橋 あき…」


 言いかけた小山君は少し言葉を詰まらせ、続けてたずねた。


「晃…?高橋 晃?…東中の…??」


「ん?ああ、そうだぞ東中だった」


「え!?こんな普通っぽい奴…てか、同じ高校だったのか!!??」


 流れが全くつかめないが、小山君は晃のことを知ってるらしい事は理解できた。私のほうを向き直った小山君が小さな声で問いかけてくる。


「な、菜奈ちゃん…高橋と知り合い?」


「うん…そうだけど?」


「親しいの??」


 少し考えたが、ここは親しいと言う方が正解な気がした。


「うん」


「……あ、そろそろ俺帰らないと、用事があるし…」


 なんだろう…漫画やドラマで聞いたことあるような無いような取って付けた台詞とはこういうものを言うんだと勉強になった。


 いいながら小山君は立ち上がり何事もなかったかのように去っていく。が、その後姿のオーラは弱々しく霞んでいた…


「俺、何か邪魔したか?」


 反省しているかのような台詞が一応晃の口から出た。


 反省している人のオーラはもっと光が弱くなる。その傾向は全く見られない…


「いや…別に邪魔ではないけど、晃なんでまだ学校にいるの?」


 凄く助かってホッとしてるはずなのに、素直に感謝の言葉を言えない自分は可愛くないなと思う。


「ばっちゃんの名にかけて、校内の平和を守る為」


 と、また聞いたことあるような無いようなとぼけたセリフを晃が言った直後。


「高橋!!お前はそんなとこで何やっとるんだ!!」


 校舎の2階教室窓から先生が叫んでいる。


「すんません!ちょっとトイレの帰りに迷いまして!!」


 新入生でも迷うことはまずないだろうけれど、先生も慣れ?ているのかあえてのスルーで言葉が続く。


「早く戻ってこんか!!」


「よし。そんじゃまたな!」


 言いながら校舎に駆け出す晃。なるほど、土曜の放課後は補習だったのだ。


 なんにしろメンドクサイ事からは回避できたみたいなので今度ジュースでも奢ってやろうと思った。


 しかし、皆とまではいわないけれど、男とはああも自分の都合のいいように物事を考える生き物なのだろうか…


 そういえば、元彼も私と付き合っていた頃、他の女子と校舎裏でキスしていた所を私が発見して別れたのだった。


 類は友を呼ぶというかなんというか…ほんとウンザリする。



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