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10.信じるということ

 夏休みに入り数日して晃からSNSメッセが届いた。


 終業式前に麻里と達川君含め4人でID交換していて以来、初SNSだった。


 内容は、8月は麻里の誕生月なので皆で遊ぶ約束をしているけど、プレゼントはどうするのか?というような内容だった。


 早速私も返事をする。


『皆でまとめて一つのものあげてもいいけど、個別がいいの?どうする?』


 数分後返信が来た。


『そもそもプレゼントとか女子にあげたことないからまったくわからん』


 返事を少し考える。


 うーん。それぞれあげるよりまとめたほうが予算的にも余裕出来るし、男子二人のセンスを見てみたいきもするけど、それはある意味賭けな予感もする…


 そんな事を考えているとさらにSNSが届いた。


『とりあえず3人で買い物でもいくか?』


 まあそれもアリといえばアリだけど、何となく麻里のいないところで晃と会うのは気が引ける…いやまあ達川君もいるし二人きりってわけじゃないけれど…


 いやいや!私が意識しすぎてどうする。別に後ろめたい事はなしもしていない。うん。しっかりしろ私。


『わかった。じゃあ次の日曜、モール集合でいい?』


『了解。大樹には俺からメッセしとく』


『よろしく』


 後で麻里にも買い物のネタバラシすればいいかと、3人で出かけることにした。





 その日は蒼天が広がる雲ひとつない天気だった。待ち合わせは午前10時。ショッピングモール前だ。


(どうしてこうなった?)


 少しだけ重い気持ちを引きずりながら…5分程前に着くと意外なことに晃はすでに待っていた。


「あれ?てきとーな晃が珍しい。この後雨でも降らせる気?」


 いつもの調子を意識して嫌味っぽく言うと笑いながら晃は答える。


「いやいや俺はこう見えて無遅刻無欠席の男だぞ」


「嘘でしょ?」


「いやマジで。途中のサボりは置いといて、無遅刻無欠席」

 

 意外といえば意外なような、意外とまともなんだ…いやサボってるからそうでもないのか?等と訳の分からないことを思ってしまった。


 そして気が重い要因について口を開く。


「で、達川君なんだけど…」


 言い淀んだところで晃が口を挟む。


「ああ、俺にもメッセきた。妹が熱出したらしいな」


「うん…妹さん大丈夫かな?」


「大樹の妹まだ小学生でさ。今日ちょうど両親法事らしくて、さすがに熱だした妹ほっとくわけにはなあ」


 達川君の妹さんも心配だけど、今の自分の状況も落ち着かない。結果的に晃と二人だけという形になってしまっている。


「で、麻里の好みってどんなんだ?」


 私の気持ちとは裏腹に、いつも通りな晃がショッピングモールへと歩きながら尋ねてきた。


 自分だけ変に意識してバカみたいだなと気を取り直し答える。


「うーん。麻里はオシャレさんだから、身に着けるものとかは難しいかもしれないね…あ、そういえば麻里ちっちゃい犬飼ってるから、その子の服とかは?」


 少し考えて晃が答える。


「うーむ。個人的には犬に服を着せるのはあまり好きじゃない…」


 古いというか、自由人的発想というか、後者なら、らしいといえばらしい。


「それじゃ、首輪とかは?」


「ああ、なるほど、それにすっかな」


 一応プレゼント候補が決まりペットショップへと足を運ぶ。


 一軒目のショップで麻里が好きそうな感じのデザインを見つけ、晃が達川君にも確認のメッセを送り、あっさり了承されプレゼント選びは終わった。


 丁度お昼の時間にさしかかり、昼ごはんを食べることになった。


 二人とも特に食べたいものの主張もなく、とりあえずフードコートに向かおうと、モールのエスカレーターを降りている時事件は起きた。


「キャーーーー!!!」


 エスカレーターを降りたところにある広場の人ごみの中から女性の悲鳴が響く。


 その中心付近からゆっくりと移動する一つの異質なオーラが視界に入った。


 黒に近い赤…例えようのない光…いやこの場合、光という表現は正しくない。


 赤黒っぽい粒子が身体の回りを漂っているとでも言えばいいのだろうか…一瞬だがその人物が懐になにか鈍く反射する棒状のものをしまう様子が目に入った。


「誰か!救急車を!!早く!!」


 女性が一人うずくまっている。そんなに多くはないが、洋服のわき腹の辺りに血が滲んでいるように見える。


 声の主はその友人らしき女性で、しゃがんで彼女を支えている。


 突然の事で一瞬思考が停止しかけたが、状況を見る限りどうやら通り魔事件らしい。


 おそらくは…先ほど見た異質なオーラの持ち主による犯行。走っていたわけではなさそうだが、もう近くにあの異質なオーラは見えない。


 先にモールの警備員が駆け寄ってきて、救急に連絡している様子だった。


 被害者女性の傷の具合までは詳しく解らないけれど、友人女性が傷口に当てているハンカチは赤く染まっているものの、今の所それ以上の出血は見受けられない。


 救急車よりも先にモールのすぐ近くにある交番から警察が駆けつけた。


「どなたか目撃者いませんか!?」


 警官が大声で呼びかける。周囲の野次馬はお互いに顔を見合ったり周りを見たりしていた。


 そんな中、一人の青年に注目が集まりかけていた。


 注目されている人物は大学生ぐらいの青年で、白いシャツの腰の辺りに血痕らしきものがあった。


 彼自身、周りの視線を感じ、自分の状況に気がついた様子だったが、表情は見る見る青ざめていく。


 その青年を見ながら被害者の友人女性が口を開く。


「あの人…と、すれ違った…気がします」


 別に犯人だと言ってる訳でもなく、多分事実ではあるのだろうけれど、おそらくは気が動転している彼女から出たその発言は、青年の平静を奪い、警官の疑心を得るのには充分過ぎる一言だった。


「ちょっと君、少し話を聞きたいから同行してもらえるかな?」


 警官から声をかけられた青年のオーラは薄い水色だったが、動揺が如実に出ていた…けれど、嘘をついているときのそれとは違う。


 これはもう私にしか解らない話だが、犯人でない事は確信できる。


 でも…なんて言えばいい?私にはオーラが見えます

って?怪しいオーラを見ましたって?嘘をついてる

オーラじゃありませんって?


 信じてもらえるワケがない。私だって自分がこうじゃなかったら信じない。握りこぶしに力が入り爪が食い込む…


「言いたいことがあるなら言えよ」


「っ…」


 突然晃の口から出た言葉に返事はできなかった。


「そんな顔すんな…らしくねーぞ?」


 言葉はぶっきらぼうだけど、優しい声だった。


 後押しされるようなその言葉が耳に届いた次の瞬間。




「その人は違います!」


 私は思わず声を上げてしまっていた。


「君は、何か見たのかね?」


 警官の一人が私に近づいてきて尋ねる。


 オーラの話は出来るはずもなく、かといってあの異質なオーラの主は走って移動していたわけでもないから普通の人から見れば、そう目立ってはいなかっただろう。そして凶器らしきものをしまうところは見たけれど、一瞬のことであれが刃物だったかどうかもわからない。


 上手く説明する方法も見つからず、言葉に詰まり俯きかけた私に代わって、隣から晃が発言した。


「あのー、怪しい人物とかは見てないんすけど、そのお兄さんはエスカレーターで俺達のちょっと前にいて、皮のブレスがカッコいいなーって俺ずっと見てたんすよ。だから何もしてないと思いますよ?」


 見ると青年の左手首にオシャレなレザーブレスが確かにある。


 晃の話を聞いた警官が青年のほうへ近づきいくつか質問している。


 その間に救急車が到着し、被害者女性は支えられながらも自力で歩き、救急車へと乗り込む。


 青年の方は一応警官と一緒に交番の方へと歩いていったが、オーラは大分落ち着いていた。


 周りも平静を取り戻し、何事もなかったかのように人はそれぞれに動き出す。


 私達も気を取り直してフードコートへと向かった。


 席に着き、私が先に口を開く。


「晃があの人の事偶然見ててくれてよかったー」


 少しして返事が来た。


「いんや。見てなかったぞ」


「え??」


 晃の答えを理解できない私に晃から質問が来た。


「菜奈は何故彼が犯人じゃないって思ったんだ?」


「え?いや、晃、腕のブレス見てたんでしょ??」


 少し混乱していた私は質問に質問で返す。


「ああ、あれは後から見つけただけで、てきとーな付け足しだ」


「後から…って事件の前に見てたって言うのは嘘?」


「うん。まあ、彼の様子を見ていて、犯人だとは俺も思わなかったしな。嘘も方便ってやつだ。いや~昔の人はいい言葉つかってんな~」


 相変わらずのとぼけた口調だが、突っ込む気にはなれない。


「え?なんで??」


「菜奈はあの人が犯人じゃないって思ったんだろ?それが解ったからだ」


 晃は当たり前のように言った後言葉を続ける。


「で、俺が聞きたいのは何故、菜奈がそう思ったか。だ」


 最初の質問に戻ったが、私の疑問もまだ消えてなかった。


「私がそう思ってたとして、なんで晃が嘘をつくの??」


 晃は少し間をおいて珍しく真面目な口調で答えた。


「お前が信じるに値する人間だからだ」


「……!」


 私は言葉が出なかった。


 他人からこういう事を言われた事はない。


 今まで異性からも「好き」や「美人だね」などの言葉をかけられた事はある。正直いって嬉しくない事はない。女子なら誰でもそうだろう。


 でも、そのどれとも違う、性別など関係ない。


 一個の人間として信じられるということ。


 言葉に出来ない嬉しさと共に、私にはそんな資格があるのかという気持ちも同時に湧き上がる。


 この言葉に応える為に私は何ができるだろう?どう返せばいいのだろう?


 しばしの沈黙。そして…今私にできる精一杯の誠意として、話をしようと腹を括った。


 たとえ、信じてもらえなくても。


 「少し長い話になるけど…、いい?」


 私の問いに晃は黙って頷いた。



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