1.100円玉の君
初投稿なので至らない点はどうかご容赦ください。
空を見てた。
空は正直だ。
鬱葱とした雲を広げ大泣きするときもあれば、今日みたいに雲ひとつない蒼天の笑顔を見せるときもある。
そんな正直な空を私はいつも羨ましく眺めていた…
「ねえ、菜奈、どうかした?」
春の日差しが暖かな昼休みの教室で、窓際から空を眺めていた私に話しかけてきたのは数少ない心許せる友人の麻里だった。
「ううん。今日もいい天気だなーって。ぼーっと空みてた」
「そう?なんかちょっと元気なさげにみえたよ?」
いつもの調子で軽く返す私に問いかける麻里。
彼女は穏やかで、他人の心に無作法に立ち入るような人ではない。
でも、時折鋭く、細かく私の心情を察してくれる。
そして、恩着せるでもなく、わざとらしくも無く、同じ目線で話を聞いてくれる。
「お腹いっぱいになってちょっと眠いな~ぐらい思ってたところ」
普段のキャラ的に、シリアスが似合わないことは自覚しているので、こんな感じの返しが普段の会話だ。
「そかそか。今日ホントいい天気だもんね」
麻里はそんな性格も許容した上で優しく返してくれる。
そんな麻里は緑色の優しく柔らかいオーラを纏っている…
「そういえば、麻里はもう進路決めた?」
「う~ん。私はとりあえず進学かなぁ…」
高校2年になったばかりとはいえ、進路選択の時間にそう余裕はない。
麻里の「とりあえず進学」もこの時期の学生の大半が考えてる事だと思う。
でも、私はその「とりあえず」さえも決められず、ただ日々を過ごしていた。
そんなある日の放課後、購買の自販機でジュースを買おうとしていた時の事…
チャリーーン
財布から取り出そうとした小銭を床に落としてしまった。
少し離れた所まで転がっていった小銭の前には男子生徒が立っている。
小銭を訝しげに拾い上げながら、その人物は意外な発言をした。
「おお?なかなか素敵な100円玉だ」
「はぁ?」
あまりにも意外な発言におかしな返事をしてしまった…
「いや、だから、100円玉が素敵だと言ってるんだが?」
「聞こえてるよ…えーと、100円玉に素敵とかあるの??」
「さあ、そんな事俺が知るか」
言いながら、拾った小銭を私に差し出す。
「………」
お礼を言うのも忘れ無言で受け取る。
会話はキャッチボールとよく言うけれど、こんな変化球、私には捕れない。
その男子は続けて言う。
「で、お前は誰だ?」
「!?」
もともと私は誰かに「お前」と言われるのが好きじゃない。
彼氏にさえも呼ばれるのが嫌なのに、見ず知らずのしかもベンチに向かって変化球を投げるような人に言われる筋など全くない。
「…あんたこそ誰よ?」
普段は初対面の人に「あんた」など言う訳もないけれど、売り言葉に買い言葉とはこの事だろう…
「おお、俺としたことが!」
意味はほぼ不明だが、自分から名乗るらしい事は理解できた。
「俺は2年5組の高橋 晃…学生番号もいるか?」
「いらない」
「よかった。あんな長い番号覚えてない」
まったくもってとぼけた男である。
「私は2年3組、後藤 菜奈…」
一応礼儀として応える。
「よし、そんじゃまたな。100円玉の君」
言いながら彼は颯爽と去っていった。名前を語った意味はあるのかと突っ込む間もなく。
ただ、意外だったのは、
あれだけ軽口をたたく失礼で訳のわからない彼のオーラは深い色の綺麗な蒼だった。
そう、私には人の「色」が見える…