序章
私が目を開けた時初めに視界に入ったのは真っ白な空間だった。「知らない天井だ。」なんていつかどこかで聞いたことがある一度は言ってみたいセリフを口にしながら仰向けの私は肘をつき、上体を起こしつつ辺りを見渡すと、そこには焦げ茶色のちょっとした意匠の施してある成人男性の腰くらいの直方体の物体があり、その先には見知らぬ男が立っていた。
「何故こんなところにって顔してるね。」
む、顔に出ていたか。
「ええ、その通りです。で、その答えを私は知ることができるのですか?ついでにここがどこか、あなたが誰かまでおしえていただきたいです。」
彼は教会に来たものに説教をする神父のような姿をしており、なんとなく崇高な印象を受けたため、とりあえず私は最低限の敬語を用いて返答した。すると男は、
「ここはね、どこでもないって言うのが正しいのかな?」
うん?訳がわからない。そう口に出そうとすると、
「疑問は最後まで話を聞いてからにしてくれ。そうだな、厳密には違うがまあ死後の世界というところか。そして私は神の使いといった解釈でいいだろう。“死後の”と言った通り君は死に、そして今ここにいる。」
ふむふむ、なるほど。
「分からん。」
おっと本音と建て前が逆になった。
「そうか。まあ、君が死んだことだけ理解してくれればいい。」
そこが一番心当たりなんだがな……いやそんなこともないな、なんとなくだがそこが一番納得できる、気がする。しかし、そうか私は死んでしまったのか。まだ社会にも出られてないのに。いや、生前の私は何をしても駄目なやつだった。勉強もスポーツも芸術もいまいち頑張り切れずチャンスを逃してしまっていた。それでもしっかり働いて生きていこうと決意していたところだったものだからこんなことになってしまったのは心残りだ。
「さあ、ここからが本題だが、君には君が住んでいた世界とは違う世界に行ってもらいたい。」
「はい?ああ…ん?どうしてそうなった?まあ、いいですけど。せめて理由だけでも聞かせてください。」
しばらく頭が追い付かなかったが、何とかそう返事すると、彼は
「今君のいた世界は未曽有の人口爆発によって、いわゆる天国や地獄と呼ばれる場所が許容量を超えそうなのだよ。で、我々はまだそれらに余裕がある別の世界に送りそこで生活してもらった後、そちらで処理していただくということにしたんだ。まあ、文句なしに天国、地獄へ行ける人やどうしても向こうへ行きたくない、って人はこちらで処理してるのですが、あなたはそういうこともなさそうですし、例によって異世界に行ってもらう。」
なかなかの長文だったので、途中からあまり頭に入ってこなかったが、とりあえずそこそこしっかりとした理由があるのはわかった。
「そういう事なら、了解しました。因みにどんな世界に行くのか聞いても?」
「すまない、そのあたりは完全にランダムなんだ。贔屓なんかを防ぐためにね。ただし、今とはかなり変わった世界にいくことは確実だ。」
そんなことを話していると私の体が光出し、そして徐々に薄くなっていった。
「始まったね。あっ、ちょ、ちょっと待って。最後に君にはある才能をプレゼントした。転生するものたちには全員に渡してる才能だ。使いこなせるか…ってもう遅かったか。」
最後に彼が何か言った気がするが、声はこちらまで届かなかった。まあいい、わたしは次の世界では後悔しないように全力で生きることを決めてこの世界から旅立った。
初投稿です。よろしくお願いします。