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死後の選択

  目が覚めると、そこは雪国でも何でもなく、四方八方真っ暗な部屋の中だった。

 いや、正直なところ部屋かどうかもわからない。だって何も見えないんだもの。どれだけ広いかわからないんだもの。


「えーと、確か俺は死んだはずじゃ……」


 記憶を遡ること体感速度で数分前、俺は刺された。

 川上の許嫁を名乗る黒服強面の男に、こう、腹部をグサッと。

 まず感じたことは、「痛い」だ。

 そして次に、「血がいっぱい」って思った。

 それ以降は何も感じなかった。だって死んでるもの。


「死んだら閻魔様に会って、天国に行くのか地獄に行くのか裁定してもらうって教えてもらったけど……どう見ても地獄って感じじゃないよな?」


 試しに耳を澄ましてみるものの、何も聞こえない。

 匂いを嗅いでみるものの、何の匂いもしない。

「無」という言葉がこれほど似合う場所はない。そうとまで思わされた。


 無闇に歩き回るわけにも行かないので、その場で寝転がることにした俺。その時だった。


『パンパカパーン!』


 突如目の前にスクリーンが現れ、そこに映像が映し出される。

 映ったのは閻魔様ではなく、うさ耳をつけてエロい格好をしたナイスバディの女性、つまりはバニーガールだ。


「……なっ⁉︎」


 その未だ嘗て見た事がないダイナマイトボディに、俺は言葉を失う。

 258番目に告白してきたコスプレ店の沙織ちゃん。彼女のバニーガール姿より数倍魅力的だった。


『おめでとうございまーす!あなたは、死んでしまいましたー!』


 スクリーンの中のバニーガールが言う。死んだのにおめでとうはないだろ。

 そんな俺の文句を他所に、バニーガールは話を続ける。


『あれー、反応がありませんねー?おーい、聞こえてますかー?生きてますかー?……って、死んでるからここに来てるんだっつーの!』


 一人でボケとツッコミの二役を演じるバニーガール。俺は一体何を見せられているんだろうか?

 それでも反応を示さない俺に、バニーガールは「むー」と頬を膨らませ、唸り始める。


『あのー!聞こえてますよねー!聞こえてたら、面白い駄洒落を言って反応して下さいー!』


 状況が掴めないので何もしないでいたら、何か無茶な要求突き付けられた。

 この空間がどこなのか、スクリーンに映るバニーガールは誰なのか、何一つわかっていない。しかし反応しなければ事が進まないことは確かなようだ。

 俺は思考を巡らせ、イケメンフェイス全開にしながら、渾身の駄洒落を口にした。


「布団が、吹っ飛ん……」

『はい、ありがとうございましたー!』


 ……最後まで言わせて貰えなかった。


『聞こえているなら、正直駄洒落はどうでも良かったんです。意思疎通可能である。それさえわかれば、手続きは進められますから』


 何だか無性に腹が立つ。そして同時に虚しくなってくる。


「それで、意思疎通が出来るから何だって言うんだ?手続きって何なんだ?つーか、ここはどこだ?お前は誰なんだ?」

『ちょっとちょっと!いきなり沢山聞かれても困りますよ!なので、ここはテンプレ通りにいきたいと思います!』


 バニーガールはゴホンと一度咳払いをする。その途端、スクリーンの中のミラーボールが七色の光を放ち出し、軽快な音楽も流れ始めた。

 踊り出すバニーガール。

 揺れる乳。

 佳境に入る音楽。

 揺れる乳。

 およそ三分ほどのダンスをバニーガールは『ヘイ!』という掛け声で締めた。

 何が凄かったわけでもないが、俺は思わず「おぉー」と拍手をする。バニーガールは『どうもどうも』と頭を下げ、俺の拍手に対応した。


『黒咲政景さん、生死の狭間へようこそ!あなたは数日前、お亡くなりになりました!』

「そんな明るく言われても……ん、数日前?」


 俺はバニーガールに聞き返す。


「俺が死んだのはさっきじゃないのか?」

『ノンノンノン!それはあなたの感覚上の話です。死亡してからあなたは、何日も目覚めなかったんですよ?因みにご遺体の方は、今丁度火葬に入ったところです』

「火葬……」


 俺は自身の腕を掴む。……感覚器官は、しっかり機能している。

 体は今ここにあり、傷一つ負ってないというのに、現世では業火によって焼かれている。何とも不思議な気分だ。


『さて、この生死の狭間では、黒咲さんの今後の身の振り方について選択してもらいます。先に断っておきますが、どちらを選べば幸せになれるのかはわかりませんし、どちらを選んでも幸せになれないかもしれません。その点はご了承下さい』


 身の振り方?選択?

 死んだら天国か地獄に行くものだと思っていたが、話を聞く限り、どうやらそうではないらしい。

 何はともあれ第三者に自分のこれからを決められるより、自身で選択できるというのはありがたいことだ。


『では、プレゼンさせて頂こうと思います。黒咲さんが選択出来る第二の人生は、このどちらかです!』


 バニーガールが言い終えると同時に、俺の目の前により小さなモニターが現れる。大きさは丁度顔くらい。

 そして小さなモニターはスクリーンと連動しているようで、画面にはバニーガールの言う二つの選択肢とやらが映し出されていた。


【Aコース】

 再び日本に生まれ、人生をリスタートする。

 ただし家柄、土地、家族構成などはランダムに選定され、今までの人生より不幸になる恐れもあり。

【Bコース】

 異世界に転移し、人生を再開させる。この場合容姿や人格はそのまま異世界に転送される。

 ただしどんな世界に転移するかはランダムに選定され、世界によっては不適合な恐れもあり。


 二つとも情報が端的に説明されており、且つリスクまでしっかり明記されていた。

 Aコースは日本に住めるが、黒咲政景ではなくなってしまう。

 Bコースは黒咲政景であり続けることは出来るが、日本にはいられなくなる。

 自分という存在を選ぶか、住む世界を選ぶか。そういう話だった。


 正直なところ、どちらにするか迷っている。

 日本に戻れるという点はどうでも良いが、違う人物になれるという点は非常に興味深かった。

 俺はモテたくない。女の子を傷つけるくらいなら、ブサイクでもバカでも何でもいい。嫌味に聞こえるかもしれないが、本心でそう思っている。

 しかし、Bコースを選べば、もしかしたら一夫多妻制の世界に転移できるかもしれない。その可能性に賭けてみたくなるのも、男の性だった。

 迷った俺は、バニーガールに尋ねてみることにした。


「なぁ、質問いいか?」

『何でしょう?全てとはいきませんが、出来うる限り答えますよ?』

「それは助かる。それぞれの世界の概要とリスクはわかったわけだが……メリットはどうなんだ?」

『メリット……ですか。それなら答えても問題ナッシングですね!メリットはズバリ……特典が付きます』

「特典?」


 早期購入者だけに与えられるDLCや、ドラマCDみたいなものか。

 しかしそんなものがあるのなら、最初から言って欲しかったものだ。


『Aコースにはちん◯んが、Bコースには特殊能力とタブレットが付いてきます』


 ……決まった、Bコースだ。

 だってAコースの特典は、現在進行形で持ってるもの。

 それに特殊能力という響きにも憧れる。タブレットなんていう現代のテクノロジーを出されると、ファンタジー感が薄くなるけど。


『早く早く!巻いて巻いて!』と急かすバニーガール。生放送のテレビ番組かよ。

 そんな彼女に、俺はきっぱりと宣言した。


「Bコース!俺は異世界に行く!」


 俺がそう声に出した途端、目の前の小さなモニターがパリンとガラスのように割れ、そして何もないはずの空間からタブレットが出てきた。


「これは……」


 見れば見るほど、普通のタブレット。先週も電化製品店で売ってたやつだ。


『異世界では日本同様、タブレットによる情報化が進んでいます。連絡の取り合い、お店の予約、スケジュールの管理など、様々なことが出来ますよ』


 わざわざ説明されるまでもないと思うほど、日本のタブレットそのものだった。

 実際起動させると、アプリにこそ少々違いが見られるが、八割方同じものと言えるだろう。


『あと特殊能力の方ですが、異世界に着くと同時に付与されることになります。公平性を保つ為、どんな能力になるかはランダムです。「ステータス」というアプリを起動させれば、特殊能力を含む黒咲さんの概要がわかりますので、是非一度目を通しておいて下さい』


 一通りの説明を終えると、バニーガールは『よいしょ』と言いながら、スクリーンの中から出てくる。……どんな原理かは知らないが、そんなこと出来るなら最初からやってろよ。駄洒落のくだりとかいらなかったじゃないか。

 画面の中の人から三次元の存在になったバニーガールは、俺の目の前に立つと、その愛らしい目で俺を覗き込んできた。


「画面の中にいた時から思っていましたが、見れば見るほどカッコいい方ですね。アイドルか何かやってました?」

「いいや、何も」


 スカウトされたことはあったが、全て断っている。俺がアイドルになり、ステージに上がるなんてことしたら……考えるだけでも恐ろしい。


「そうなんですかー。じゃあ、私だけのアイドルになって下さい。……なーんて、死後の案内人が言っちゃいけないですよね」


 そう言って、バニーガールは俺にーーキスをした。


「……なっ」


 驚いている暇もなく、俺の体が突如光を発し始める。どうやらキスが、転移の合図だったようだ。


「異世界では、日本で叶えられなかったハーレムライフを是非実現させて下さい」


 俺は501回目の告白を受け、異世界へと旅立っていった。

 一度は途絶えかけたこの記録、一体どこまで続くのだろうか?

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