すずめ亭とすずめの子供たち
ちょっとだけ、すずめの前世の家族の紹介。
勇者であるハーレム君が魔王の城に旅立ってから、ぼっち魔王の来店もぱったりとなくなった。
まあ、当たり前なんだけどね。勇者が魔王の城に行ってみたら魔王城はもぬけの殻で、魔王は帝国にあるカフェでハーブティーを楽しんでました、とか笑えない冗談だ。……いや、面白いから笑えるか。
というわけで、今日は元々ぼっちが来店するはずだったのだが急遽キャンセルとなった。次の客が来るまでの2時間は、私が我が子を可愛がる時間になったのだ。
「ファイちゃぁああん♪」
灰色と肌色と白色の三毛猫のお腹に顔を埋めてスンスンと匂いを嗅ぐ。召喚獣なので猫の匂いはしないが、肌触りだけでも幸せだ。
スンスンされているファイちゃんはというと、尻尾でたしたしとテーブルを叩いている。あまり触られたくない腹の毛をこれでもかと触られてご機嫌斜めのようだ。このままいくと頭皮を引っかかれておまけに髪に噛みつかれるだろう。ま、私にはご褒美だけどね!!!
「にぁ。」
とファイちゃんのとなりで箱座りしているのは、薄汚れた白い毛並みに青い瞳の猫、ぽんたんだ。薄汚れた、というのは実際に汚れているわけではなく、なんというか、子猫の時は真っ白だったのだが、大きくなるにつれて薄汚れてきて、今の薄汚れた白の状態になった。真っ白の猫は染色体の関係で体が弱かったり目が悪かったりするのだが、ぽんたんは薄汚れた白なので健康には問題がないようだった。
ファイちゃんはプライドが高いが、ぽんたんはすぐに甘えてきて、あざと可愛い。そのあざと可愛さと毛皮の薄汚れた白がすごくマッチしていて、私はぽんたんのことが大好きである。もちろん、ファイちゃんも大好きだ。
この2匹は、両方とも私が前世で一緒に暮らしていた猫達である。ファイちゃんは先住の家猫が産んで、ぽんたんは道を歩いていたら足に擦りよてきたので拾って育てた。
性格が全く違うからなのか、この2匹は前世では顔を合わせるたびに威嚇し合うくらい仲が悪かった。そのイメージがあるせいで、さすがに喧嘩したりはしないが、あまりこの2匹の召喚獣は馴れ合わない。
まあ、ファイちゃん自体が他の召喚獣と馴れ馴れしくしない孤高の猫だったので、ファイちゃんはどの猫に対してもそうなのだが。
「ぐ、ブホッ、ふがっ。」
食べられるわけでもないのに、おやつが欲しそうに足元でウロウロしているのは、黒いブリンドル柄のフレンチブル、ガフだ。ガフガフと鼻が鳴るので、ガブと名付けた。あと、なんでも噛んでボロボロにする。道端の草どころか、石も食う食いしん坊さんだ。
ガフも前世で一緒に暮らしていた。ブル系の小型犬は色々な気候の変化に弱いが、召喚獣なので全く問題ないのはすごくありがたいな、と思う。ガフの他にも、うちには色の違うパグが2匹と、ビーグル、雑種、シーズーなどがいた。私は犬も大好きなのだ。
そんな時、カラン、と店のベルが鳴って、ドアノブをガチャガチャするか音がした。しかし、店の扉は開かない。
「すいませーん。営業してますかー?」
うちの店はは客商売だが、お客様のプライバシー保護の為に、店は帝都でも辺鄙な場所にあるし、いきなり入って来られないように、店の扉には基本的に鍵がかかっているのだ。
常連さんは絶対に予約をするし、常連に紹介されて来店する一見さんも予約をする。この店は自分で言うのもなんだが人気なので、予約を取らなければ入れないのである。
つまり今、扉の外で声をかけて来たのは、うちの店をよく知らない通りすがりの人の可能性が高い。
珍しいな、と思いながら、「はーい。」と声をかけ、扉の鍵を開けると、そこには見知らぬ男女がどこか不安そうな顔で立っていた。
「すみません、彼女が、ここのあたりに小動物と触れ合えるお店があると聞いたらしいのですが……。」
20才前後くらいの青年が、どこか自信なさげにそんなことを言う。
10代半ばくらいの、栗色のウェーブがかった髪を赤いリボンで結っている女の子は「絶対ここだと思うんだけどなあ。」と自信ありげに言っているが、「人気店ならこんなところには無いんじゃないの?」と、どうやら青年は信じていないようだ。
まあ、確かにここはスラムも近いしね。分かるよ、その気持ち。
でも、例え絶縁したとしても、敵国の有力な家出身の私が、帝都のど真ん中にね、大々的に店を持つわけにはいかなかったんだよね。今の客層を考えれば、むしろここで良かったとも思えるけどね。
あー、本当はもうちょっと子供たちと触れ合いたかったけど、他のお客さんがいない状態で新規の客を追い返すわけにもいかないか。
私はぺこりと頭を下げた。
「召喚獣カフェ【すずめ亭】にようこそいらっしゃいました。本来、うちは完全予約制なのですが、今、ちょうどお客様がいらっしゃらないので、中へどうぞ。」
「えっ、ここなんですか?本当に?」
「ほらー!ここなんだよ!」
成年は半信半疑だったが、女の子に背中を押されるように店の中へ入る。
私は店の扉の鍵をそっと閉めると、2人に笑顔で話しかける。
「お客様は、どんな小動物が、お好みですか?」