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異世界に転生したら召喚士の家系だったから獣カフェをはじめたら  作者: 入蔵蔵人
異世界に転生したら召喚士の家系だったから獣カフェをはじめたら
3/25

すずめ亭とじじい

ひいじーさんだけど、じーさんと呼ぶ。

 召喚獣は、毛が抜けない。


 いや、引きちぎれば抜けるが、抜けた後は魔素という、なんていうかゲームとかでいうマナとかMPとかの元になって消えるらしいので、結果的に毛は残らない。もちろん、肉片も、血もだ。

 他にも、病気にもならないし怪我もしない。食費もかからないし、排泄もないし、疲れないし、雇う(?)側からすれば本当に万能な店員である。


 しかし、残念な点もいくつかある。


 まずは、ご飯を食べないところだ。

 食費がかからないのはありがたいが、やはり、エサを必死にがっつく犬や、ニャムニャムとひとりごとを言いながら缶詰を食べる猫は、見ていて癒やされる。それがないのは、寂しい。


 次に、記憶が引き継がれないところも寂しい。

 召喚獣は、基本的に召喚し直すと、行動も初期化される。だから、“時間をかけて慣れさせる”ということができない。

 つまり、召喚し直す度に、常連の客であっても、召喚獣から見れば初対面という状態になってしまうのだ。

 これはまあ、召喚する際の調節如何で“それっぽく”することはできるが、やはり“そのもの”の動きにはならない。

 わかりやすく言えば、指に噛み付いてきた小動物に対して「怖くない、怖くない。」というアレができないのである。

 まあ、【すずめ亭】にいる召喚獣は、猫は別として、基本的に客に対して攻撃することはないように召喚しているので、そもそもそういう状態にはならないのだが、ちょっとやってみたかったな、と思うことはある。

 ちなみに、一部の猫には特別に攻撃行動を許可している。嫌なことをされたら噛むし、爪を出して猫パンチもする。それが、猫だから。


「ほっほっほ、なんじゃあ、辛気臭い顔しおってからに。ほれ、ちゃんと接客せんかい。」


 と、窓際の、太陽が差し込む席に座っている老齢の男が声を上げた。


 その肩には、完全に安心しきった【猫:アビシニアン】が長く伸びて寝ており、膝の上には【超小型犬:トイマンチェスターテリア】がテーブルに手をかけ、湯気のたつ苦茶のカップに鼻を寄せている。

 テーブルの上に設置されている止まり木には、先日デビューしたばかりの【小鳥:シマエナガ】が2羽、身を寄せ合って止まって、ピピピと歌っていた。


 これ以上無いくらい接客していると思うのだが、まだ何か不満なのだろうか。


「この子はあげませんよ。」


 そう言い放ち、私はカウンターの上の【猫:スフィンクス】の背中に頬ずりした。


「そういう意味ではないわ!もうちょっとじゃな、ほれ、曾祖父(じーちゃん)孝行をじゃな?」

「もう家族じゃありませんしー。」


 私は【猫:スフィンクス】の背中を撫でながら口を尖らせた。


「そこをなんとかじゃな、ほれ、お前に召喚術を教えてやった恩もあるじゃろうが。」

「恩を(かさ)に着るのはどうかと思いまーす。」

「ぬう。」


 この老人は、何を隠そう私の曾祖父(ひーじい)さんだった。

 今は前線を離れ、自分で召喚したドラゴンの背中に乗って世界を渡り歩いてはいるが、その昔はそのドラゴンやらなんやらで攻め入ってくる何千人という敵国の兵士を一人で迎撃とかしていたすごい人だ。

 しかし、猫やら犬やら小鳥にふにゃふにゃにされている姿に、そんな面影は全く無い。


「それにしても、シマナガエ(・・・)、じゃったか。かわええのお。こま(小さ)いもんを召喚させたら、お前の右に出るもんはおらんなあ。」

「シマエナガです。エナガっていうのは()が長いってことで、つまり、ほら、尻尾(おっぽ)が長いでしょう。そこから来てる(らしい)んですよ。」

「ほうほう、なるほどのう。」


 シワシワの指で、曾祖父(ひーじい)さんが【小鳥:シマエナガ】の背中を撫でる。

 【小鳥:シマエナガ】はその指に後頭部を擦り付けて、ぴ、と鳴いた。


「ういやつめえー!」


 もう、めろめろである。


 うん、ジャンル【小鳥】もなかなか受けがいいな、これからちょっと増やそう。

 私は曾祖父(ひーじい)さんと召喚獣を眺めながら、次は何が良いかな、と思いを巡らせた。


 可愛い、小鳥かあ。


 【小鳥:シマエナガ】は白いから、次はカラフルな小鳥にしてみようかな。

 それとも、庶民的(?)に、ツバメとか。あとは、私の前世の名前でもある、スズメとか?

 ああ、すずめというと、今でもあの悪夢を思い出す。

 ふくら雀、という冬のまんまるとしたスズメが見たくて、Coocle(クークル)で“フクラスズメ”を検索したあの日。

 画面いっぱいに出てきたのは、可愛らしい小鳥、ではなく蛾と毛虫の写真だった――


 ああ、これ以上思い出すのは良くない。そう、あれはカタカナで検索した私が悪かったのだ。

 私は悪夢を追い払うかのように頭を振って、思考を切り替えた。


 そういえば、前世ではペットに小鳥を飼ってる友達が居た。

 なんだっけ……黄色くて、頭の上に飾り羽があって、ほっぺがオレンジの歌う鳥。

 ああ、オカメインコだ。あれも可愛いかったなあ。

 あとは、そう、幸せの青い小鳥とか?


 「またわしのこと忘れとるじゃろ!!客じゃぞ客!」


 という声は聞こえないふりである。


 幸せの青い小鳥。

 いいかもしれない。

 まあ、この世界には、青い小鳥が幸せをもたらすなんて迷信はないけれど、可愛ければなんでもいいのだ。

 早速私は、Coocle(クークル)で検索をかけて、すぐに目的の小鳥を見つけた。


 か、か、可愛い。これは可愛い。

 青い小鳥の写真を見て、私は感嘆のため息をはいた。


 動きはとりあえず【小鳥:シマエナガ】に準じるとして、早速召喚してみよう。

 私はルンルン気分で、カウンターを出て召喚部屋へと向かった。

 後ろでは、召喚の気配を感じた曽祖父(ひーじい)さんが堂々とついてきているが気にしない。

 そもそも、他の客にリクエストを貰えば普通に客の目の前で召喚術を使っているのだ。今更である。


 召喚には、召喚専用の魔法陣を使う。

 召喚獣の材料は、私の血の一滴と、私の魔素だ。

 魔素というのは、まあ、ロールプレイングゲームとかでいうMPみたいなもので、魔法を使うと消費され、魔法を使わなければ自然に回復する。

 ちなみに、歩いていようが座っていようが、魔素の回復速度は変わらないようだ。


 私は、小さな専用の針を人差し指の先に刺し、血を絞り出した。

 この針、どうやって作られているかは知らないが、かなり細くて、刺しても痛みもなければ傷も残らないすぐれものだ。

 指先を絞ると丸い血の玉ができるので、それで床に掘ってある召喚の魔法陣の中央をなぞれば魔法陣は発動する。

 そうして、さっき検索したばかりの青い小鳥を思い浮かべ、私は魔素を魔法陣に込めた。


 じわりじわりと、体から魔素が抜けていくのが分かる。

 感覚的には、お腹が空きすぎて力が体に入らない時のような……そう、低血糖になっている感じといえば、分かりやすいだろうか。まあ、低血糖になる人とならない人がいるみたいだけど。


 前世、私は低血糖になりやすい体質だった。

 特に病弱だったわけではないが、お腹が減ると体中の力が抜けて、手が震えてくるのだ。

 甘いものやご飯を食べれば10分も経たずに回復するので、私の鞄にはいつも何かしら、お菓子や栄養ゼリー的なものが忍ばせてあった。


 そんな懐かしい事柄を思い出している間に、召喚はつつがなく終わった。

 ゲームとかによくある詠唱とかそういったものは、魔法陣を使う召喚術にはない。

 魔法陣が詠唱の代わりになるのだと、昔、曽祖父(ひーじい)さんが言っていた。


 その曽祖父(ひーじい)さんは、今、唖然として、魔法陣の中央に現れた一羽の小鳥を見ていた。


 その小鳥の名前は、コルリ。

 頭から背中にかけて鮮やかな青、目のあたりから羽の付け根は黒、そして、顎から腹部は真っ白という、私が思い浮かべた幸せの青い小鳥そのもの。

 構成は【小鳥:シマエナガ】と同じなので、行動も鳴き声も【小鳥:シマエナガ】と変わらないが、なかなかの力作である。


「可愛いでしょう、そうですね、コルリ、コルリにしましょう(と、どっかの偉い人が名付けたと思います)。」


 もちろん、括弧(かっこ)内は口には出さない。

 【小鳥:コルリ】は、ピチチ、と【小鳥:シマエナガ】と同じ声で鳴くと、魔法陣から飛び立って【小鳥:シマエナガ】の隣に止まった。

 それを自然と目で追う、曽祖父(ひーじい)さん。


「小鳥、いい。」


 ぼそりとつぶやいたその言葉に、私はジャンル【小鳥】は“受ける”と確信したのだった。

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