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ハーレムサイド エピソード2 トリスタニア 2

 トリスタニアは、ガレリア帝国の第一皇女である。


 トリスタニアがものごころついたときには、彼女はすでに兄らと同じ皇子の格好をしていた。

 自分と兄らが少し違うかもしれないと気づいたのは、5歳あたりだ。兄らに、自分には無いものが付いているのを見てしまったときである。

 自分だけ兄らと一緒にお風呂に入れないのはそのせいかもしれない、と幼いながらにショックを受けたのを覚えている。


 そして、ソレが付いていない自分は本来はスカートを履かなければならないのだと自覚したのは、トリスタニアが6歳になり、まだクルスになっていなかったころのユーシャが「なんでオトコのカッコウなんかしてるんだ?」と言い放ったときだった。


 トリスタニアの中で、自分は“オトコノコ”の側であった。

 3人の兄らとともに帝王学を学ぶ、帝位継承権のある、この帝国の皇子。

 兄にあるモノはもう少し大きくなればいつの間にかできているのだろうと、信じて疑っていなかった。


 しかしユーシャの言葉を受けたトリスタニアはいつも侍っている侍女に口頭で確認し、戸惑いながらも教えた侍女によってアレがついていないのは“皇女(オンナノコ)”だと知ってしまった。


 自分は、“オンナノコ”である!!!


 それを知ってしまったトリスタニアのショックははかりしれず、幼馴染のカーロラーナでさえ手がつけられないほど落ち込んでしまった。


それを解決したのも、ユーシャであった。


「なんで“オンナノコ”は、ケンのレンシューしちゃだめなんだ?」


 それは、ユーシャにとっては女がスカートを履かないという単純な疑問と同じ程度の疑問であった。

 そのときユーシャは、勉強は嫌いであったが剣の修業については嬉々として参加していた。それはトリスタニアも同じである。


 トリスタニアは自分が“オンナノコ”だとわかってからの数か月間、慣れないスカートを履いて侍女らを侍らせてはお茶会もどきを催し、ただ甘いお菓子を食べながら微笑みつつ庭を眺めて花を褒めるという、“トリスタニアが考えるオンナノコらしさ”を演じることに一生懸命になっていた。しかし、ユーシャやカーロラーナには彼女が無理しているように見えたし、実際そのとおりだった。


 男装をさせていたのは母親である皇后リーリナエッタの指示で、あまりにも可愛い娘を政治利用させたくないがためだった。しかし、他国は別としてもトリスタニアが皇女だとみんな知っていたし、育つに連れて皇子と言い張るにはあまりにも可愛い顔になってしまったのであまり意味はなかった。

 とはいえ、そのかわいらしい顔とは裏腹に性格はどちらかと言えばやんちゃで、ユウシャとも男友達として遊んでいた。


「私は、女だが、戦える女になりたい。」


 そう明確に考えるようになったのが、トリスタニアが9才のときに起こったカーロラーナ誘拐事件である。


 ある日、まだ幼い2人は城を離れ、とある侯爵家のパーティーにお呼ばれしていた。


 当時トリスタニアが皇子の恰好をしている皇女だということは、貴族ならば誰もが知っていた。トリスタニアがお呼ばれしたパーティーや王族が開催するパーティーに男装したまま参加していても、誰も何も言わなかった。確かに皇女ならば政治的な意味で外交に“使う”こともあるが、ガレリア帝国は強国で、特に今代の姫を国外に出す必要がなかったのだ。だから今までは問題にされなかった。


 しかし、ユウシャがクルスとなり、クルスと年齢が近く仲が良いトリスタニアは“国の都合で”国内外に皇女であると知らしめなけれなばならなくなった。普段着はどうしようもないとしても、パーティーのときはドレスを着なければならなくなったのだ。

 だからその侯爵家のパーティーでは、皇女のトリスタニアは茶色の髪をハーフアップにしてドレスで、騎士としてトリスタニアをエスコートするカーロラーナはかなりかっちりとした騎士に近い恰好でパーティーに参加していた。


 そう、トリスタニアは初めてドレスでの参加だった。そのせいで、カーロラーナがトリスタニアに間違えられて誘拐されたのだ。


 騎士見習いとして剣を習っているとはいえ、カーロラーナはまだ10才の少女である。

 攻撃魔法が使えるとはいえ、複数の屈強な男どもに囲まれてはどうにもならなかった。


 トリスタニアは自分が皇女だと叫んだが、“皇女は男装している”と聞いていた賊たちが取り合うことはなかった。立派なドレスを着ていたため、むしろトリスタニアが将来の騎士になるのだろうとさえ思ったほどだ。

 賊に捕まったカーロラーナは、賊の言うことを否定しなかった。知らない大男の小脇に抱えられているのだからもちろん恐ろしいし怖いとは思ったが、何よりもまずカーロラーナはトリスタニアの騎士であろうとした。皇女であるトリスタニアの身代わりになるのだ。これが一番正しいのだと、幼いながらに判断した。賊がトリスタニアを馬鹿にするばかりで、手を出さなかったことも大きかった。


 そうしてカーロラーナは侯爵家から攫われた。

 眠りの魔法をかけられたトリスタニアを庭の片隅に残して。


 そんな2人にとって幸運で、そして賊にとって不運だったのはそのパーティーに7歳になったクルスが参加していたことである。





 トリスタニアが城の自室で目覚めたとき、そこには侍女とともに、すでにクルスによって救われたカーロラーナが申し訳なさそうな顔をして座っていた。


 もちろんその後は大ゲンカである。

 騎士であれば主従関係である。しかし2人は親友でもあった。どちらに重きを置くのか、子どもだからこそ割り切れずに意見は平行線をたどる。

 しかしそれもすぐにぐだぐだになって、じわじわと2人してお互いの無事を認識するに至り大泣きしてそのまま眠りに落ち、朝になって仲直りした。


 トリスタニアとカーロラーナは、お互いがライバルとして強くなって、招来は背中を護り合うと誓いあった。

 もちろんトリスタニアは皇女で、守られなければならない貴人である。しかしカーロラーナの誘拐事件をきっかけに、護られるだけでは大切な人がいつの間にか奪われることもあるのだとトリスタニアは強く感じたのだ。


 そうしてトリスタニアは剣を、魔法を極めるべくカーロラーナとともに切磋琢磨していくのだった。

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