ハーレムサイド エピソード1 クルス 3
僕がこの世界を見守っている名もなき白い神様からもらった特典は、全部で5つもあった。
ひとつめは、【健康体・極】。物理的に殺されない限り、寿命で死ねる特典。
僕は病気にならず、毒は僕の体に入った瞬間無害になる。僕の血は解毒薬にも万能薬にもなるらしい。
ふたつめは、【聖剣顕現・神】。どこからともなく聖剣を顕現させる特典。
聖剣というのは、勇者だけが携えることのできるとかいう神の魔力とかなんとかで出来た剣。
別に魔族相手だけにその力を発揮させるわけではなくて、対人だろうが対物だろうが切りたいものが切れる。
みっつめは、【戦闘時加速思考】。簡単に言えば、戦っているときだけ全てがゆっくりに見える特典。
語彙に頼らず表現するなら、“すごく動体視力がすごい”。
これは意識的にON/OFFができるので、模擬戦とか通常の戦闘には使うことはない。
よっつめは、【基礎魔力・神】。すごく魔力がすごい特典。
そしていつつめは――
「ぜっ……」
と、僕の神からもらった特典(この世界ではスキルというらしい)を読み上げていた若い女性の神官が言葉をつまらせた。
「……どうした?」
僕の後ろで、僕のスキルの儀を見守っていたトリスタニアが不安そうな声を上げる。
7才のトリスタニアは皇子のような格好をして、声もなるべく低く押さえて振る舞っていたが、このときは少し声が上ずり、持ち前の可愛らしい声に戻ってしまっていた。
「い、いえ、あの、その……い、いつつめの特典は、……【絶倫・勇者】、です……。」
「ゼツリン?」
「ふふ。」
トリスタニアが首をかしげ、それに思わず僕が吹き出して笑ってしまい、神官の女性が複雑そうな顔で僕を見る。
「大丈夫、神官さまが考えるようなスキルじゃないから。」
笑いを抑えながらそう言って、僕は、僕が死ぬ前、5年前の白い神様との会話を思い出す。
神様さえ困惑させた【絶倫】だが、その後意味をちゃんと調べた僕は恥ずかしさのあまり転げ回って体調を悪化させ、カウンセリングの回数を無駄に増やしてしまった。
そもそも絶倫とは並外れて優れた技量などに使われる言葉であって、けして女性が顔を赤らめる言葉ではない。つまりこの神官さんも僕と同じような勘違いをしているということだ。
とはいえこのスキルは僕の理想に沿った形で神さまの手が入っているので、絶倫という言葉そのものの意味を持つだけのスキルでもなかった。
「どういった、意味でしょうか……」
おずおずと、しかしほんのり頬を染めて聞く神官の女性。
いや、僕まだ5才だからね!?という思いと、勇者の子孫は今から狙われているのか!?という慄きをできるだけ顔に出さないように、僕は微笑んだ。
「ひ・み・つ。」
口をパクパクさせている神官を置いておき、僕はトリスタニアのもとへ歩いていき、自らの人差し指をその男装するには無理がありそうな桃色の唇にそっと触れさせる。
「タニア、僕の特典はよっつだったと、報告してくれないか。」
「……えっ!?」
本来の高い可愛らしい声で、小さく声をあげるトリスタニア。
「おねがい、なんでも言うことを聞くから、僕のお願いも聞いて?」
「え、う、うん……」
男装していることもすっかり忘れ、耳どころか首まで真っ赤にして、トリスタニアはうなずいた。
それから振り向いて、僕は神官にも「秘密にしてくださいね。」と言うと、神官も顔を真っ赤にしてこくこくと頷いた。
サイドストーリーの更新は一旦ここで止まります。




