ハーレムサイド エピソード2 トリスタニア 1
年の近い、生意気な弟。
トリスタニアの中で、2才下の“ユーシャ”はそういう存在だった。
でも、トリスタニアが“ユーシャ”を“弟”と呼ぶことは許されなかった。同じ母親から生まれたというのにだ。
“ユーシャ”は、トリスタニアの兄らのように皇帝学を学ぶことはなく、城の中でのびのびと自由に生きていたが、彼は皇帝を含めた全ての人びとからそれを許されていた。トリスタニアの兄らはそれを疎ましく思っていたようだった。
“ユーシャ”の3才の誕生日は盛大に行われた。兄の誕生日パーティーは覚えていないが、トリスタニアの4才を祝うパーティーよりも断然大きく、いろんな人が来て、“ユーシャ”に名前を聞いていた。
いろんな食べ物が出て、いろんな催しがあった。トリスタニアの兄らもそのパーティーには出席したものの、ごちそうを前にしてもあまり嬉しそうではなかったのが印象的であった。
でもそれから1年が経ち、“ユーシャ”の4才の誕生日は寂しいものであった。トリスタニアの両親である皇帝と妃、そしてトリスタニアの幼馴染でありトリスタニアの騎士でもあるカーロラーナという少女だけである。
この頃になるとトリスタニアの兄らは、“ユーシャ”のことを完全にいないものとして扱うようになっていた。トリスタニアの周りの侍女らが“ユーシャ”のことを“フギ”という名前で呼んでいることを、トリスタニアは知っていた。
5才になった“ユーシャ”は、完全に問題児扱いされていた。
トリスタニアも、ぼんやりと“ユーシャ”がどういった存在なのか、そしてフギというのは不義という意味なのだとわかるようになっていた。
“ユーシャ”の5才の誕生日のお祝いは、“ユーシャ”と、“ユーシャ”を産んだけれど母親ではないらしいトリスタニアの母親と、トリスタニアの騎士であるカーロラーナだけで控えめに祝った。“ユーシャ”は嬉しそうではなかった。
でもそれから程なくして、“ユーシャ”はクルスになった。
“ユーシャ”は本当に勇者だった。
“ユーシャ”が覚醒した日、城の中はそれはもう大変な騒ぎになった。
なにせ、“ユーシャ”のことを不義呼ばわりしていた人たちが大勢いたのだ。
“ユーシャ”に直接辛く当たっていたものもいたし、皇帝さえ“ユーシャ”をそろそろ城から離宮へと追い出す準備をしていて、そのことを“ユーシャ”自身にも話してしまっていた。
復讐をされるかもしれないと、皇帝や皇子らは顔面蒼白になった。
“ユーシャ”に直接関わっていない者たちも、遅すぎた“ユーシャ”の覚醒に恐れ慄いていた。
覚醒したとはいえ、相手はヤンチャな5才児。ひょんなことから気を悪くして扱えもしない攻撃魔法を使ったり、戦いごっこと称してその神から授かった聖剣を振り回す可能性もある。そうなればもう誰も手に負えなくなってしまう。
“ユーシャ”がもし3才の時点で覚醒していたら、もう少し教育もされていたのかもしれない。
しかし、“ユーシャ”は覚醒しないまま、ろくに教育もしてもらえないまま、5才になってしまった。
その“ユーシャ”、もといクルスの手綱を任されたのが、トリスタニアであった。
しかし、クルスになった“ユーシャ”は、ほぼ別人になっていた。トリスタニアの知る、ヤンチャで、冒険が大好きで、勉強と大人が嫌いな“ユーシャ”はもうどこにもいなかった。
トリスタニアがクルスと話してみると、クルスはおとなしい感じの優しげな少年だった。
“ユーシャ”の顔と声でトリスタニアのことを「タニア」と呼ぶクルス。しかしその表情はどこか儚げで、“ユーシャ”だった頃の面影はない。
しかし、“ユーシャ”はクルスになっても、ことあるごとにトリスタニアを頼った。その理由も知らないまま、トリスタニアは頼られることを嬉しく思い、段々とクルスに心を許していく。
クルスは、今まで以上に、何をするにもトリスタニアと一緒にいるようになった。
トリスタニアと一緒にいるということは、彼女の騎士であるカーロラーナも一緒ということである。
カーロラーナが騎士の修行をするときはトリスタニアとクルスも一緒に修行をこなし、トリスタニアが皇帝学の勉強するときはカーロラーナとクルスも一緒に勉強をした。
そうして3人は、確かな絆を深めていった。




