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異世界に転生したら召喚士の家系だったから獣カフェをはじめたら  作者: 入蔵蔵人
異世界に転生したら召喚士の家系だったから獣カフェをはじめたら
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すずめ亭とハーレム君

お店の説明回その2と、ハーレム君。

 今日の何組目かの客は、これも常連に近い頻度で訪れる、金髪でイケメンだった。

 彼は、顔面偏差値が高い。超絶、高い。

 だからか、毎回違う女性を隣に連れている。


 そして彼はこの国の、いや、この世界の、勇者である。


 イケメンで、毎回違う女の人を連れてきて、しかも勇者。

 前世でラノベが大好きだった私にはもう、ハーレム君という愛称以外思い浮かばかなかった。


 ハーレム君は犬が好き、だと思う。


 初めて【すずめ亭】に来店する客には、私は必ず召喚獣のリクエストをもらう。

 その時にハーレム君は、サラサラ金髪をかきあげたかと思うと、まっすぐな視線を私に向けて、「大きく、強く、それでいて美しく、優雅で、細身。」と言った。


 お前の女性の好みではないのかそれわ。とも思いつつ、私が召喚したのが【大型犬:アフガンハウンド】だった。

 勇者は【大型犬:アフガンハウンド】をひと目見ると目を見開いた。どうやら気に入ったようだった。

 初回の来店時だけ(・・)は連れがいなかったので、その日彼は思う存分、【大型犬:アフガンハウンド】を愛でていた。


 それから勇者が来る度、私はずっとジャンル【大型犬】の中でも、すらりとした長毛種の犬ばかりを召喚している。

 ここだけの話、好みの傾向が、犬と猫という違いはあるが、どことなくどこかのぼっちと似ていて、ちょっと面白いと思っている。


 そんなハーレム君は、いつものように最高級のソファに足を組んで座り、右には胸の開いた赤い細身のドレスを纏ったグラマラスな女性を(はべ)らせ、左には【大型犬:アフガンハウンド】を(はべ)らせていた。

 ハーレム君の足元には【大型犬:ボルゾイ】が寝そべり、ソファの周辺はなんだか一枚の絵画のようになっている。まあ、毎回、絵画みたいになってるから慣れたけど。


「ここ、来てみたかったのよね。」


 グラマラスな女性がしなをつくって勇者を見上げる。

 それにしても、すごい谷間だ。

 しかし、ハーレム君の視線はブレることなく女性の顔面を捉えて微笑んでいた。

 さすがである。


「ははは、なかなか予約は取れなかったんだけどね、君のために無理を言って入れてもらったんだよ。」


 どこからともなく勇者の手に現れたのは、赤いドレスよりも深い紅色の、薔薇に似た花。


「僕の剣と盾は、民に捧げているけれど、今、この時だけは、僕の全てを君に捧げよう。」

「まあ!」


 そんな会話を、店のカウンターの上に寝そべる猫のお腹に顔を埋めてスーハーしながら聞き流す。


 ちなみに私は、無理を言われた事はないし無理を聞くこともない。

 お客様は誰であれ、平等に接するのが一番なのだ。面倒くさいから。


 そう。

 このハーレム君は月に1度は女性を伴って顔を出して、その時に連れの女性にバレないようにこっそり次の予約も入れて帰っていくのだ。

 で、毎回「君のために無理を言って予約をしたんだよ。」などとぬかすのである。

 まあ、ハーレムによくある、鈍感系主人公ではないことだけは確かである。


 以前「君は口がかたくて助かるよ。」と礼を言われたことがあるが、SNSどころかインターネットなんていう概念なんてない世の中だし、そもそも勇者の悪口を拡散してもなにひとつ得なんてないので、「お礼を言われるような事は一切ないですよ。」とだけ答えた。

 その時ハーレム君は、なぜか苦笑いしていた。


 私は、前世では個人情報云々の扱いに厳しい国で育ったので、そもそも客の個人情報は他の客に漏らさないようにしている。

 

 とはいえ、他の客についての情報を聞き出すためにすずめ亭に来る輩も当然、いる。

 ここには、帝国以外の国の要人やら異種族やらも来るのだ。その噂は海を超えて隣大陸まで聞こえているらしい。


 敵国の要人が来店していると聞きつけた帝都のお偉いさんや、勇者の情報を得に魔王の部下らしき魔族も来たことがあるが、帰る頃には全てがもうどうでもよさそうな顔で動物たちを愛でるようになる。

 そんなわけで、特にこの店から情報が漏れたことはない。


 あ、もちろん、もふもふに興味ないとか、召喚獣を愛でることのできない人もこの世界にはたくさんいる。

 動物も召喚獣も戦争の道具であって、役に立つか立たないがが全てだ、という考えの人たちだ。


 例えば、私の家族がそれだ。


 確かに、戦争の道具になるための召喚獣に感情移入なんてしていたら何にもできなくなってしまうだろう。だからレミリシアン家の子供たちは物心付かない頃から動物や召喚獣に対して感情移入できないよう、色々と訓練をつけさせられる。


 でも、私は赤ちゃんの時からすでに前世の記憶を持っていたので、そういった訓練はかなり精神的にしんどくて、できるだけ逃げていた。

 親や教師からは目をつけられたが、私が末娘だったことが不幸中の幸いだった。

 当時、私にはすでに優秀な兄が2人とこれまた優秀な姉が1人いて、3人のうちの誰かがレミリシアン家を継ぐだろうと言われていたのだ。

 だから、私が訓練から逃げても大して怒られはしなかったし、兄や姉などは訓練から逃してくれたり匿ってくれたりと、何かと甘やかしてくれた。


 まあ、その後に始まった“創造召喚”という訓練を兄や姉以上に必死にやった結果、どうやら兄や姉以上に優秀なのではないかと言われ始めたりして色々あったけど、それももう過去の話だ。

 レミリシアン家は、【すずめ亭】のある帝国とは敵対関係にある国にあるし、家とはすでに縁も切っている。一族の誰かが【すずめ亭】に来ることはまず無いと言ってもいいだろう。

 あ、いや、曾祖父(ひーじい)さんは別として。


「ありがとうございましたー。」


 獣カフェをするにあたって、召喚獣の一番良いところは服に毛がつかないところだよなあ、などと考えながら、ハーレム君と赤いドレスのグラマラスを見送る。

 会話を聞き流していた所、グラマラスさんはどうやら剣士らしい。拳士かもしれない。どっちにしろ、なんか戦う感じの人なのだろう。


 ――勇者のパーティーは女ばっかりなんだよなあ。


 と、これは以前、男性客のひとりがぼそっとぼやいたつぶやきだ。


 もしかしたら、あの女性もパーティーメンバーか何かなのかもしれない。

 そんなプレイボーイ勇者サマは、空のカップを下げに近寄った際に、こっそりと私にメモを渡してきた。

 もちろん、連絡先ではない。次回の予約だ。


 次も、また別の女性と来店するのだろう。


 そういえば、ハーレム君が連れてくる女性は、毎回毛色が異なる。

 今日はグラマラスだったが、前回は少女だった。その前は、確か男装の麗人だった。


 毎回、勇者のリクエストで毛の長い犬だったが、次は同じ犬でも、小型犬や、大型犬でも短毛種を勧めてみようかな、と、私はなんとなく思った。


 しかし、メモに視線を落とすと、そこに書いてあったのは意外にも、次の予約ではなかった。




“魔王城へ行きます。帰ってきたらまた連絡します。”

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