ハーレムサイド エピソード0 クルス 2
「絶倫?」
夢の中で僕は、なんか真っ白い幸が薄そうな人と向かい合っていた。
世界は白くて、さらに霧がかかっているような感じで少し寒い。
この世界の僕は、今、何をしてるんだろう。この髪が長い白い人は誰だろう。
「絶倫ですか……」
白い人は悩ましげな表情で「難しいですね……」などとつぶやいている。
もしやこれは、僕が、こっちの世界の僕にちょっと影響を与えてしまって、いきなりわけのわからないことを言い出してしまった!みたいな流れなんだろうか。
「少し記憶を見ますね。」
白い人はそう言って、僕に手を伸ばした。
ぼんやりと暖かな光が僕を包む。
じんわりと温かい。
これは、魔法?
魔法の世界の僕なのかな?
魔法かあ、かっこいいなあ。
僕は、パラレルワールドに剣と魔法の世界もあったのだと、よくわからないところで感動した。
「知識が偏りすぎている。あなたが考えている絶倫は、本来、そういう意味ではありませんが……」
白い人はそんなことをブツブツ言いながらため息を吐いた。
「質問を変えましょう。」
「はい。」
「健康になりたいですか?」
「なりたいです。」
僕は即答した。
この世界の僕も、不健康なのか。
「では、勇者転生の選べる特典として、できるだけあなたが考えるイメージに沿った『絶倫』と、あとは『健康』を与えましょう。」
勇者転生!?特典!?
なんだそれ楽しそう!!!
この世界の僕、楽しそうだな、いいな、僕も転生して勇者になって、魔王とか倒してみたい。
「乗り気でなによりです。
あなたは、人びとの行った勇者転生の儀により、私の手に掬われました。
あなたは、これから3年かけてゆっくりと魂を勇者の器に移動させていきます。」
3年、結構かかるんだなあ。
「その間に、魂に私の力を入れ込む作業もするのですが、急ぎすぎると魂が壊れてしまうのです。人の魂は、とても繊細なので。」
なるほどなあ。
「では、また3年後にお会いしましょう、未来の勇者。」
いいなあ、夢の中の僕は、3年後に勇者になるのか。
僕は3年後、何してるかなあ?
病院の中庭くらいは歩けるようになってるといいんだけど。
「来栖さん。」
そう呼ばれて、僕は空想とも夢ともつかない世界から現実へと覚めた。
見れば、そこにいたのは僕の主治医と、看護師が2人、あと、いつものカウンセラーだった。
今日はカウンセリングの日じゃないはずなんだけどな?
僕は首をかしげる。
「先日の検査の結果がでました。」
「そうですか。ちょっとは良くなってるといいんですけど。」
「それが、思いの外悪くてですね。」
「はい。」
「先に親御さんに連絡したのですが、私の方から結果を伝えてほしいとのことで。」
まあ、いつもどおりだよね。
「はい。」
僕は特になんのリアクションもしなかった。
「新薬の開発も遅れているため……」
主治医が言いよどむ。
そんなに僕の体は悪いのか。
「もって、3年、かと……」
「3年?」
「3年です。」
「3年。」
3年、か。
長いのか短いのか、よくわからないな。
不思議と、怖いとは思わなかった。
3年、ついさっきも聞いた、3年。
3年かけて、魂を移動させるとかなんとか。
夢の、パラレルワールドの、剣と魔法の世界の僕が、白い人から言われていた、3年。
もしかして3年後に死んだ僕は、勇者として転生したりするのだろうか。
そう思えば、むしろ楽しみですらあるような気がした。
――そんなわけないじゃないか。
僕は僕に反論した。
怖くないわけがない。死ぬのは怖い。
やりたいことが山ほどではないにしろ多少はあったんだ、僕にも。
手の届かないものがたくさんあるんだ。
死にたくない。
夢がパラレルワールドなわけないってことだって、知ってるんだ。
でも、3年。
白い人が言っていた3年後、僕は死ぬ。
そうしたら、僕は勇者の器として目が覚めるのかも、しれない。
そう思い込むんだ、そしたらきっと、死へのカウントダウンも多少は楽になるかもしれない。
そんなふうに現実逃避をしながら、僕は主治医の専門用語が盛りだくさんの説明をいつものようにわかったようなふりをして聞き流していた。




