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ハーレムサイド エピソード0 クルス 1

サイドストーリーです。

 清潔な壁と、清潔なベッド、ほぼ何も入っていない木目調の棚がひとつと、パイプ椅子がふたつ。備え付けの冷蔵庫と大型の薄い壁掛けテレビ、室内から直に行ける個室トイレとシャワー室。ベッドをまたぐように置いてあるテーブルには、パソコンとそれにつながったVRのゲーム機。

 たぶんこの病院にある特別室の中でも大きめだろう窓には、太陽の光を完全に拒否するような分厚い遮光カーテンがかかっている。


 それが、僕の世界のすべて。


 毎日部屋を掃除してくれる人、毎日食事を持ってきてくれる人、カウンセラー、看護師、主治医とその周りにわらわらいるいろいろ。


 それが、僕の社会のすべてだ。

 この小さな部屋と相応に小さな社会の中で、僕は生かされていた。


 生きるのが辛いわけではない。

 治療は辛いけど、死にたくなるほどじゃない。


 たしかに、外には出てみたい。

 お日様の光の下、走ってみたい。おしゃれしてみたい。

 話題のスイーツとかを食べるために、行列に並んでみたい。

 ……そんなことしたら10分ももたずに倒れるだろうけど。


 でも、できないことは、できない。

 昔は割り切れないこともあったけど、今はそう割り切れてる。


 行けない場所なら動画で探せばいい。

 VRっていう便利なものがあるし、それで多少行った気になれればいい。


 作られたその場で食べないといけないものはどうしようもないけど、お取り寄せができるものは取り寄せれば食べられる。

 外に出る以外ならば、この部屋で大抵のことは事足りている。


 パソコンであらかた見たいものを見て遊んだ僕は、今日も寝る前に空想して楽しむ。


 空想しながら寝ると、起きたあとにそれが夢だったのか空想だったのかよくわからなくなってしまうけど、僕はそれが好きだった。

 昨日も起き抜けによくわからないことを言ってしまったようで、看護師さんの頭の上には疑問符が浮かんでいた。


 空想の中の僕は、果てしなく元気だ。

 太陽の下だろうが、雨の中だろうが、走り回っている。

 夢の中では空を飛ぶこともある。



 僕は、夢の中はパラレルワールドだと考えている。



 怖い夢を見ると、「ああ、今日見た夢の世界の僕は、なんか大変そうだったなあ。」と、僕は夢の中に存在するもうひとりの僕を心配する。

 楽しそうな夢を見ると、「いいなあ、僕はそっちの世界の僕に生まれたかったよ。」と羨ましく思うこともある。


 この世界の僕は、部屋から出られずにずっと空想してばっかりだ。

 他の世界の僕がこの僕の夢を見たら、「なんてつまらない世界の僕なんだ!」とか言うのかな、言うだろうなあ、僕なら。


 僕の人間関係は狭いけど、パラレルワールドに住んでいる僕の中には、すっごく顔の広い僕もいるんだろうか?

 僕は恋愛なんてしたことないけど、モテモテの僕もいるのかな。モテモテの僕なんて想像つかないけど。

 そういえば夢でもモテモテの僕は見たことないな……そうか、どの世界でも僕はもてないのか。


 ……いや、逆(?)に考えれば、この世界の、この僕が、本来はモテモテの僕だったんじゃないのか?

 今、この病気が治ったら、もしや僕はモッテモテになるのでは?

 いや、でも、モッテモテになってハーレム王国を築くとして、今のこの衰えに衰えた体力じゃあだめだよな。モッテモテハーレム王国を作るためには、体力が必要だ。

 体力か……モッテモテで体力がある、そうか、なるほど、つまり僕に足らないのは……





「何を望む?」










「絶倫!」







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