すずめ亭とすずめの独り言
ねたばらし。
「――そう、転生者である、君にしか、ね。」
あの日、そう勇者は言った。
私の目の奥の心を見透かしたようにまっすぐと見つめて。
「実はね、僕も転生者なんだ。」
それは、衝撃的な告白だった。
「実はね、魔王に一目惚れしてしまって……。」
それも、衝撃的な告白だった。
「魔王も、僕に一目惚れしてしまったらしいんだ。」
それは、自意識過剰ではありませんかね?
「だから、君の力で、魔王の形をした召喚獣を創ってはもらえないだろうか。」
それは、
「その召喚獣を倒して、魔王を倒した事にしたいんだ。」
それはお前、まさかとは思うけど、私にハーレムを広げる手伝いをしろって言ってる???
――勇者は私と同じ、転生者だった。
ただし私と違ったのは、勇者はこの世界の人々に請われてこの世界に転生したということ。
そのおかげで、私にはひとつしかなかった神の祝福が、たくさんもらえたそうだ。
というか、私がイレギュラーであり、本来なら転生者は100年にひとりしか生まれないということだった。
え?何、私も勇者枠だったの?
まあ、そんなことはさておき。
勇者は、前世で大型犬を飼っていたらしい。
だから初めて私の召喚獣を見た時に、目を見開くほど驚いたのだ。
他にも見たことのある懐かしい動物たちを見て、すぐに私が転生者だと気づいたそうな。
それにしても、魔王の形をした召喚獣、か。
なんというか、うん、斬新だけど、なかいいアイディアだと思う。
確かにこれは、自由に召喚獣の外見を変えることができて、なおかつAIモドキで自律させることもできる私にしかできない仕事だ。
勇者は、私が神に貰った祝福で創造召喚をものにしたと思っていたようだった。だからこそ、転生者である私をすんなり頼ることができたらしい。本当は違うのだけれど、説明するとややこしくなるからそういうことにしといた。
そうして、勇者の話を聞いてしまった私は、その仕事をしょうがなく受けることにしたのだった。
問題は、私が召喚する【魔王;レアラルート・ヴィランティ・ヴァスティーチ】を、どれだけ本物っぽく仕上げるか、である。
勇者に勝ったということで、魔王は魔王城からの外出が許されている。
私は、その間に魔王を完コピしなくてはならなかった。
一番大変だったのは、魔王の外見や言葉遣いではなく、魔王の魔法をAIに組み込む作業。
魔王の魔法は複雑で魔力消費も半端ない。勇者パーティーを次々に襲う範囲魔法に、一騎打ちをする時の勇者の一撃に耐える魔法の盾やらブレスやら、それらを魔王に実物を見せてもらいながら、ひとつひとつ組み込んだ。
まあ、ゼロから創り上げるわけではなく、本人が常に隣にいて、なおかつ大量の魔素を提供し続けていてくれたので、【魔王;レアラルート・ヴィランティ・ヴァ……?】の召喚は、テストやら何やらも含めて比較的スムーズだったとは思うけど。
その後は簡単だった。
【魔王;レアラルート・ヴィランティ・ナントカ】は城で待機させておいて、そこに勇者一行が現れる。それからAIに従い、勇者との簡単な問答をして戦いを始める。
最終的に、勇者との一騎打ちは確定事項としてAIに組み込んでいたのだが、勇者の言葉に召喚魔王が「私はずっと一人だが?」と返したところは、笑いを堪えることに必死だった。
あと、考えていたよりも一騎打ちの戦闘が激しすぎて、一応、戦いを見守っているハーレム構成員と私には魔法が飛んでこないようには設定しているものの、いつうっかり直撃して大惨事になるんじゃないかとヒヤヒヤしていたのはここだけの秘密だ。
そんなこんなで無事に【魔王;レアラルート・ナントカ・カントカ】は勇者に倒され、魔王城も半分くらい消し飛んだ。
勇者の、あの威力を気にせず好きなようにブッパした極魔法が魔王城が消し飛ぶくらいの威力だったので、魔王の死体が無くても許されたのだ。
そうして、勇者たちは堂々と凱旋し、帝王に報告した。
帝王は珍しく感情を露わにし、勇者に抱きついて健闘を讃えたらしい。
そして、トリスタニア様との婚姻を許可されたのだそうだ。
ここでも私はハーレム構成員を増やす手伝いをしたことになる。なんか悔しい。
ちなみに私と勇者パーティーが魔王の城へ行っている間、本物の魔王はどうしていたかというと……私の曾祖父さんと一緒に、【すずめ亭】でまったりしていた。
この世界の中で、一番そこが安全だったのだ。
勇者とカーロラーナさんが協力して施したありえないくらい強力な結界を破ってまで、【すずめ亭】に泥棒に入ろうとする輩はいなかった。
まあ、泥棒に入ったとしても、そこで待っているのはまさかの魔王と伝説の召喚士なんだけどね。
ちなみに金目のものは全くないし顧客名簿や予約票は頭の中なので、完全に泥棒に入り損である。
そもそも結界を破れる人なんて、魔王くらいしかいないんだろうけど。ああいや、魔王は人じゃないか。
そんな感じで世界には平和が訪れ、魔王はぼっちでなくなり、勇者はハーレムを完成させた。
勇者が言うに、魔族という共通の敵の衰退により、これから100年は人と人とが戦争をする時代になるという。
とはいえまあ、帝国には神に祝福されたチート勇者と、その勇者と同じくらい強い謎の魔族(笑)がいるし、帝国はこれからも長い間平和を享受することができるだろう。
私はその帝都の片隅で、今まで通り、獣カフェをしながら猫や犬や鳥を愛でるだけだ。
世界も、客層も変わっていくだろうが、私のこのスタンスは変わらない。
偉い人も、敵国の人も、普通の人も、勇者も、魔王も、【すずめ亭】の中では、みーんな小動物を愛でるただの客。
私はこれからも、召喚獣を愛でながら、客を眺めながら、時には世間話もしながら、あと、猫に引っかかれながら、この店を続けていく。
それが、この異世界での、私の新しい人生なのだ。
イイハナシダッタナー???
【異世界お店もの】を書きたい。
【ハーレム勇者もの】を書きたい。
あと、難しいことは全部なしにして、気軽に書きたい。
そんな欲望が渦巻いた結果、すごく短く纏まってこんな感じになりました。
異世界でお店ものを書いている方はすごいと思いました。
ハーレム勇者ものを書いている人もすごいと思いました。
語彙力がアレなのでアレなんですけど、書いてみて分かる色々な凄さというかほらあれあれ……ちょっとはついてこいよ語彙力!!!
というわけで、短い間でしたが、ここまでお付き合いありがとうございました。
毎日伸びるPVやお気に入り、すごく嬉しかったです。
本当に、読んでくださってありがとうございました。
入蔵蔵人
後日談として、すずめの幼少期の話や、勇者クルスに焦点をあてたものを、4月から更新を再開する予定の長編の合間に書ければ、と思っています。
(プロットは、ふんわぁりあります。)
ただ、遅筆なので、載せるのはいつになるかは分かりません。永遠に来ないわけでは、ないと思います。けして、けして、、、たぶん!!




