すずめ亭を離れて
勇者のハーレムに混ざってみた。
「すごーいなにこのもふもふ!もふもふ!やっばーい!」
ドーンと横たわって寝ている【猫科;ライオン♂】のたてがみに、ごわごわもふもふと頬ずりしているのは魔術師のラーニアさんだ。
黒い大きなとんがり帽子と、長い黒髪を纏めて結んでいる赤いリボンがキュートである。
「こういう使い魔欲しーい!」
たてがみに顔を埋め、猫とはまた違った肉食獣のたくましい肉球を堪能しながら、ラーニアさんはご満悦そうだ。
その【猫科;ライオン♂】のお腹の辺りで寝こけているのは、褐色の肌に銀髪が眩しい、拳闘士のハーティアさん。えらく薄着というかなんというか……こんな最低限の装備で魔獣と殴り合うっていうんだから、やっぱりこの世界の人はすごいなって、遠い目になっちゃうくらいすごい。
「フィーフィーって、実はすごい召喚士だったんだな。」
そう褒めてくださるのは、なんと、帝国の王子……ではなく、姫のトリスタニア様だ。以前、店に来たこともあったのだが、まさか帝国のお姫様が男装しているとは思わなかった。
詳しくは聞いていないが、まあ、勇者ハーレムのヒロインのバリエーションのひとつとして考えれば、なんかストンと理解できたのでよしとしている。
「すごくはないですよ。私の召喚獣は、戦えませんので。」
「ふふふ、そうはいってもだ。感謝しているよ、クルスについてきてくれたことに。」
「まあ、なんというか、はは……。」
苦笑いすると、トリスタニア様も苦笑いを浮かべた。
今回の作戦(?)は、もちろんこの、勇者のヒロインズも知っている。
だからこそ、色々な思いを分かち合えたし、こうやって気を緩ませて大型の召喚獣も見せることができていた。
「ふおお、これは格好良いのじゃー!これぞまさしく神の御使い様じゃあ!……わし、死んでもいいかもしれないのじゃよお……!」
ココココ、とさえずる(?)【鳥:ニワトリ♂】を抱いて感極まっているのは、えらく幼女幼女した姿の幼女、アニスちゃんだ。ふんわりと内巻きのボブカットがすごく似合っている。それもそのはずで、アニスちゃんは見た目が5才なのである!!中身は80才という、リアル・ロリバ……げふんげふん、だ。
この世界で珍しいという赤い髪は、神に祝福された印であり、アニスちゃんは5才の時に神に祝福されてから年を取らなくなってしまったらしい。とはいえ、祝福される年齢は様々だが前例はたくさんあるらしく、そのうち普通に年をとるようになるという。なんとも不思議なことである。
「この赤いブヨブヨ……わしの赤い髪と一緒じゃあ!ああ、この逞しいくちばしと爪!そして力強く清らかなこの純白の翼を見よ!!」
感極まりすぎて、涙目になっている。……うん、なんかニワトリとか召喚してごめん。
アニスちゃんからそっと目をそらすと、そこではカーロラーナさんが夕飯の支度をしていた。
カーロラーナさんは、勇者が一番最後に店に連れてきたあのグラマラスな美女だった。全身鎧を着て大きな盾まで装備しているとは思わなかったが、女性用の鎧なのか、出るところは出ていて、めっちゃ格好いいし美しいし、強そうだ。
とは言え今は鎧をエプロンにかえて料理を作っているのだけれど。
「あら、どうしたの?フィーフィーちゃん。ご飯はもうちょっと待ってちょうだいね。」
「あ、いや、すみません、気を使わせてしまって……。」
「いいのよ、いつもこんな感じでワイワイしてるのだから。」
優しい。すごく優しい!しかも、カーロラーナさんのご飯はめちゃくちゃ美味しい。
野営する時は、いつもカーロラーナさんがご飯を作るらしい。肉は主に拳闘士のハーティアさんが、山菜は魔術師のラーニアさんが、魚はまさかのトリスタニア様とアニスちゃんが獲ってくるそうだ。
勇者様はというと、みんなのおやつを作っているらしい。意味がわからない。
まあ、そんなこんなで旅をすることふた月と少し。
私の召喚獣で、食事と寝る時以外休みなく馬車を引いた結果、私たちはあっという間に魔王城が目視できるところまで進むことができた。
登場人物が多すぎて死にそうです。
ハーレム系ラノベを書いている方々は、素直にすごいと思いました。




