第1話 奴の名は藤堂
先生を振り切ってようやく教室前にたどり着いた。
とはいえ、やはりちと緊張するな。
もう少しで昼休みだし待っていてもいいのだが……………それじゃあインパクトが薄いんだよなぁ……
転校生+遅刻+授業乱入! で新クラスメイトな連中の記憶に俺の姿を焼き付けた方が後々の話のネタにもなるだろうし………
やはり今直ぐ入るべきだな! 思い立ったが吉日とは正にこのこと!
ガラガラガラッ! ピッシャーン!!
「やあ!!」
「なっなんだね君は!?………いや本当に……誰だね?」
ちなみにこの教師の「なんだね」は「なん」で上がって「だね」で下がるタイプの「なんだね」だ。まあどうでもよかったな。
教室に入りジロジロ見回す俺!
当然だが新クラスメイトな連中も俺のことをジロジロ見ている!
これはアレだ。信号で停車中の満員バスの乗客を歩行者がジロジロ観察していたつもりが、逆にバスの大勢の乗客に一斉にジロジロ観察されているのに気付いてしまい視姦されているような錯覚に陥るという状況に酷似しているな!
おっ! 不良っぽいのがいるし見るからにオタクっぽいのもいるなぁ! いいじゃんいいじゃん!!
なんかメンヘラっつーか、あれはヤンデレか? なんか気持ち悪い女がいるなぁ………
おっギャルじゃん! しかも黒ギャル! 年取るとシミが酷いことになるからドン引きするけれど若い黒ギャルっていいよな!俺は好きだぜ!
「あの」
ん? なんか青白いのがいるぞ……大丈夫かあいつ?
「あのっ!」
青白い奴がプルプル震えていやがる。アイツ面白れーな!!
「あ! の!!」
青白い改め顔面蒼白野郎が此方を睨んでいる。そう、睨んでいるというよりも怨敵が如く睨み付けているのだ! ニヤニヤしている俺をな!
…………なるほど………そういうことか………
「あの!! おーい!! 聞こえてますかー!!」
先程から俺に話し掛けてくるのは教室の扉に最も近い席の女子生徒だ。
「聞こえてるぜ、ねーちゃん」
「ねっ! ねーちゃん!?」
「ねーちゃん、一つ聞きたいことがあるんだが…いいかい?」
「え?……ええっ!……なっ何かしら…」
よっし! ちなみに「何かしら」の「かしら」は上づっていたりする。
「あいつの名は何というんだ?」
「あいつ?」
「あいつだ……」
俺はそう言うと顔面蒼白野郎さらに改め『奴』の顔を指差した。
「ああ……彼は、生徒会長の藤堂くんよ……一年生で生徒会長になったなんてすごいわよねぇ」
「ほう……ありがとな、ねーちゃん」
「どういたしまして、それに私はねーちゃんじゃなくて『まこと』っていう名前があるのよ!」
「わかったよ、ねーちゃん」
「話聞いてる!?」
そうか…『奴』の名は『藤堂』と云うのか……
クックックックッ……藤堂とやら! 悪いが俺の印象付けを強力にするためだけに犠牲になってもらうぞ!!
一年生にして既に生徒会長の椅子に座しているとは大したものだ! さぞかし自分を偽って来たのだろうが、それも今日で終わりだぜ!!
恨むのならば、お前にとっての最悪のタイミングが俺にとっては最高のタイミングだという運命を呪ってくれや!
俺は運命論者でもなんでもないがな!!
ニヤニヤしながら藤堂に近づく俺に藤堂は驚きと絶望が入り混じったような表情で俺を見上げていた。
なあ藤堂……今のお前ってさぁ……
ひょっとしなくても下痢だよな!!
安心してくれ藤堂! 今すぐ俺がお前を楽にしてやるよ!! 物理的にな!!(ニッコリ)