第1話 藤堂ぼけなすは二度敗北する
「勝った! 死ねい!!」
(ここまでか……流石は世界チャンピオンぼけなす見事なり!!)
「フルムルどぼぉぁぁ!!!!」
(何ぃ!?)
「な……なん………ぐりぶりーなぁ?」
ガハルザム(ぼけなす)に背後から致命傷を与えたのは血のジョブであるはずの妹クリムリーナであった
「きゃはっ! きゃははははひははひはひぃ!!」
「いったいなにぐふぅっ!」
「きゃはひははひはひははひはひぁぁっあっあはぁ!」
グッチャッグッチャッグッチャッグッチャッ
血族である筈のクリムリーナに滅多刺しにされるガハルザム(ぼけなす)の末路を目の前にしてフルムルト(おしるこ)は勝利を確信していた
(噂は本当だったか……今まで一度も実装された事がなかった『血族殺し』! 血のジョブ間に争いは発生しないという非現実的要素を撤廃する為に……だがやはり確率自体は低いようだな。ぼけなすの驚愕振りからもゲームが開始してから初の血族殺しの発生だろうな……まあいい今が最大のチャンス、これで終わりだ!)
ブオン! ブシューッ!!
フルムルト(おしるこ)は今現在出しうる限りの全力を剣に込めてクリムリーナの首を跳ね飛ばした
「終わった……ははっ! はははははは!!!」
ガハルザム(ぼけなす)側の血族は全て消え去り、後はフルムルト(おしるこ)だけがプレイヤーとして生存していたがそんな事など関係がない人工知能達は止まらない
「死ね! フルムルトォ!!」
「はあ?」
ブッシャーッ!!
「ぐはぁ!」
ドサッ
ぼけなす(ガハルザム)との決闘に勝利し完全に呆けていたフルムルト(おしるこ)は背中を人工知能武将によってガードゼロ状態で袈裟切りにされ前のめりに倒れ込んだ
「だーはっはっ! 敵の大将打ち取ったりぃぃぃ!!」
ザクッ! ブシューッ!
そのまま放って置かれる筈もなく愉快な敵武将に首を跳ね飛ばされたおしるこは視界がブラックアウトしたのだった……そして………
『デュエル勝者は善哉おしるこ! よって善哉おしるこは優等生のままとする!』
担任教師の進行を聞きながら目覚めたのである
デュエルの決着によりダイブルームから出て来た二人に一同は驚愕する。二人とも泣いていたからだ
ぼけなすは泣いていた。転校初日に遅刻する野郎なんかに優等生の座を奪われたどころか絶対の自信を持って仕掛けたデュエルすらも敗北してしまい言葉が出ないのだ
そして敗北してしまった以上おしるこの事を優等生として認めざるを得ないし優等生になれる権利を自らが永久に放棄した為に一生おしるこの駒なのだ。涙が止まらないのは仕方がないだろう
おしるこも泣いていた。デュエルの血族殺しが発生する直前におしるこは完全敗北を確信してしまったから尚更優等生確定というものの重みを実感していたからだ
思い返してみれば優等生に確定するまで長かった……引っ越し初日の騒音騒ぎに始まり寝坊……遅刻……担任教師まあまあのブス……まこと……公開脱糞の強制……カーストチェンジ宣言……ウンコの後始末……かつ丼……女校長イビリ……エトセトラ
『善哉くん……ついにやったわね……これからはあなたが優等生よ!!』
ウオオオオ!!!
担任教師の優等生宣言により学校中に響き渡る雄叫び
雄叫びを上げているのはクラスメイト達ではない。難攻不落の藤堂要塞を単独での攻略に成功した新たなる優等生善哉おしるこの誕生に学校中が敬意と新たなる強敵に対する称賛とが混じり合った雄叫びを上げていたのだった
そう、つまりは学校中の全員の頭の中から異世界拉致召喚という重大案件が吹き飛んでいたのである
「おう! おしるこ! ついにやりやがったな!」
「……ボッツ」
「これからはあーしらを導いてくれよおしるこ!」
「……黒ギャル」
「まったくお前さんは本当に大した男だよおしるこ!」
「……ベンベン」
「おしるこ……最高……おしるこ……」
「……ヤンデレ」
「おしるこってやっぱ凄げー奴だったんだなーこれから頼むぞおしるこー」
「……???」
「おしるこ! もう私の執事になりなさいな!」
「……悪いな、今はそんな事をしている場合ではない」
「何ですって!? 許さないわ! ……と言いたい所だけれど仕方ないわねおしるこ! 今回だけは勘弁してあげるわ」
「ありがとう」
「おしるこ! おめでとう!」
「ありがとう式」
「おしるこって本当に凄い奴だったのね」
「……まこと」
「これからも宜しく頼むわ」
「ああこちらこそ宜しく」
クラスメイト達と一通り言葉を交わしたおしるこは未だにうつむき動かないぼけなすの下に歩み寄った
「ぼけなす」
「………」
「ぼけなす」
「………おしるこ」
「ん?」
「おめでとうおしるこ! これからは君が優等生だ!」
「おっ? おお!」
おしるこだけではなく学校中の人間が驚いていた
あの藤堂ぼけなすが満面の笑みで他者を上だと認めているのだ
これは藤堂ぼけなすが入学して以来、初の出来事である
『ようやくクラスが一丸となったようね! 善哉くん! あなたは自他共に認められた優等生よ!』
「ああ! それじゃあ皆これから」
「まあ少し待ってくれよ。おしるこ」
「んん? どうしたぼけなす?」
これから新優等生としてクラスメイト達に挨拶を行おうとしたおしるこに声を掛けたのはぼけなすである
「どうしたもこうしたもないだろう?」
「ぼけなす何を言って」
「『雷逞』!!!」
「なっ!」
「てめえを優等生と認めた事と俺の怒りは関係ねえぞおしるこおぉぉ!!!!!」
「ちょっ待っ」
「待てと言われて待つ奴がいるわきゃあねえだろうが!!! 戯れ言は入院してから存分にほざくんだな優等生さんよお!」
「くっくそおおおぉ!!!!!!」
目にも止まらぬ速さでおしるこに殴りかかるぼけなす!
ぼけなすはキレていた。ずっとキレていたのだ
冷静に考えるまでもなく、あれだけコケにされてキレない奴なんかいやしないのだ
おしるこは後悔していた
いくら何でもやり過ぎだったと
そりゃああれだけ好き放題やられて怒らない奴なんていないわな。逆に怒らなかったらそれはそれで変であるからぼけなすは正常なのだ
あ~あ、喧嘩でぼけなすに勝てるワケないし病院直行コースかぁ……とおしるこが悲観していたその時
ぼけなすの拳がおしるこの顔面に接触しようとしていたその瞬間
善哉おしるこが消滅した
「っざけるなあああ!!!!!!! おしるこおおおお!!!!!!!!! 出て来いおしるこおおおお!!!!!!!」
怒りが発散出来なかった事により更に怒りを爆発させるぼけなすを余所にようやく学校中の人間が思い出していたのだ
異世界拉致召喚の危機に晒されているという現状を