第2話 パパラッチンの欲望
「ついに見つけた……これでリンデールたんも僕を……はぁはぁ……」
ここは魔王城。正確には魔王城にある魔導工学研究の為に設けられた研究室である。
その研究室内にて先程から「はぁはぁ」興奮しながら古文書を解読しているのは魔導工学研究部門筆頭パパラッチン。
「伝説の暗黒騎士召喚……はぁはぁ……これが成功すれば……はぁはぁ……」
だが、パパラッチンが古文書を解読している理由は魔導工学とは全く関係がない。パパラッチンは筆頭であるにも関わらず、伝説上の存在である暗黒騎士を召喚する方法を模索していたのである。
つい最近研究が開始された魔導工学。当然これといった成果など出せる筈もなく、全ての部門の中で最も地位が低い。
そんな、別名『ゴミ箱』と称される魔導工学研究室内にて「はぁはぁ……はぁはぁ……」と興奮していたパパラッチンはついに起死回生の一打となる暗黒騎士の召喚方法を発見したのだった。
「はぁはぁ……ついにやったぞ……はぁはぁ……今から会員を集めれば……はぁはぁ……リンデールたんが……はぁはぁ……城に戻る前に……はぁはぁ……僕の暗黒騎士を召喚出来るぞ……」
パパラッチンにはもう一つの顔がある。それは『リンデールたんハァハァ協会会長』という顔。
会員とはリンデールたんハァハァ協会に所属する会員の事であり、その数は現時点で三百を超える大所帯となっているのだ。
協会の設立目的は「リンデールたんでハァハァしたい同士の集まり」であるが実際はリンデールに猥褻な行為や淫らな行為をしたい連中の巣窟といった危険極まりない集団である。
何故にこのような危険な集団をリンデールが野放しにしているかと言えば、実力が開いており敵ではない事よりも人材の喪失を良く思わないからであった。
当時、リンデールの判断に側近二人は猛反対したのだがリンデールは頑なに聞き入れなかった。だが、六傑や龍神竜連合軍など物騒な連中が増えた今となってみればリンデールの判断は正しかったのかもしれない。
◇◆◇◆◇
「はぁはぁ……」「はぁはぁ……」「はぁはぁ……」「はぁはぁ……」「はぁはぁ……」「はぁはぁ……」「はぁはぁ……」「はぁはぁ……」「はぁはぁ……」
あれから、会員を九割程召集したパパラッチンは会員達と一緒に魔王城の裏に位置する広場にて古文書に指定された魔法陣の製作に取りかかっていた。
また、伝説の暗黒騎士召喚に必要な道具などを揃えるように指示を出したりとせわしなく動く事数時間、後から来たものも含め会員が全員集まった事により召喚に必要な“者”がついに揃ったのである。
古文書を解読出来るのはパパラッチンだけという事はつまり、暗黒騎士召喚に必要なのは大量の生贄だと知っているのもパパラッチン一人だけという事である。
また、運のいい事に「大規模な魔導工学の実験」と嘘の喧伝を行った事によりパパラッチンを見下す為に集まった野次馬すらも生贄に加算出来るのだ。
「はぁはぁ……星の創世より古、暗黒の根源に君臨せし偉大なる終焉の騎士よ! 我が呼び掛けに答えたまえ! かぁーーーーーーー!!!!!!!! たぁーーーーーーーー!!!!!!!!」
・・・・・・
「きぇーーーーーーーーー!!!!!!! つぁーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
・・・・・・
「くぁーーーーーーーーーーー!!!!!!! きょええーーーーーーーーー!!!!!!!! 『ガンッ!』 ぎゃっ!! だ、誰だ! 石を投げたのは!!」
「このゴキブリ野郎! ふざけてんじゃねーぞゴラァ!!!」
「ゴキブリてめぇ! これのどこが魔導工学だ馬鹿野郎! ただの召喚術じゃねーか! ゴキブリの分際で俺達を騙しやがったな!!!」
「おい皆! やっちまおうぜ!!!」
『オオオオオ!!!!!!!!』
「ひぃぃぃぃぃ!!!!!!!!! た、退却!」
『ずりぃぞ会長ぉぉぉ!!!!!!』
暗黒騎士召喚失敗! 何時まで経っても何も起こらなかった事に加え、騙されていた事に気付いた野次馬による暴力を会員を犠牲にする事で切り抜けたパパラッチンは全速力で広場を離脱した。
◇◆◇◆◇
「はぁはぁ……どういう事だっ!!!!」
再び研究室に舞い戻ったパパラッチンは頭を抱え込む。
「はぁはぁ……糞っ! 書いてある通りにやったのに……はぁはぁ……うん?」
ふと窓から外を見たパパラッチンは眉を顰めた。さっきまで晴れていた筈の空が見たことのない雲で覆われているではないか。
「はぁはぁ……こ、これは! 古文書にあったぞ! はぁはぁ……やはり成功していたんだ! はぁはぁ……」
暗黒騎士召喚の成功を確信し、先程とは打って変わって満面の笑みを浮かべるパパラッチン。だがしかし
ドッゴォォォン!!!!!!
「ここに居たのかゴキブリ」
「ひぃぃぃぃぃ!」
その後、野次馬に見つかってしまったパパラッチンは会員と共に牢獄に幽閉され、結果として広場からは誰も居なくなり魔法陣も消されてしまう。
だが今なお、魔王城の上空は怪しげな雲で覆われていた。