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恋にっき  作者: きひめ
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ご一緒に……

君は死にたがり屋だ。


君は歌を歌ってとねだるのと同じくらい死にたいと俺に漏らす。

君の立場や今の境遇を全部知ってしまったから、俺は死なないでと言えない。

それが君をもっと苦しめる事になると知っているから、言えない。


だからいつも君と俺との距離が厄介で憎らしくなる。

側に居れば、すぐに会いに行けるのに。

頭を撫でて、大丈夫だと言ってあげるのに。

そうして普段君が知らない間に我慢してしまう涙を、流させてあげられるのに。


でも、俺にはまだ何もなくて、君を迎えに行くことも、攫うことも出来ない。


そんな時、俺と君との色々な距離が本当に疎ましい。



そんな風な君が、俺の大事な仕事があるのを知って、二週間連絡しないと言い始めたのは、嬉しい反面、怖かった。

昨日、それを言われた時より、一日経った今日の方が怖くなった。


この前久しぶりに会った君は昼間から入ったホテルのベッドで、明日死のうと思うと、泣いた。

どんなに俺が君に気持ちを伝えても、あたしは貴方を信じられないのだと、泣いた。


それはまるで俺の心の中のようだって、思ったんだ。


君が精一杯、俺を愛してくれているのも、大事にしてくれているのも、全部、知ってる。

だけど、俺からの同じ気持ちは、伝わり切ることが無いんじゃないかって、心のどこかで思っていた。


どんなに愛してると告げても、眠いのを我慢して電話をしても、それが俺が望んでしていることだったとしても、君が死にたいと思わなくなってくれないんじゃないかって、怖かった。


だから、君が二週間も連絡をしないなんて、俺は嫌だと思ってしまった。

俺の仕事に遠慮したせいで、君が誰にも本音を言えずに、死を選ぶのはたまらなかった。



だから、おやすみだけでも、電話しようって俺が言うと君は死にたいなんて微塵も見せずに言うんだ。


大丈夫だよ。


と、言うんだ。


薬も飲むし、ご飯も食べるし、手首を切らないし、ちゃんと寝るし、メッセの既読もつけるし、おはようってきたら返すし、おやすみってきたら返す。


でも、声はだめだよ。


君はそれすらも明るく言う。


だって寂しくなっちゃうから。


それすらも笑いながら、言う。


俺は、そうだね、としか返せない。

君はなおもまるで楽しい話をするように言うんだ。


だって、もし、君があたしのことを心配して仕事がうまく行かなかったら、あたしは自分のことを責めるよ。

君がどんなにあたしは悪くないって言っても、ずっと、責める。

そうしたら……、一緒に居られなくなっちゃう。

でも、今まで生きてるか確認したくて電話してたの?


それって、生存確認じゃない。


ふふって笑う君の声は新しいおもちゃを見つけたようだった。

クスクス笑いながら君は、そうかそうか、なんて言っている。

それから、


いらっしゃいませ。

朝の電話と夜の電話はいかがですか?


突然始まるコントめいたそれに、俺は、そんなつもりじゃないよと言う機会を逃したままのるしかなかった。


あー、じゃあ、それで。


君は嬉しそうに笑いながら店員になりきっている。


ご一緒に生存確認はいかがですか?



俺は君のそういうところがすごく好きだ。

思わず吹き出しながら、しばらくお店屋さんごっこを続け、最後に君は言うんだ。

そのままの調子で、二週間連絡をしないことなんて、何でもないのだと、俺に上手く嘘をつくために。


ではお会計を。

愛してるよ、大好きだよ、信じてるよ、仕事がんばるよ、になります。



愛してるよ

大好きだよ

信じてるよ

仕事がんばるよ

でも、生存確認なんかじゃ、ない



君はそれを聴いて満足そうにふぅっと息を吐いてまた口を開く。


ねぇ、誰のためにがんばるか、わかる?



俺は君を愛してる。

自分でも驚くほど、愛してる。

そして君も同じなんだといつも言ってくれる。

今回の仕事は俺のこの先の人生に関わってくるって、君はちゃんと理解してくれている。

前に同じ仕事をしたときに、その時の彼女に、わがままを言われて、俺が嫌な思いをしたことも、ちゃんと分かってくれている。


君は死にたい、死にたいと言いながら、ちゃんと未来を考えるようになっているのを、俺は知っている。



二人のため。



俺の答えに君はまた嬉しそうに笑いながら、じゃあ大丈夫だよ、と呟いた。



あの日。

君が死にたいとベッドでぼろぼろ泣いた日。

俺は君に死なないでとねだられて、言った。


君と結婚したいから、

君と子供を作りたいから、

君とごはんが食べたいから、

君とずっと一緒に居たいから、

君とまだしたいことがたくさんあるから、


だから、


死なないで。



君はそれに死なないと答えてくれなくて、ただ、分かったとだけ言っていたけれど、本当だったんだね。


あの時の返事をちゃんと聴かせてくれて、ありがとう。

だから、君がどうして居るのか、大丈夫なのか、そんな心配は片隅に追いやってみようと思う。


その代わり俺は出来るだけ毎日、君の生存確認だけはするよ。


それは君だけの生存確認じゃなく、俺のでもあるのだから。

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