君とあたしの距離
にー。
小さく猫みたいに呟いてみる。
電車の中、隣のおじさんに気付かれないくらい小さな声で。
耳にはめたイヤフォンからはずっと同じ曲。
かわいい若いアイドルのかわいい曲が、もう、永遠ずーっとエンドレスで掛かってる。
君はまだ仕事中で、あたしは家に帰りたくなくて、小さなコーヒーショップの喫煙席で、君からの言葉を待っているの。
仕事を始めた君はとても忙しくて、あたしはうれしいけど、寂しくて。
それまでの僅か二ヶ月半の、75日で、あたしの心はがらっと様変わりしてしまって。
君が心の中にどんどん、どんどん、広がって、広がって。
それは君の努力の結果でしかないけれど。
あたしが働いている間、君がまだ働いていなかった間、こんな風に君を待たせていたんだね。
スマートフォンの画面を見つめる視線の先。
大きく表示されている時計は、いつもなら君から連絡がある時刻を示しているよ。
まだ、終わらないのかな。
もう、終わったのかな。
君からのたった一言、短いメッセージをただ待ち続けるのは、ちっとも苦痛なんかじゃないんだよ。
けれど、ただ、すごくすごく怖いんだ。
君はあたしより年が若いから。
君にあたしは甘えてばかりだから。
いつか君があたしより他の人を好きになる日が来てしまうんじゃないかって、思うんだ。
その日が来る覚悟をしているんだと、君に話したのを覚えているかな。
本当にあたしは覚悟をしているんだ。
でもね。
とてもとても怖くて堪らないんだ。
側に居られないことが悔しくて堪らないんだ。
距離が憎くて憎くて堪らないんだ。
だからお願い。
仕事が終わったらいつも一番にあたしに、どうか、連絡してください。