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もし。
もし、私が死んだらどうする?と、笑顔で僕の前に座る女性は尋ねる。死にたいとは思えないほどの笑顔で。
二人の距離は50センチ程度。遠くない。けれどすぐに触れられるほど近くもない。
「どうって……。何も」
少し考えてから告げれば、ふふっと笑って女性はグラスが汗をかき、氷が溶けかけたカフェオレのストローを咥える。ストローを支える左腕の手首には、薄っすらと残る傷跡。女性が自分で付けたそれの理由も意味も知ってる。
だからこそ怖い。
死んだら、じゃなくて、死にたい、から。
「どうしたの?」
カフェオレを吸う口が止まり、女性は上目遣いに僕を見る。笑みを含んだ瞳と口元で。けれどその仮面の下が濡れているのを僕は知ってる。
「場所、変える?」
煩くもなく静かでもないありふれた喫茶店。女性は困った顔をして、それから頷いた。
仮面を取るのはいつだって僕の仕事。その下の涙も苦しみも言葉も、全部、受け止められるから。
だから、
もし、私が死んだらどうする?
なんて、言わないで。
僕が一緒に生きて行くから。
幕間弁当と迷ったけど、たぶん、こっち。
こんな風に思ってくれてるといいなぁ、と。