ね、
ね、笑って?
ね、話して?
ね、触って?
ね、感じて?
あたしが『君』に求める事は、誰にでも出来る簡単な事なんだ。
生まれたばかりの赤ちゃんでも出来るような、ハイハイする幼子でも出来るような、黄色の帽子の幼稚園児でも、ランドセルをカタカタ鳴らす小学生でも、出来るような簡単な事。
でも、人間は人として生まれたのに、反抗期を迎えるくらいから、出来なくなるんだ。
親に死ねって叫んだ子も、叫ばなかった子も。
みんな、簡単に出来ることが、難しくなるんだ。
だから、あたしは、周囲がそうなるのに耐えられなくて、怖くて、『人』である事を捨てた。
『人形』で居た十年以上の年月は、楽だったけど、寂しかった。
分厚く纏った殻の中のあたしは、いつも、子供のままの姿で、唇を噛み締めて、想ってた。
誰か、気づいて。
誰か、助けて。
誰か、見て。
何人もの男の人と付き合ったのに、『君』だけが、あたしの纏った殻を破ってくれた。
その中に居た、子供のままのあたしを、見つけて認めて、褒めてくれた。
頑張ったんだねって。
偉かったねって。
それなのに、『君』は、段々、変わってしまった。
『君』があたしを人形から人に戻してくれたのに。
涙を思い出させてくれたのに。
このままだと、あたしはまた『人形』に、戻る。
寂しいと呟きながら、感情を殺したまま、笑う。
だから、最後にもう一度だけ、『君』を信じてみるよ。
ね、感じて?
ね、触って?
ね、話して?
ね、笑って?
ね、抱きしめて?
ね、あたしを、見て?
一瞬も目を逸らさずに、雛鳥のように、あたしを見てて?
高級なカバンも、アクセサリーも、ディナーも、何も要らないの。
ただ、『人形』を止めたあたしを見てて。
人になった『あたし』を、抱きしめて。
たくさん笑いかけて、キスをして。
『君』だけは、貴方だけは、あたしを……。
これってさ……、竹野が書くあのキャラに似てない?って思ったアナタは、正しいです。
竹野が書いているあのキャラも、その恋人も、竹野の良いところと悪いところなんだと、思います。
だからね、あのキャラ達は必ず幸せになりますよ。ネタバレだけど、幸せになります。