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第一話 運命の日の前日

 チュンチュン

 チュンチュン


「ふぁぁ。

 あぁ、よく寝た」


 とある小国の辺境にある小さな村のこれまた小さな家の中で一人の男が布団から這い出てくる。

 彼の名はリヒト。

 今年で成人である十八歳の青年だ。

 リヒトは布団から出ると、大きく伸びをし、窓辺へと向かう。


「う~ん、朝日が気持ちいな~。

 おはよう、メイにプル」


 窓から外を眺めつつ、窓枠にとまっていた二羽の鳥にそう話しかける。

 因みにこれを名づけたのは彼の育ての親だ。

 茶色を貴重とした体毛に赤と黄色のアクセントが入っていることからこの名前にしたそうだ。

 ちなみに、メイが雌、プルが雄である。

 この二羽はいつも朝、彼を起こしにこの家へとやってくるのである。

 もっとも、彼の家についている窓の向きは南側。

 朝日など入ってくる角度ではないのだが、彼はそんなことを全く気にせずに太陽の光を浴びながら目を覚ましていく。


「おや、リヒト、おはようさん。

 今起きたところなのかい?」


 畑の作物を収穫してきた帰りなのであろうか、荷車を引いたおじさんがリヒトに話しかけてくる。


「あ、レオンスさん。

 うん、少し寝坊しちゃったかな~」

「ははは、何を言っているんだい。

 いつも大体このぐらいの時間だろうに」

「いやいや、いつもはもう少し早く起きてるって」

「そんなの誤差の範疇だろ?

 まぁ、レイさんも同じぐらいにいつも起きていたし、それが移ったんだろうな。

 おう、そうだ。

 これ今日家の畑で取れた野菜だ。

 よかったら食べてくれ」

「おっ、ありがと」

「いいってことよ。

 若いモンはたくさん食べなくちゃいかんしな」


 ハハハと笑いつつ、片手を挙げてこちらに合図をした後去っていくレオンスさん。


「さて、それじゃあ朝食にしますか」


 そういってリヒトは受け取った野菜を手に朝食を作りに向かうのであった。




 彼の住むこの村は人口にして三百人もいない程度の村であり、ブレンターノと呼ばれる小国の一部である。

 ブレンターノの中でも南西側に位置しているこの村はメルカデラートとカルドンヌという二つの大国の国境付近に位置する村であり、ブレンターノがカルドンヌよりであったため、カルドンヌとの中は良好であったが、カルドンヌと対立しているメルカデラートとの仲は悪いというような状態であった。


 とはいえ、メルカデラートは西側よりも首都のある東側のほうを重点的に攻めていっているため、実際に攻められるようなことなどは殆どなく、少なくとも、ここ二十年間は特筆して書くようなこともない平和な村であった。


 そんな村で育てられたリヒトはこの村で税金などの計算を主な仕事として暮らしてきていた。

 彼の育ての親であるレイも同じような仕事を請け負っており、自らリヒトに計算方法や文字などを教え込み、十五歳にして、計算や文字の読み書きなどを完璧こなせるまでにしたてあげたのである。

 彼が十二歳の年にレイはなくなってしまったものの、それでも彼の教えた知識などはリヒトが受け継ぎ、彼の仕事を引き継いでいたのだ。


 そんなリヒトは他の人とは少し違う点があった。

 それは彼を見た人ならば一瞬で気づくのだが、目の色であった。

 左右の目の色が違うのである。

 具体的に言うのであれば、左目が金色、右目が銀色なのであった。

 基本的にこの世界では左右の目の色が違うということは他の物を殺し、そのものの目の色を片方だけ受け継いできた生まれながらの殺人者として、差別の対象になるのである。


 しかし、彼の育ての親であるレイだけは違った。

 当時捨てられていたリヒトを拾ってきたレイは村の人々が口をそろえてこの子供をこの村で育てることはできないと反対した。

 それに対して彼は、

「自分には子供がいないのだから、この子を自分の後継者にする。

 俺がいなくなればこの村の税金関連なんかについては誰もできないだろう。

 それに、自分の故郷ではこの目の色は金目銀目(きんめぎんめ)とよばれており、むしろ縁起がいいものだ。

 もしどうしてもだめだというのであれば、俺はこの村を出て行く」

 と説得し、この村に受け入れさせたのだ。


 村民も数字なんかを扱えるのは彼一人であり、いなくなってしまえば税金をごまかされても調べようがなくなるなど、様々な問題を引き起こすことは確実であったし、彼はそれまでに村のため、様々なことを行ってきたという点を考慮し、育てることが許されたのであった。


 結果として彼を拾ってからの十数年間、村はずっと平和であったし、彼が問題を起こすこともなかったため、最初は引いていた村民たちも今では気軽に話しかけるような関係になっていた。


 朝食をとり終わった彼は村の見回りを行う。

 レイが考案したという“水田(すいでん)”というほかの場所では見ない育て方で麦とは違う稲と呼ばれる食物を主に作っているこの村では近くの川から水を引っ張ってきてその水を張った畑でもって食物を作っている。

 虫がつきにくく、収穫量も上がるということもあって、最近ではこの村の半分近くが“水田”と呼ばれる畑になっていた。


 そんな畑が連なっているこの周辺一帯では、今も何人かの農民が水田の手入れを行っていた。

 彼らは総じてリヒトに対して朗らかに挨拶をし、リヒトもそれに対してしっかりと答えていた。

 ここ五年間のリヒトの仕事ぶりは彼らを満足させるのに十分な物であったのだ。

 レイが取ってきたデータと自分の取ったデータをあわせるなどして、適切な行動を指示し、村のために様々な貢献をしながらも、決して傲慢な態度をとらず、村民たちにとって気軽に相談をできる彼は村民からかなりの信頼を得ていた。


 村を散歩をかねて軽く回っていた彼は村民からの相談などを受け、いつものように一つ一つ丁寧に対応し、そして自らの家へと戻っていくのであった。




 自宅へと戻っていった彼は果汁を絞ったジュースを飲みながらレイが残した資料を読んでいた。

 レイは農業に関するものだけでなく、様々な物を資料として残しており、それを読むのが彼の午後、家に帰ってからの日課であった。

 もっとも、日課といってもあくまで一日おきに行う程度に過ぎず、それを行わない日などは山で自分の好きな果実の採取などを行うため、一人で山に登って採取を行うなど、他の物とそう変わらない生活を行っていたのではあるが。


 そういうわけで今日は資料を読む人決めていた彼は資料に目を通しながらゆっくりとその日の午後を過ごすのであった。




 夜。

 明かりなど勿論ないこの村では殆どの農民が暗くなると食事を取って眠りについていた。

 そんな中、彼は一人夜空を眺めていた。

 今日は快晴であったため、空には雲ひとつない。

 子供の頃から晴れの日はレイと一緒に夜の空を眺めるのが日課であった彼は今でもこうして晴れの日の夜になると空を眺めていた。

 生まれつき夜目が利く彼は多少の明かりさえあれば、何の問題もなかったため、平然と家の外へと出て、家の近くで横たわり、空を見上げる。

 空気がきれいなためであろうか、空にはたくさんの星を見ることができる。

 月も新月に近いせいか、とても細くはあるものの、わずかなその光で彼を照らしている。

 そのわずかな光に照らされつつ、彼はしばらく夜空を見上げた後で家へと戻っていくのであった。

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