レイコさん
闇が補習教室を支配している。
雷光がきらめき、補習教室のドアがゆっくりと開いていく・・・。
誰かが闇の中、補習教室に入ってきている。
「ああ・・あああ・・あれ!」と悠子の声。
その時、雷鳴が轟き閃光がきらめいた。
・・四人は見た・・・。
髪はざんばらで、顔が潰れているずぶ濡れの女生徒を・・・。
「で!でたあああぁぁぁ~!」
四人は絶叫した。
よたよたとレイコさんが入って来る。
”ピチャ・・ピチャ・・”
「ちょ、ちょ、ちょ・・・無理!・・香織ィィィっ。」
「嫌ぁ、来ないで!絶対無理・・。」
「無理ムリムリムリ無理・・・明彦君っ?」
「うわ・・!あうあう・あう・・!」
闇の中、四人が叫んでる。
また雷光がきらめき、補習教室は一瞬真昼の明るさになった。
髪はざんばらで、潰れた顔が半分隠れている。
・・手は下にダランと垂らした、ずぶ濡れのレイコさんがそこにいた。
レイコさんは閃光の中、”ニヤリ”と笑うと四つん這いになり・・・もの凄い勢いで這って来た。
「うわあぁァァァァァァ・・!」
四人はそれぞれ必死で、補習教室から脱出した。
”イタイ・・カオガ・・イタイ・・タスケテ・・・・(誰か私を)”
相原香織は補習教室を出ると、後ろを振り返らず必死に自転車置き場まで走って来た。
雨は小降りにはなっているが、まだ断続的に降っている。
他の3人の姿はどこにも見えない。
香織は、雷雨の中自転車を走らせた。
レイコさんが憑いて来ていないか、何回も振り返りながら必死で自転車を走らせた。
自宅に着いた時、香織は初めて鞄を忘れたことに気づいたのであった。
河辺明彦が自転車置き場に着いた時には、他の3人の姿はなかった。
明彦は補習教室から我先に逃げ出そうとしていた。
その時、後ろから来た香織に頭を叩かれ、茜に突き飛ばされたのである。
結局、最後に這う様にして補習教室を抜け出し、盲滅法廊下を走りながら、やっと自転車置き場にたどり着いたのであった。
斎藤悠子は、レイコさんが稲光の中 ”ニヤリ”と笑った瞬間に、全身の毛が総毛立つ恐怖を覚えた。
自分でも、何を言っているのか分からない奇声を上げながら、悠子は出口へと急いだ。
途中で、香織に髪を引っ張られながらも、なんとか補習教室から抜け出した。
廊下を脇目もふらず走っていると、前方に立っている人影を発見した。
レイコさんかと思い、悠子の全身を恐怖が走り抜けていく。
しかし、よく見ると廃人のごとく突っ立っている茜であった。
「どうしたの茜ちゃん?!」
悠子は茜の手を取り自転車置き場まで走った。
相原香織が脱兎のごとく自転車で走り去ったのと、二人が着いたのが同時であった。
暫く二人は、肩で大きな息を繰り返していた。
「どうしたの茜ちゃん。」
息を整えた悠子が同じことを聞いた。
「ゆっこは・・・聞こえなかったのか?」
「えっ、何が?!」
「私、忘れ物した・・・。」
そう言うと茜は、悠子にクルッと背を向けて、学校の中へと走って戻って行くのであった。
「茜・・ちゃん!?」
悠子は学校の中へ駆けて行く、茜の後ろ姿をしばらく呆然と眺めていたが”ハッ”と我に返ると、自転車にまたがって雷雨の中に飛び出していった。
それは、反対側から明彦が現れたのとほぼ同時であった。
自転車置き場はガランとしていて数台しか自転車がない、学校にはもう誰も居ないはずである。これらの自転車の持ち主は車で迎えに来てもらったのだろう。
「もう三人は帰ったのだろうな、俺も早く帰ろう。」
ふと手を見ると、汚れたバッグをしっかり握っているのに今気づいたのである。
失恋の痛手を受け、だらしなくバッグを引きずって歩いていたのが、遠い昔のように明彦には感じられていた。
自転車のカゴに薄汚れたバッグを入れる。
その時、身を覚えのある自転車を明彦は見付けた。
「茜の自転車・・・まだ、学校にいるのか?!」
明彦は知らなかったのだが、茜が引き返した辺りを見た。
闇が学校を支配している。
「あかね~~!!」
明彦は双子の妹の名を大声で叫んだ。
”ピチャ・・・ピチャ”
明彦の頭の中をレイコさんの足音が木霊した。
「う、うわ~~!」
明彦は自転車に飛び乗り、雷雨の中脇目もふらず前傾姿勢で自転車を走らせた。
・・・・・闇夜に佇んでいる学校を、雷雨が不気味に映し出していた。
レイコさん 第一部 (完)