双生児
遠くで雷が鳴っている。
茜は寝ていた。
「ったく!こいつは・・・。ちゃんと解いたんだろうな!?」
その姿を見ながら前田が解答用紙を抜き取った。
「ん?なんだこの解答・・・!」
前田の声に、悠子と香織も解答用紙を覗き込んだ。
「・・全部選択肢1番にマルしてあるわ!」
二人はお互いの顔を見合わせた。
「まぁいいさ、今日はこのくらいにしておこう。シャーペン握れただけでも・・進歩だ!」
前田は自分を納得さすように呟いた。
「頑張ったわね・・茜・・。」と、香織も続けた。
「ん・・・!」
手で口元を拭いながら、茜が目を覚ました。
「あ、茜ちゃんおはよう。」
「おはよー!ゆっこ・・。」
「河部、もう帰っていいぞ」
と、補習教室の時計を見ながら前田。
時計の針はすでにに午後六時をまわっている。
「っしゃああああああああぁ!」
茜のガッツポーズ。
”ズルズル・・・ズルズル・・”
「そりゃあ、全部1番に丸してたら50点は取れるでしょ・・。」
香織は皮肉な笑みを口元に浮かべた。
「そういえば・・もう一人いたな、そいつは確か全部二番に丸してたな。ぴったり50点!」
「バカの象徴ね・・おお怖い!」
理知的な香織は、そのようなことをするのが許せないらしい。
「まあ河部も合格できたし、もう暗いから気をつけて帰れよ。」
「はい、ありがとうございます。」と香織。
「お疲れ様でしたぁ~。」
悠子は大げさに両手を振った。
前田は後ろ向きに軽く片手を上げて、補習教室を出て行くのであった。
”ズル・・ズル・・・ズルズル・・”
「何か、聞こえないか?!」 茜は耳をすませた。
他の二人も同様に耳を澄ませる・・・・・・。
雷が鳴っている。
「雷の音しか聞こえないよ!?」と悠子。
香織も頷く。
「そうそう、さっきはゆっこが変な話を始めるから・・・。」 茜はまだ耳を澄ませている。
「変な話し?あ、レイコさん!?」
「あああああぁぁぁァァ!聞こえない。何も聞こえない!!」
茜は大げさに耳を両手で塞ぎ、しゃがみこんだ。
「そういえば茜ってホラー系無理よね」
両手で耳を塞いでいる茜に、香織は笑いかけた。
「へえ~、女の子らしいとこあるんだねっ!」
悠子も笑った。
「ああーー・・早く帰ろうぜ。学校の怪談とかマジ勘弁!!」
茜はスックと立ち上がり自分の荷物を探す。
「そうだねぇ~、本当に出ちゃいそうだしねぇ~・・。」
「やめろって、ゆっこ~!あ、やべぇ、私、荷物一組に置いたままだ。ちょ・・ちょっと、取ってくる!待っとけよ、二人とも!」
茜は二人に命令口調で言うと、急いで荷物を取りに・・・・・・・
”ズルズル!ズルズル!”
・・・補習教室のドアの前に立ちすくんだ。
「どうしたの?」
そんな茜を見て、二人が言った。
「・・誰かが、何かを引きずって来ている。」
茜は金縛りにあったように動かない。
”ピカー”と雷光が走り・・・補習教室のドアがゆっくりと開いていく。
「レ、レ、レイコさんだ!」
三人の声がこだました。
と同時に補習教室のドアが開いて入ってきたのは、蒼い顔をした男子生徒である。
右手に荷物を入れたバッグを持っているのだが、だらしなくそのバックを引きずっている。
「兄貴?!・・びっくりさせるなよ!」
茜の双子の兄、河部明彦であった。
「明彦なの?!レイコさんかと思ったじゃない!」
「あ~びっくりした!」
香織と悠子がほっと胸をなでおろしている。
「はぁ~・・・!」と、明彦が溜息をついて、”ガクン”と首を垂れた。
「ん?どうしたんだ?兄貴。」
「俺は・・・俺は・・フラれたぁ~。」
「はぁ?!」
三人は明彦を見た。
「一年三組城ヶ崎麗香さん。一年間片思いして、さっきやっと告白ったのに・・{ごめんなさい。私、好きな人いるから☆}・・・あああああぁぁぁ・・っ!」
明彦は頭を抱え、大げさにその場に崩れ落ちた。
「兄貴ぃ、鏡見ろよ。」
「この高校の底辺にいるような人と、付き合いたい人っているのかしら?」
「香織ちゃん、それは言いすぎよ!明彦君、自分にあった彼女ができるといいね。」
三人は明彦をなおも攻撃していく。
「しかし、兄貴に告白する勇気があったとは・・・。」
「あの顔でどこから自信湧くのかしら!?」
「マジ、冗談は顔だけにして欲しいよねぇ~。」
明彦はそんな三人を虚ろな目で見ながら。
「・・・みんな俺のこと嫌いなの?!」
「雑誌忘れてた!・・って、なんかまだ増えてるし。」
行きよいよく補習教室のドアが開いて前田が入ってきた。
「早く帰れよ、今日は部活はないし、残っているのは!お前たちだけだぞ」
もう外は真っ暗で、雷がまだ鳴っている。
「は~い!では帰る前に一言。ドラゴン先生聞いてください!明彦君がフ・ラ・れ・ました。」
天然系の悠子が明彦のトドメを刺した。
前田は茜と明彦を見ながら・・。
「全く、河部女子といい男子といい馬鹿ばっかりだな。」
「なんで私も入れんだよ!」
茜が前田を睨んだ。
「まぁ、双子ですからねぇ。遺伝でしょう!」
香織が皮肉を込めて呟いた。
「えっ、お前ら双子なの?!」
前田はまじまじと明彦と茜を見た。
「何、知らなかったのかドラゴン!」と茜。
「明彦くんと茜ちゃんは二卵性双生児だよ」
悠子が付け足した。
前田は空いた口がふさがらないのか、一瞬呆然としていたが。
「どおりで二人共馬鹿だと・・・。」
「バカじゃない!!」
明彦と茜が異口同音に叫んだ。流石に双子のなせる業である。
「つーかさ、双子がみんな似てると思ったら大間違いだぜ。」
明彦が勝ち誇ったように茜に同意を求めた。
「そうそう、私らを見てみろよ。全然違うだろ!」
「確かに見た目は全然違うよね・・身長とか顔つきとか。」
悠子も頷く。
「まぁ二卵性双生児って全然似てないと言うしね。」
と、香織も続く。
前田は口元に皮肉な笑みを浮かべ香織と悠子を見た。
「お前ら、本当にそう思うか?!」
「どう言う意味ですか?」
香織が聞く。
「河部男子!・・現国何点だ?」
前田は、口元に皮肉な笑みを浮かべたまま、明彦に視線を向けた。
「え?50点だけど」
明彦が即答した。
その場の空気が、一瞬固まったことを明彦は感じ。
「え、何?みんなどうしたの?俺にしては良い点だろう!?」
得意がる明彦に・・・香織は恐る恐る口を開いた。
「あきひこ・・もしかしてあなた、全部選択肢二番にマルした?」
前田以外の三人が明彦を凝視している。
「おお、よく分かったな!一番だと何も考えてない奴って見られるからな。おかげで残りの時間は爆睡っさ!」
得意満面の顔で明彦は一気に捲し立てた。
「ぅああああああああああ。」
少しの沈黙の後、茜は耳を塞ぎしゃがみこんだ。
「どうした茜?」
何も分かっていない明彦が声をかけた。
前田はより一層皮肉な笑みを浮かべながら、香織と悠子に近づいて行く。
「な、二卵性双生児でも似ているだろう。」
二人にしか聞こえないような声でそっと呟いた。
「もういい!私、荷物とってくる・・・。」
茜は立ち上がり、補習教室のドアを乱暴に開けて出ていった。
「なんだ。あいつ、なんであんなに悔しがってんだ?」
茜の後ろ姿を目で追いながら明彦が呟いた。
「今は、そっとしてあげて・・」と、香織。
「・・・バカって遺伝するんだ・・・。」悠子が自分に納得さすように呟いた時。
”ザー”という音と共に激しく雨が降ってきた。
香織は頭を抑えてその場にしゃがみこんだ。
「どうしたの?香織ちゃん。」
悠子が心配顔で香織に近づく。
大丈夫よ、ちょっと頭痛がして・・・」
近づいてくる悠子を手で静止て、香織は立ち上がった。
「大丈夫か?」
前田も声をかけた。
「大丈夫です。ただの偏頭痛なんです。中学の頃、頻繁に起きていたんですけど、最近はなかったんですが、雨で気圧が変わったのかな・・・。」
香織は前田に説明をした。
「それより、茜遅いわね。ちょっと見に行ってみる。」
香織は頭を抑えながら、補習教室を出ていこうとした時。
激しく雷が鳴った。
それが合図かのように補習教室の電気が消え、闇があたりを支配した・・・。
”え?な、何?!”
”停電?”
”雷が落ちたのかしら・・”
闇の中、それぞれが口々にしゃべっている。
(ピチャ・・ピチャ・・・ピチャ・・ピチャ・・)
「ちょ、ちょっと・・雨に濡れた、だ、誰かが歩いてきている?」
香織の怯えた声がした。
"イタイ・・カオガ・・・イタイ・・”
地の底から響いてくるような声であった。
「な、な、何?・・ア・あかネちゃん?」
悠子はもう呂律もまわっていない。
「ち・・違う!あかねの声じゃない!!」
明彦も声にも動揺が視える。
「も・も・もしかして・・レ、レイコさん!?」
香織も動揺を隠せない。
「おいおい、冗談だろ。俺が見てくるから、お前らここで待っていろ。」
前田が闇の中落ち着いた声で言った。
「ド、ドラゴン・・止めとけ・・。」
自分の横を通り過ぎようとする、前田の気配を察して明彦が叫んだ。
「俺は教師だ。・・とにかく待ってろ」
そう言い残すと、前田は闇の中補習教室を出ていった。
暗闇の中三人は”ジッ”と息を潜めている。
あの声も、足音も、今は聞こえていない。
ただ、雷鳴と、雨はまだ行きよいよく降っている。
その時。
補習教室が”パッ”と明るくなった。
「あ、明かりが・・・。」
悠子がホッとした声を出した。
ほぼ同時に補習教室のドアが開いて、茜が真っ青な顔で飛び込んできた。
「茜!」ちゃん!」
三人が一斉に叫んだ。
悠子のみ”ちゃん”づけである。
「・・・見た・・!」
「えっ?」と、香織。
「全身ずぶ濡れで、ざんばら髪の後ろ姿・・・。」
茜は半分泣いていた。
その茜の姿を見ながら、悠子は明彦に聞いた。
「そういえば明彦君!新聞部だったよね、ゆっこよりレイコさんの事詳しいんじゃないの?!」
「いや、怪談系は俺の担当じゃねぇし・・あ、でもレイコさんを見たって人が書いた絵は持ってるぞ。」そう言うと、明彦はカバンの中から一枚の画用紙を取り出してみんなに見せた。
髪はザンバラで、顔は潰れているおぞましい絵が描かれていた。
「こ・こわ!」と香織。
「こんなの歩いて来たら、マジ気絶しちゃうかも・・。」
悠子も顔を背けた。
「さっさと帰ろうぜ!」
明彦は絵をカバンに戻しながら、みんなを急かした。
「でも・・・もし、帰ってる時に出会ったら?」
茜はビビっている。
「ドラゴンは?」
茜は前田の居ない事に気がついた。
「電気が消えて、だれかの足音や声が聞こえてきたから、見に行ったのよ」
香織が茜に言った時。
”うわああああああああああぁぁぁ~”
ドラゴンこと前田の悲鳴が聞こえてきた。
「・・・・・・え?」と香織。
「今の、ドラゴンの悲鳴だよな・・もしかしてレイコさんに・・・。」
「やめて・・・!」
明彦の言葉を悠子が遮った。
”ピチャ・・ピチャ・・・ピチャ・・(カオがイタイ・・カオが)・・・ピチャ・・”
四人は金縛りにあったように動けない。
・・・その時また電気が消えた・・・・・・。
双生児
終わり