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残酷な真実

 彼女にとってその日は、なんてことはないただの金曜日だった。

 朝の占いは五位で運勢は星三つ。

 いつも通りに眠そうな幼馴染の肩を叩いて挨拶して一緒に登校し、授業中先生に当てられることもなかった。

 給食は好物のミネストローネでちょっと嬉しかったし、休み時間のバドミントンでも二回しかミスしなかった。

 そう、自分自身の生活を見る限り、どこにも異常はない。

 それなのに。

 それなのに、どうして。

"――――お前なんか嫌いだ!!"

「……ぃきの、ば……か…………うぅん……?」

「――だと、……――――か――?」

 周囲が騒がしい。それに、なんだか体が心から冷えている。

 それに地面が固く、寝心地が悪い。

 ――寝心地?

「んん…………何……?」

 少し頭が痛い。でも風邪気味っぽくはない。寝起きだからか頭が上手く回らず、靄がかったようにぼんやりとしている。

 確か――ついさっきすごく辛いことがあった。それは間違いない。

(えっと、なんだっけ……?)

 ああ、そうだ、と菅野七海が呟くと同時に、急速に意識が回復してゆく。

(大輝に絶交されたんだ……)

 夕陽が真っ赤に彩る公園で、幼馴染の倉田大輝から突然の絶交宣言を受けた。その景色が脳裏に蘇ってくる。

 その記憶に浸りそうになった七海だったが、自分が冷たい地べたに寝転がっていることに気が付く。

「あれ、なんで私こんな……って、え!?」

 七海は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 少し離れた場所に立つ何人もの大人たちの姿を見ると同時に、嫌な記憶の続きを思い出したのだ。

(そうだった……突然すぎてわけわかんなかったけど、私、攫われた……!?)

 立ち上がろうと思い地面に手を突こうとするも、腕が全く動かない。

 そういえば、手首に違和感がある。

 いや、手首だけではない。足首もだ――つまり、自分は縛られて身動きが取れないのだ、とようやく気が付いた。

 それに今いる場所も妙だ。

 部屋は見えている限り、幅五十メートル、奥行も同様に五十メートルはある正方形の部屋のようだった。天井もやけに高く、十メートルはある。

 部屋の中央には、高さ五十センチほど、直径三メートルはありそうな円形の台座らしきものがあるが、寝転がっているため、台座の上がどうなっているかはわからない。

 台座の周囲には簡素なテーブルと、ごちゃごちゃとしたケーブルに繋がれた計器やパソコンがあり、何人もの男女が作業をしているようだった。ざっと見た限り二十人は居る。

 しかし部屋の広さもさることながら、地べたも壁も天井も、全てがエジプトのピラミッドのような石でできているのが一番奇妙だった。まるで遺跡のようだ、と七海は思った。

「ん……?なんだ、起きたのか。お前ら、観測装置から目を離すなよ。さすがにさっきのは故障だろうが、一応警戒だけは続けとけ」

 部下らしき面々に指示を出しながら、七海が目を覚ましたことに気が付いた一人の男が悠然と近づいてくる。

 堂々とした立居振る舞いや他の者たちが敬語を使っていることから、リーダー格らしいことがうかがえる。

「ひっ……!!」

 七海は身をよじって逃れようとするが、手足のロープが食い込むだけだった。

「おいおい、そんなにビビるなよ。ガキ襲うような変態趣味はねえから安心しろ」

 男は七海のすぐ目の前にしゃがみこむ。

「………………」

 七海は目の前の男を睨みながら観察する。

 年齢は三十代前半から半ばくらい。肩にかからない程度の黒髪ウルフカット、ギラギラとした吊り目にすっと通った鼻筋。口元には薄らと笑みが浮かんでいる。ダブルの黒いライダースジャケットを着込み、ベージュのチノパンツにワインレッドのエンジニアブーツ。

 外見上は街を普通に歩いてそうな、今風の男にしか見えない。

 だが自分が彼らによって誘拐された以上、外見そのまま普通であるはずがない――七海はすぐにそう思い、縛られていて何もできないにしても警戒だけは怠らないようにした。

 とにかく、まずは自分がどういう状況に立たされているのか。それを知らなくてはならなかった。

 震えながらも恐怖を奥に隠すべく、強気の表情を心掛けて口を開く。

「……あ、あんたたちの……目的はなんなの?私なんか攫っても、うちは別にお金持ちでもなんでもないんだから」

「ん?……あーあー、なるほどな。そりゃそう思うわな。あれだろ、よくある「逆探知お願いします」ってやつとか思い出してるんだろ?」

 特におどけるでもなければ、かといって不機嫌になるでもなく、男は至って平静だった。言葉自体はどこか七海をからかうようにも聞こえるが、声色や態度にふざけている様子は一切ない。

「じゃあなんなのよ……そうだ、大輝は無事なの!?」

 喋りながら、ふと一緒に居た大輝はどうなったのだろう、と言うことを思い出して青ざめる。自分が誘拐されたのなら、一緒に居た彼がさらわれていても何ら不思議ではない。

 慌てて周囲を見ようと身を起こして探すが、それらしい姿も声もない。

「ま、まさか…………」

 最悪の想像が頭をよぎり、不意に視界が滲みだす。

「大輝ぃ?誰だって……あー、ひょっとしてお前と一緒に居たって言うガキか?男のガキだったら、別に何にもしてねーぞ。お前拉致るのが最優先だったし、用もねーし、あのガキじゃ何にもできねーだろうしなぁ」

「じ、じゃあ無事なの!?絶対!?」

「あいつらが嘘ついてなきゃなんも手出ししてねーってよ。んな無駄なことするほど暇じゃねえよ」

 その言葉を聞いて、なぜだか自分の状況は何一つ好転していないにもかかわらず、まるで助かったかのような安心感に包まれた。

「よかったぁ……」

 自然と言葉が零れる。それを聞いた男は、

「あれか、カレシか。……やだねー、今時のガキは。ムカつくわぁ……」

 言葉とは裏腹に怒っている様子はなく、どちらかと言うとうんざりしているように、あさっての方向に目を向けた。

 しかし男の何気ないその言葉は、着いて間もない七海の心の傷を思い出させるものだった。

「……そんなんじゃ、ない。あんなやつ……」

「はっ、まあなんでもいいわ。ガキの恋愛事情なんて知ったって面白くもねえ。……ああ、そうそう、お前がなんで誘拐されたか、だったよな」

 ふと思い出したかのように話題を戻す。傷心の七海だったが、さすがにその話には食いつかざるを得なかった。

「まず言っておくが、俺は嘘は嫌いだ。で、ついでに言っとくと俺はイカレてるわけでもねえ。だから、今から言うことがどんっ……だけぶっ飛んでても、俺は嘘なんかついてねーし、狂ってるわけでもない。つまり、俺に対してシツレーな感想は抱くなってことだ」

「…………」

 何が言いたいのか七海には理解できないが、逆上されたら厄介なので、とりあえず素直に頷いて応じる。

「よーし。……つってもどこから言やいいんだか……あー、そうだな。お前、魔法って信じてるか?」

「…………はあ?」

「いや、OKだ。その反応で十分よくわかった。やっぱお前、自覚してねーっつーか覚醒してねーんだな」

 男は勝手に話を進める。七海が怪訝そうに睨むが、男が気にする様子はない。

「言っとくが手品のことじゃねえぞ。見てろよ――」

 男が両手を向い合せにする。

 すると突然、バチッという音と共に、まるで綾取りのように電光が走る。

「…………っ!!う」

 嘘、と言いそうになって、先に釘を刺されていたことを思い出し、すんでのところで言葉を呑み込んだ。

 しかし口にはしなかったものの、七海が十年間で培った常識は、眼前の事態を易々と信じることを許しはしない。

「いや、これよりももっとわかりやすい方がいいな」

 言うが早いか、今度は何もない空中に水が溢れだして、無重力空間を漂うようにふわふわと浮かびながら不定形に揺れる。

 さらにその水に変化が起こる。パキパキという音がしたかと思うと、見る間に凍り付いてしまったのだ。

「…………!!」

 七海は目と口を大きく開いて驚愕を露わにし、絶句する。

 トリックと言うにはあまりにも不条理で説明がつかない。仮に種があったとしても、少なくとも七海に見破ることは出来そうになかった。

「どうだ、これで納得したか?つーかまあ、納得してなくても納得しとけ。これはもう、なんつーかそういうもんなんだから、受け入れるしかねえんだよ」

 氷を指でピン、と弾くと、細かな氷の粒になって地面に砕け散る。

 七海はただ、その床の上に転がる氷をぼんやりと見つめていた。

「ま、これが魔術なんだわ。そいで俺も、そこらに居る奴らもぜーんぶ、こんなことができる。魔術師ってやつだ」

「………………」

「んでまあここで重大発表がある。実は、お前も魔術師なんだよ」

「はぁ……!?」

 一体この男は何を言っているんだ?――その当然の疑問を見透かして、男は続ける。

「いや、まあ無理もねえ。だってお前、生まれてから一度として魔術なんて見たことも使ったこともねーよなぁ。あったら普通そんな反応はしねえ」

 うんうん、と一人納得するかのように頷いているが、七海は完全に置いてけぼりだ。

「実はな、魔術師ってのは生まれつき自在に使えるって奴と、そうじゃねえ奴が居るんだよ。で、お前はそうじゃねえ奴だ。……回り道になっちまったが、お前が誘拐された理由はなぁ、自覚なしの体質の所為なんだよ。"音叉"っつって、俺らの目的のためにスゲー重要なんだよ」

「体質って……わ、わけわかんない」

「別にお前がわかろーがわかるまいが、俺には関係ねえ。さっきから勝手にしゃべくってるのは完全な自己満足だ。別に秘密にすることではねえし、知らずに居るのもアレだと思ったから喋ってるだけだ」

「そ、それで……私、ど、どうなっちゃうのよ……」

 得体の知れない話を前にして、声が恐怖で上擦る。

 男は軽薄なのか誠実なのかわからないが、悪人には違いないと思った。

 その悪人が言っていることはよくわからなくても、その目的がろくでもないことだけは、火を見るよりも明らかだった。

 そして嫌な予感は的中し、正にろくでもないことが、男の口から飛び出す。

「死ぬぜ。お前を犠牲にして、賢者の石ってスゲーのを作らなくちゃならねーんだよ。多分、痛みとかはほとんどねーんじゃねえかとは思うけど、ま、諦めろってことだ」

 男があまりにもさらりと言った所為で、言葉の意味が呑み込めなかった。

「死…………ぬ……?」

 無意識のうちに、七海は言葉を反芻していた。

 にわかには信じがたい話だったが、誘拐された事実、見せつけられた魔術、異様な状況、何よりあまりにもどうと言うことはないという男の口ぶりが、却って無情なまでの現実味を与えていた。

「酷いと思うか?思うよな。理不尽だよな。けど世の中ってのは理不尽なんだよ。生まれつき魔術師な奴も居れば、永遠に魔術と縁がないまま死んでゆく奴も居る。一生ってのは理不尽に始まって理不尽に終わるんだ。お前がたまたま変わった体質持ってて、俺らがたまたまそいつを利用して叶えてえと思ってる野望を持ってた。そんでもって、俺らがお前を見つけちまった。結局そうなっちまったのは、宿命ってもんなんだよ」

 全て言い終えたのか、小声で「よいっしょぉ」と呟きながら立ち上がると、くるりと踵を返し機材の方へ戻って行った。

 遠ざかる後姿を眺めながら、実感のない"死"を指をくわえて待つだけの身となった七海の頭の中では、懐かしい思い出が浮かんでは沈んでゆく。

 パパとママの笑顔や遊園地に行った思い出。

 両親と、倉田家のおじさんとおばさんと一緒に行ったキャンプ。

 だけど、思い出の真ん中にいつも居るのは、締まりのない顔をして、時折顔をくしゃくしゃにして笑う――大輝だった。

(……大輝、は来てくれないよね。あいつ根性なんてないし、それに……嫌われちゃったし……)

 視界がぼやける。

 この涙が死への恐怖によるものなのか、それとも大輝に嫌われてしまったショックによるものなのか、七海にはわからなかった。

 だけど心細くて、辛くて、悲しくて――涙が溢れてきた。

 七海は静かに体を丸めて、嗚咽を殺し、泣いた。

 後ろ手に縛られている所為で、涙は拭うことも出来ずにただ零れ落ちて行く。

(あーあ……こんなことならあのバカに――大輝に、好きって、言っておけばよかったなー……。でももうフラレちゃったみたいなもんかぁ……)

 どことも知れぬ場所で一人惨めに泣きながら、七海は冷静にそんな自分を眺めながら心残りを思い返していた。

 まるで切り離されてしまったかのように頭は覚めていたが、涙と声を抑えることはできそうになく、ただ大輝の顔を思い出しながら、泣いた。



「……なんだとぉ?」

 右目を細め、眉を顰めながら、男は報告に耳を疑った。

「と、とにかく、三田からコールが来てるんです。一宮さんに直接って……」

「直接だぁ?」

 リーダーの男、一宮は嫌な予感がした。これまでの経験上、自分への緊急連絡がいい報告だった試しがなかったからだ。

 七海を誘拐してから少し経った頃、誘拐現場である公園で異常な波動が検知された。

 質の悪い検知器具であるため誤作動の可能性が高いとは思ったが、万が一の場合を考慮し、念のため部下を送り込んで確認させることにしたのだ。

 それなりに腕が立ち冷静な判断力を持つ近藤をリーダーにして組ませたスリーマンセル、さらに、万が一何か起こった際の偵察要員である三田を含めた四人。

 その三田から連絡があったということは、間違いなく何かあったということだ。

 部下から渡された携帯電話を受け取ると、

「おい、俺だ。トラブルか?」

 と、棘のある口調で尋ねた。

『あ、一宮さんっ!みっ、三田です……!』

「んなことぁわかってんだよ。いーから要件を言え、要件を」

『それが、なんて言ったらいいか……例の異常値を観測した公園に向かう途中、変な奴らに遭遇しまして……』

「変な奴らぁ?」

 要領を得ない回答に、思わず一宮は甲高い素っ頓狂な声を返す。

『その、二人組で……。一人は緑色の鎧というか、戦隊もののヒーローみたいな恰好の、子供みたいな奴でした。もう一人は白衣のじいさんです。二人とも妙にすばしっこくて……』

「で?」

『で、ですねぇ……その二人組が近藤達に気が付くと、近くの公園に逃げ込みまして……その……』

 なぜだか三田は妙に言いよどむ。一宮は段々とイライラし、語気が強まる。

「なんだっつーんだ、とっとと言え!」

『は、はい、すいません!その、近藤達が公園に入った瞬間に…………中の連中と共に、姿が消えたんです!』

 三田の予想外の答えに、一宮は一瞬黙り込む。

「……ちょっと待て。その変なチビと爺様が、近藤達に気が付くと逃げ出して、公園に逃げ込んだと。で?そいつら追って近藤達が公園に入ると、いきなり全員消え去ったって?」

『は、はい。そんな感じです』

「消えたってのは、その場に居た奴らだけで、公園そのものは普通にあるんだな?」

『あの、はい、そうです。あ、でも入ろうとしたら見えない壁があって……』

「それ先に言えよ馬鹿野郎!!」

 まごつく三田を怒鳴りつける一宮の態度とは裏腹に、心中では極めて冷静に謎の敵を分析していた。

(つまり、公園丸々の結界構築ってことか……しかもただの障壁じゃねえ。内部風景が問題なく見えてるってことは、透明化じゃなくて表面に元の景色を投影してる可能性が高い……。十把一絡げの魔術師じゃどっちか片方すらできやしねえ。シャレにならないレベルの魔術師だ。一体、何モンだ?そんな奴が一体、何の目的で俺たちと敵対している?)

 考えようにも、現状あまりにも情報不足だった。

 一宮はちらりと横目で、遠くで小刻みに震えながら体を丸めている七海を見る。

(……おそらく目的は俺らじゃなくて、あの"音叉"のガキだろう。どこかで計画が漏れたか……あるいはその二人組もガキに目ぇ付けてたか。どのみち敵には違いねえ、が……敵対するにはぶっちゃけ荷が重いな。かといってみすみす儀式と"音叉"をくれてやるのは、あまりにも惜しい。また儀式と"音叉"を一から探してたら、一体どんだけ時間かかるかわかりゃしねえ。……急誂えじゃ質は落ちるだろうが……賢者の石が一つあれば、それだけでクソ有利だ)

「……まあいい。とりあえず変化があったらまた連絡しろ」

『………………』

「ん?おい三田。聞いてんのか?」

『…………ょう……』

「ああ?なんだって?」

 聞き取りづらいが声らしきものがしたかと思うと、急にザザッという雑音が入り、一宮は思わず顔をしかめた。

 何かおかしい。そう思い、とにかく耳を澄まして状況を聞き取ろうとすると、

『――ぎぃぁあぁぁああぁぁッ!!』

 絶叫がスピーカーを震わし、一宮の耳をつんざく。

 あまりにも悲痛な叫びは、紛れもなく三田のものだった。

 一宮の近くに居た部下たちにもその異常な声が届いており、皆一様に驚きのあまり作業の手を止めて彼を見ていた。

 電話の向こうに広がる凄惨な光景の姿を捉えるべく、普通なら耳を離したくなるような状況にありながら、逆に些細な音も聞き逃さないように耳を近づけ、音量を最大まで上げた。

『……しょは……?』

 この声は見たのものではない。老人のようである。おそらくこの声の主こそ報告にあった白衣の老人だろう。

 何を言っているのかは聞き取れないが、状況からすると尋問か何かだろうと一宮は予想した。

『……ゃ、だ……ぃぃいゃぐぁあぁああぁぁあぁぁぁッ!!』

 再びの絶叫。

 間違いなく三田の拷問の真っ最中だと確信する。

(あいつじゃ俺らの情報ゲロっちまうだろーな……いや、この声じゃその前に死んじまうんじゃねえか?……いや、待て待て……三田がとッ捕まってるってことは……間違いなく近藤たちはやられちまったな)

『……ん?』

 老人が何かに気が付いたらしい。

 その声の直後、通話が切れてしまった。どうやら電話を切ってしまったようだ。

「ちっ……」

 一宮は舌打ちをしてから乱暴に携帯電話を部下に突き出すと、

「椛島ぁっ、田所ぉっ!ちょっと来い!」

 大声で名前を叫んだ。

 すると、ベリーショートの男と眠たそうな目の男の二人が、小走りで一宮のところへやってきた。

「何スか」

「仕事っす?」

 ほぼ同時に二人は尋ねる。

 一宮は交互に目をやり、それから、

「……さっき調査に送った近藤達がやられたっぽい」

「!!」

 二人の顔が驚きに染まる。しかし一宮はあくまで冷静に続ける。

「お前ら、その現場行って何かないか探して来い。あいつらが生きてるようなら連れ帰ってこい。死んでたら……あー、面倒だからそん時も持って帰ってこい。ただし人目があったら無視していい。野次馬のフリして遠くから見るだけでいい。怪しい奴がいたらぶっ殺していい」

「……ウッス」

「おっほ、久々に戦えそうっすかぁ」

 ベリーショート、椛島は小さく頷いた。一方の田所は一転して嬉しそうに顔を綻ばした。

「ちなみにどんな奴ッスか?」

「三田の話じゃ緑の鎧だか特撮のヒーローだか、とにかく変な格好の緑のチビと、白衣のジジイだ。実力はわからんが、雰囲気相当ヤバい。とりあえずあと二人、適当に連れて行け」

「ウッス」

「了解でーす」

 二人が思い思いに返事をし去って行くのを見届けた後、一宮はまた部屋中に聞こえるような大きな声で叫ぶ。

「予想外のトラブルが起こった!予定を早めてこれから儀式をやる!儀式の準備を急ピッチで整えろぉッ!!」

 一宮の声に急き立てられ、広大な石室は慌ただしく動き出す。

 部屋の片隅でうずくまる七海は、ただ泣き続ける――。



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