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BLUE SKIES  作者: kimra
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ガラスのバリア(後編)

 大きな窓から入る光で明るいホテルの一室で、少年は慣れない服を着せられマネキンのように立っていた。その様子を眺める栗色のショートカットの女性は、窓際に置かれた白い三人掛けのソファで足を組んで座っている。値踏みするような真剣なまなざしをその少年に注いでいた。

「健斗、旅出てから背伸びたんじゃない? 少し詰めなきゃと思ったけどちょうどいいじゃん」

 サクはにこりと笑うと立ち上がって少年の隣に並ぶ。健斗が背筋を伸ばして満面の笑みを浮かべた。

「やっぱり。なんか最近、服小さくなったと思ってたの」

「ってか、買ってもらいな。涼は気付かないのかしら。毎日一緒にいて」

 指を顎に当てて怪訝そうに眉を寄せるサクに、少年はあっけらかんと言う。

「涼はそういうの気付かないよ」

「本当、鈍感というか、そういうとこ残念だな」

 大袈裟に肩をすくめてみせる彼女に、健斗は声を上げて笑った。

 灰色の髪の少年が着替えて洗面所から出てくると、サクはまたソファに座っていた。姿勢よく足を組んで座っている様子はリオを思わせる。健斗は珍しく慣れない手つきで服をハンガーに掛けようとしたが、途中で彼女に取り上げられた。

「健斗。もし、あんたがここで仲間たちと一緒にいたいならそれでもいいんだよ」

 丁寧にスーツを整え、コートハンガーに掛けながらサクが言う。少年は予想外の言葉に、今しがた座ったベッドから弾かれたように立ち上がった。

「な、なんで」

「本当は会いに来たいって思ってたでしょ。バレないと思ってた?」

 栗色の髪の女性はゆっくりソファに腰を沈めると、視線の先で薄い眉を八の字に寄せる息子を見ながら足を組む。そして毅然とした口調で言った。

「健斗」

「はい」

 悪いことをした子供のように立ち尽くしたまま、灰色の髪の少年は窓際の女性の様子を伺う。彼女は彼を見つめたまま優しく笑った。

「別に悪いことじゃないでしょ。聞いても否定するだろうから聞かなかったけど、言ってもよかったんだよ。ここに来たいって」

「でも、でも」

 少年はサクと視線を合わせず、弱り果てて口ごもった。

 思って欲しくなかった。大切に守られているとわかっていたから。ダメだなんて、なにか足りないなんて思って欲しくなかった。そう口に出したかったが、うまく言える気がしなかった。

「ねえ、健斗」

 サクは立ち上がると健斗の前に立つ。彼は困ったように眉を寄せて、珍しく俯いていた。

「健斗の人生なんだから、行きたいとこに行って、居たいとこに居ればいいんだよ。ただ、あたし達も寂しいから、たまには会いにきてよ。ね」

 彼女は笑顔で少年の灰色の髪をくしゃくしゃと撫ぜる。健斗は何も言わず、ただ一度頷いた。





 栗色の髪の少年と入れ替わるように、真広とシロが戻ってきた。唯は駆け寄ってくる二人を見るふりをしながら、長屋の入口で見送る女性に目をやる。そこでは藤河が笑顔で手を振っていた。

「誰かと話してましたか」

 色素の薄いすらりと背の高い少年は、周りをゆっくりとした動きで見回しながら問う。痩せぎすの少年は藤河が長屋の中へ戻っていくのを横目でちらちら見ながら答えた。

「ああ、涼だよ」

「涼さん。そう、ですか」

 シロは視線を大通りの方へ向けると、少し寂しそうに笑った。

「それより。いずみさん、どうだった」 

 唯が少し前のめりになって、険しい顔で仲間の二人を見る。二人は顔を見合わせた。

「いつもと変わらない、ですな。唯も来ればよかったですのに」

「オレが今まで失敗したのは駆け引きしなかったからだ。オレはひとつ上のテクニックを使うことにした。今は引くんだ」

 少年は眉間に深い皺を刻み、しゃがれた声で呻くように言う。少女が呆れたように切れ長の目を細めた。

「唯にそんなレベル高いこと無理だって。先生、笑ってたよ。全部バレてるよ」

「えええ。嘘、だろ。んなわけあるかよ」

 唯は信じられないというように頭を抱えると、つい先程まで想い人が立っていた長屋を見つめる。その様子を見て、真広とシロは顔を見合わせて笑った。




「涼、さっきのって友達?」

 母親の言葉に少年は軽く首を傾げた。すれ違う人を避けながら進む。そんな歩き方に随分慣れてきた。

「いや、健斗の孤児院の仲間」

 自分の友達、とはとても言えなかった。どの瞬間から友達と呼ぶんだろう。どこから親友と呼んでもいいんだろう。彼にはとても判断できない。軽率なことは言えない。

「健斗の」

「うん。怖そうだけど結構いい人だよ」

 流香は自分の方を見ることもなくしゃべる少年の横顔を見て、「そうなの」とだけ言った。涼は姿勢よく歩を進めながら、大きく息を吐くと進行方向を向いたまま話す。

「母さんはおれが旅すること、反対だったよね」

「当たり前でしょ。心配よ。危ないことがたくさんあるんだもの」

 守られていた。それが、当たり前だと思ってた。守ることなど考えもしなかった。

 涼は長い亜麻色の髪を掻き上げながらため息を落とす母親を一瞥する。それでも、結局彼女は許してくれたのだ。旅立つ日、「いってらっしゃい」と笑顔で送り出してくれた。

「おれ、旅に出てよかったと思ってる。いろんな人に会ったし、おれは狭い世界にいたって知った」

「そう。それなら、断腸の思いで送り出したかいがあったわ」

 流香は肩をすくめて自嘲気味に笑う。涼は前を向いたまま「ありがとう」と小さな声で言った。





 ガラス玉のようなバリア

 ぼくを守るバリア

 いつか

 誰かの分まで傷を受ける勇気を

 誰かを守るバリアを

 そんな覚悟を

 持てる自分に







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