第4話(最終話) きらきらでピカピカのあなたへ
アシカ選手になる予定の、デッカこと、チッチャは言っていました。
泳ぎの楽しさの先には、苦しみやつらさがあって、その先にまた、すごい楽しさや喜びがあると。
私は泳ぎの苦しみやつらさなんて知りません。
泳げば、いつだって、楽しいですから。
そこで、私は、カッパーさんの言葉も思い出しました。
何かを手に入れると、何かを失うものだよ。
新しく手に入れた何かは、いいものかもしれないし、悪いものかもしれない。
もし、私が、泳ぎの楽しさの先の、苦しみやつらさを知れば、何かをどんどん失っていくのでしょうか。
それは、私にとって、いいことなのでしょうか。
それとも、悪いことなのでしょうか。
今、私にはわかりません。
でも、私は、泳ぎの楽しさの先にある、苦しみやつらさ、そして、その先にまたあるという楽しさや喜びを知りたい、味わってみたいと思いました。
脳みそ鉄筋コンクリートの大人リクちゃんに、私も負けていられませんから。
さらに西に傾いた夕日は、その赤みを濃くしていました。
きれい。
「俺も、がんばる」
リクちゃんは澄んだ瞳で、右の手を差し出してきました。
握手です!
私たちは、互いの右の手をしっかりと、にぎり合いました。
私の頭の中は、また、きらきらでピカピカになりました。
「はい」
リクちゃんは、左手で持っていたナナフシを、私の右手の甲に乗せてきました!
「きゃーっ!」
私は思わず、右の手を引っこめ、何度も何度も、高速に払いました。
ナナフシは、緑の草の上に落ちました。
リクちゃんは、大きく目を見開いて、固まっています。
私は、心臓、ドカドカです。
「もしかして、アユちゃん、ナナフシ、好きじゃないの?」
リクちゃんは、私の顔を覗きこむようにして訊いてきました。
私は、大きく、うなずきました。
「じゃあ、アユちゃんには、これを、あげる」
リクちゃんは、短パンのポケットを探りだしました。
えっ……、なあに?
川の中でリクちゃんを後ろから抱きしめた感触が、私によみがえってきました。
身につけられるようなものをもらえたら、私、うれしいです。
胸のドカドカが、ドキドキになっていました。
「はい」
リクちゃんは、ポケットの中から、何やら、取り出しました。
黒くて小さな楕円形の……。
虫です!
ゲンゴロウ!
いつからポケットにいれてたの?
「いらなーい!」
私は、首を横に、何度も何度も、振りました。
胸のドキドキは、またナナフシの時と同じドカドカになっていました。
「アユちゃん。ゲンゴロウも、好きじゃないの?」
リクちゃんは、目をぱちくりさせます。
私は、何度も何度も、うなずきました。
「そうなんだあ。俺は、ゲンゴロウ、大好きなんだけどなあ」
リクちゃんは、真顔で言います。
やっぱり、リクちゃんは、全然、大人になんか、なっていません!
でも、私は、こんなリクちゃんが、好き、好き、大好きなんです。(了)




