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ちょっと天然の女子はきらきらでピカピカになる  作者: ついざきまさひろ
第四章 丼物まで提供する、料理も接客も一流のレストラン

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第3話 待ちくたびれたでしょう

 私は、脚が妙につっぱるような気がして、ポケットから一万円札を取り出すと、急いで、一回、二回と折りました。

 

 そうして、またポケットに戻しました。


 その場で足踏みしてみます。


 よし! 


 もうピンピンの脚ではありません。


 その場で、小さく一周もしてみました。


 よし! 


 すっかり歩きやすくなりました。


 と、いつの間にか、店の中は、前よりも、暗くなっているようです。


 店の奥のほうなんて、真っ暗で、何も見えません。


 もし、誘拐犯に「ちょっとこっちへ来い」なんて言われて、店の奥へと連れていかれたら、私はそのまま誘拐されてしまいそうです。

 こんなに暗かったら、誰も、私の誘拐に気づかないのではないでしょうか。


 スマホを持っていればよかったなぁ、と私は思いました。


 ━━誘拐されるなら、アユよ━━。


 お姉ちゃんの声が、ぼうっとした私の頭の中でします。


 やっぱり、お姉ちゃんは頭がいいなぁ、と私は思いました。


 帰ったら、お母さんに、スマホを買ってもらおうかしら、と思いました。


 ルビーのような、きらきらしたスジコも見ることができます。


 でも、私、やっぱり、それほど、スマホがほしいというわけでもないんです。


 一日中、スジコは見ないし、毎日、誘拐されるわけでもないし。


 だいたい、一日中、スジコを見たり、毎日、誘拐されたりしていたら、月々のスマホ代がすごいことになっちゃうんじゃないかしら。


 私、スマホの料金体系なんて、全然、知らないんですけど、そのへんのところ、どうなんでしょう。


 ……。


 ひょっとして、冷房の設定温度を、上げたんでしょうか。

 店に入ったばかりは涼しく感じたのに、今は少しも涼しくありません。

 喉もカラカラです。


 あ! そういえば、水分補給を忘れていました。


 ━━喉が渇いたと思う前に、飲みなさい━━。


 いつも、お母さんに言われて、気をつけているのに。


 水って、自分で意識して飲もうとしなければ、簡単に飲み忘れてしまうものなんですよね。

 失敗しました。


 あの男の人が戻ってきたら、お水をもらおうっと私は思いました。


 そうだ、リクちゃんもお店の中に呼んで、お水を飲ませてあげましょう。

 きっと、リクちゃんも、喉が渇いているはずです。


 うす暗い店の中、お客さんは、まばらでした。

 ウェイターやウェイトレスが店内を行き来する姿もありません。


 田舎の村で、おしゃれなお店の経営は難しいんでしょうか。


 観光客もチェリー川に一年を通して来るわけではありませんからね。


 ドン・ジョンソン、つぶれちゃうんじゃ……。


 私は心配になりました。


 それとも、代官や政治家や企業家がここで悪だくみをする時には、客が少ないほうがいいのでしょうか。

 

 いえ、悪だくみをするにも、客が大勢いたほうが目立たないでしょう。

 木を隠すなら森の中というくらいですから。


 やっぱり、悪だくみをするにも、普通に食事をするにも、たくさん客が入ったほうが良いんです。

 そうすれば、ドン・ジョンソンは儲かって、食材の質を落とすこともなく、おいしい料理を提供し続けることができるでしょう。


 私の心臓のドカドカは、落ち着いてきました。


 ━━脳が冴えている時は、体も冴えるのよ━━。

 お姉ちゃんが言っていました。


 私の脳、冴えているのかしら……。


 と、コブラなんとかを、かけられたのを思い出して、ちょっと、イラっとしました。


 それにしても、あの男の人は、なかなか戻ってきませんねぇ。


 ずいぶん、長い時間が経ったような気がします。


 もしかして、店の奥で、何か、揉めているのでしょうか。


「あなた。待ちくたびれたでしょう」


 女の人の声がしました。


 振り向くと、うす暗がりのテーブル席に、赤いワンピースを着た若い女性が、細く長い脚を組んで座っていました。


 おひとりさまです!


 肌は透き通るように白くて、口紅とマニキュアとハイヒールは赤。


 それらの赤が、ワンピースの赤とバッチリ合っていました。


 きれいなお姉さん……。


 やっぱり、こういうすてきなお姉さんが、ドン・ジョンソンには似合うんだわ、と私は思いました。


 私と同じ、おひとりさまだから、声をかけてくれたんでしょうか。


「スジコ丼を待っているのね?」


「そうなんです」


「スジコはおいしいわね」


「私、食べたことないんです」


「あそこのテーブルの二人が食べようとしているのが、スジコ丼よ」


 お姉さんが顔を向けた先のテーブルには、大学生らしきカップルが座っていました。


 二人の前には、大きな丼がありました。


 男性がすくった大きなスプーンには、ルビーのように輝くスジコが、こぼれんばかりに載っています。


 男性は、それを鼻先にゆっくりと持っていきました。


「うっわ! くっさっ! スジコって、なまぐっさっ!」


「もぉうっ! そういうこと言うの、やめてよ」

 女性が顔をしかめて言います。


 男性は、にやにやしてから、スジコを口に運びました。


 女性も口を大きく開けて、スジコを、頬張ります。


 大食いカップルなのかもしれません。


 と私が思う間もなく、

「くっさ!」

 女性が、大きな丼に、スジコを吐きだしてしまいました。


「なっ! 俺の言った通りだろ? 生臭えんだから」

 

 男性が、笑いだして、女性も、笑いだしました。

 

 仲は良さそうです。


 でも、私は、とても不安な気持ちになりました。

 ドン・ジョンソンって、新鮮さがウリのはずなのに、「くっさ」って……。


 

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