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ちょっと天然の女子はきらきらでピカピカになる  作者: ついざきまさひろ
第三章 イケメンの笑顔に思考停止して、言われるがままに

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第5話 ピン札、かっこいいー!

「ちょっといい?」

 若いお母さんが、私に向かって言いました。

「そのかわいい水着、どこで売ってるのかと思って、聞きにきたの」


 え? 


 私は、一瞬、わけがわかりませんでした。


「とっても、かわいいフグちゃんだから、あたしも、この子も、ほしくなっちゃって。どこで売ってるの? その水着」


 私は、くるりとお尻を向けて、女の子とお母さんに、フグを見せました。


「わあっ! かわいい!」


 若いお母さんが言って、小さい女の子は、その愛らしい顔を、ぱっと輝かせました。


 天使のようです!


「これ、お母さんが、いえ、母が、南市の百貨店で買ってきて、つけてくれたんです」


「虎部具百貨店ね。すごくかわいいわ。あたしとこの子も、真似して、つけちゃってもいいかしら?」


「はい! つけちゃってください。あ! つけてもらえたら、いえ、つけていただけたら、私もすごくうれしいです」


「チリちゃん、よかったね」


 若いお母さんは、娘のチリちゃんの顔を覗きこむようにして言いました。


 チリちゃんは、きらきらした目で、私のお尻のフグを見ていましたが、私と目が合うと、少し、はにかんでから、また天使のように、にっこりと微笑みました。


「お姉ちゃん、ありがと」

 たどたどしく言います。


 何て、かわいいんでしょう! 


 私はチリちゃんの前で膝を折って、しゃがみました。


「こちらこそ、チリちゃん、ありがと」


「あたしの友だちにも、虎部具でフグちゃんを買ったこと、教えてあげてもいいかしら。やっぱり、フグちゃんの水着、ほしがってたから」

 若いお母さんが笑顔で言います。


「はい。おそろいで、私、うれしいです」


 私は、立ち上がると、若いお母さんにぺこりと頭を下げました。


 それから、若いお母さんとチリちゃんは、友だちらしい母子連れが集まっているほうへ、ゆっくりと歩いていきました。

 チリちゃんは、ときどき、後ろを振り向いては、私に、ひらひらと手を振ってくれました。


「やっぱり、かっこいいのかしら?」


 私は、お姉ちゃんを見て、それから、リクちゃんを見ました。


「うん。かっこいいって」


 リクちゃんは、当然だというように、うなずいてくれました。


「お姉ちゃん、かっこいいって」


「よかったじゃない」


 お姉ちゃんは、けろりとして言います。


 なによ……。

 かわいくて、かっこいいフグちゃんを、ずっと笑いものにしていたくせに! 


 都合のいい記憶喪失です! 


「アユ、気分もよくなったところで、スジコ丼、買ってきてよ」


 ……。


 やっぱり、都合のいい記憶喪失のようです。

 スジコ丼のことはちゃんと覚えています。


「いいですよ、俺一人で、ドン・ジョンソンに行ってきますから」


 リクちゃんは、一歩前に出て言いました。

 足元の石がごろりと音をたてました。


「リクちゃん。私も行く」


「アユちゃんは泳いでいていいよ」


「買って、戻ってきてから、まだまだ泳げるもん。大丈夫」


 リクちゃんを一人で行かせることなどできません。


 それに、私は、チリちゃんと彼女のお母さんから、すてきなエネルギーをもらっていました。


 グリズさんは、大人が持つような黒革の長い財布から、一万円札をだして、それをリクちゃんに手渡しました。


「おまえに、これを預ける。いいか、俺のスジコ丼を、おまえに託すからな」


 何やら、すごい言いまわしです。


 でも、リクちゃんは、グリズさんの言うことなんて、まったく聞いていなかったようです。

 

 リクちゃんの目は、手にしたお札にくぎ付けでした。


「すげえ! ピン札!」


 興奮して、両手でそれを掲げ、透かし見たりしています。


「かっこいい!」


 もうっ、リクちゃんたら……。

 お子ちゃまなんだから……。


 私は、おかしくなりました。


「アユちゃん、ほら、これ、ピン札だよ、ほら」


 リクちゃんは、私に、お札を持たせようとします。


 しょうがないわねぇ、無邪気なものだわ……。


 私は、苦笑しながら、それを手にしてあげました。


「すごーい! かたーい!」


 お、思わず、声が出てしまいました!


 だって、本当に、かたかったんですもの!

 

 私、こんなにかたいピンとしたお札、初めてです!


「本当に、ピンピン!」


「だろう?」


「ねえ、ねえ、リクちゃん! 新しいお札のにおいがするよ!」


 私は、お札を、リクちゃんの鼻先に持っていきました。


「うわっ! すっげぇ、するー!」


 リクちゃんは、空を仰ぎ、叫びました。


「ピン札、かっこいいー!」


 私が笑いだして、リクちゃんもげらげら笑いました。


「もうっ! あなたたち、早く、買いにいってよ」


 あきれたような声をだしたのは、お姉ちゃんでした。


「リク! 俺のスジコ丼、おまえに託したからな!」


 グリズさんは、少し低い声で、さっきと同じことを言いました。


 たぶん、リクちゃんがさっき聞いていなかったと気づいたんでしょう。

 グリズさん、ちょっと、目が怒っていました。

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